第2話
【鳳凰院 学生寮 1階メインホール】
「…ねえ、聞いた?彼、出てるんだって。バトルロードに」
ここは鳳凰院の敷地にある訓練生用の学生寮で、多くの学生が集う場所だ。
メインホールには「大書庫」と呼ばれる巨大な本棚がいくつも並んでおり、中央には展望台へと続くガラス張りのエレベーターが、吹き抜けの空間を陣取るように鎮座している。
鳳凰院に通う学生は、そのほとんどが傭兵になるために励んでいる学生たちだが、鳳凰院の大元にある“イスティア大学院“の生徒も多く見られる。
「鳳凰院」は、元々はいくつかの分野を学ぶための総合的な学術院として名を馳せてきた歴史があり、この「大書庫」と言われる有名なホールはその名残りだ。
今となっては“傭兵養成専門学校”としての側面が強く、傭兵を目指す学生にとっての「名門」となっていた。
中でも、「ファイアウルフ」と呼ばれる政府直属のエリート集団に憧れる若者は多く、生まれ持った“能力”を開花させようとする訓練生の修練場にもなっていた。
ルシア・フローレンも、その1人だ。
「確か彼、“暗殺家一家”の血筋なんだって?」
ルシアは「フローレン家」という一家で生まれ育った子供だった。
フローレン家というのは、ガルバディア領の西にあるバージェス海沿岸の港町、オーシャンズタウンの裏の市場を牛耳っていると言われている一家で、『ブルー・ダガー』と呼ばれる秘密結社的犯罪者集団を形成しているマフィアだった。
暗殺家稼業を営む一方、政府による彼らの活動の調査では、賭博場、売春宿、公共輸送機関の運転手、船頭、物乞い、売春婦、盗賊、ウェイター、ポーター、市場の商人、果物の行商人、小商人、宝くじの当選者、質屋から恐喝によって金を徴収し、全ての密輸業を支配して不正な金を儲けていることが判明している。
もっとも、彼らの活動は年々縮小しており、政府による大規模な摘発にあって以降は、組織による街の影響力は数十年前に比べて大幅に減少している。
ただし、噂によれば、オーシャンズ・タウン市街地の治安維持の任務を、“地下政府組織”として部分的に分け与えられているんだとか。
この噂が立ち始めたのは数年前からだ。
それこそ、オーシャンズ・タウン市街地の治安の悪化に伴い、市局が管轄する警備隊では対応しきれないという問題が表面化しつつあった。
オーシャンズ・タウン郊外では“魔物”と呼ばれるモンスターが大量に発生し、一種の社会問題にもなっていた。
元々市街地で暗躍していた「ブルー・ダガー」に白羽の矢が立ったのは、“グール“と呼ばれる人型のモンスターが市街地内に現れたことが発端である。
グールは“人間が魔物化した姿”として知られているが、その原因は今もよくわかっていない。
グールとなった人間は理性を失い、言葉すらも発せなくなる。
そして、見境なく人々を襲う。
医学解剖、およびその科学機関において今日も研究が行われているが、これといった成果が得られていないのが現状だった。
一つわかっているのは、グールとなった者の心臓はひと回り以上も肥大化し、血液が黒く“変異”してしまっているという点だ。
そしてその血液の中には、“未知の遺伝子細胞”が含まれていた。
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