第3話



 「“フローレン家”って、政府に摘発されたんじゃなかったの?なんで彼が…?」



 ルシア・フローレンは、鳳凰院でも有名な存在だった。


 何せ、彼は史上最年少で鳳凰院に入学し、学業成績は極めて優秀。


 おまけに“いわく付き”とあった。


 周りからすれば、”普通の生徒”でないことは一目瞭然だったのだ。


 多くの生徒が集う学生寮と言えど、彼に近づこうと思うものはいなかった。


 それはやはり、彼が「フローレン家」の人間であるということが原因だった。



 「おっす!ルシア」



 そんな周りの状況など構いもせず、気軽に彼に話しかけるものがいる。


 鳳凰院第36期生、“クラス3“所属のクラウス・ヴァンガード。


 オーシャンズタウン出身の15歳の青年で、ルシアとは同郷の仲間だ。


 彼らは子供の頃から一緒だった。


 もっとも、2人が生まれた境遇は、似ても似つかないものではあったが。



 「何?」



 ルシアは気だるそうに返事をする。


 彼は絶賛読書中だった。


 最近ハマっている雑誌、「キャンプカーマガジン」に夢中だった。


 そのためにわざわざテラス席を選択していた。


 心地のいい日差しが当たる、静かな場所を。



 「そんなもん読んでねーで、さっさと行くぞ」


 「まだ時間じゃないだろ」


 「あと30分しかねーじゃねーか」


 「あと“30分も”、な?」



 2人はこれから訓練場に向かう予定だった。


 バトルロードに向けた追い込みの練習。

 

 鳳凰院の校舎の中には、「バトルシュミレート」と呼ばれる戦闘用の訓練場がある。


 学生にとっての人気場で、場所にも限りがあるため、基本的には予約制となっていた。


 “あと30分”というのは、そういう意味だった。


 ルシアの方はあまり乗り気ではなかった。


 予約を取ったのはクラウスだ。


 ルシアは大の練習嫌いだった。



 「今日こそはやっつけんぞ。いいか、俺が先手を取る」


 「ご勝手に」



 2人には師匠がいる。


 師匠であり、担任の教師。


 クラス3の「スキル科目」担当、ジークハルト・レインズ。


 2人が入学してきた頃から、彼は2人の“教育係”として学校側から依頼されていた。


 ——そう、主に、ルシアの教育係として。

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