第47話 告白
斑所長が壇から下りて、代わりに濃紺のスーツを着た中年男性が登壇した。
「事務局長の冬山と申します。みなさまに当研究所での生活について説明します。みなさまにはここにいる間、プレハブの宿舎で暮らしていただきます。個室を提供いたします。申し訳ありませんが、トイレと風呂は共同です。許可なく敷地外に出ることはできません。外部との連絡にも許可が必要です。外出や連絡が必要なときは、事務局にご相談ください。なお、当地ではスマートホンは圏外です」
「なんだよそれ。ここは刑務所同然かよ」と誰かがつぶやいた。
古井戸自衛官の代理のような角刈りの自衛官が登壇し、「私語は慎んで!」と言った。
「食事はこの研究管理棟の6階食堂で取ってください。朝7時、昼12時、夜6時から給食を提供します。急に人数が増えたので、少々並んでいただくことになりそうです。早急に対応策を検討しますので、しばらくの間ご容赦ください。今夜のみなさまの夕食は、この説明会終了後に提供させていだきます」
冬山事務局長はにこりともせずに説明した。
「娯楽施設も6階にございます。囲碁、将棋や音楽、映画鑑賞、電子書籍を読むことなどができます。テレビや新聞はありません」
外部の情報からは完全に遮断されるわけか。
「運動場ではスポーツをすることもできます。体育倉庫があり、各種球技の道具がしまってあります」
野球の道具もあるかな?
「体調が悪くなったり、なにか問い合わせしたいことがあったりした場合は、研究管理棟3階にある事務局に来てください。24時間、誰かしら職員が詰めております。研究にご協力していただくとき以外、みなさまは自由です。この敷地内でできることに限って、ということになりますが」
「絶対に脱走しようとするなよ。俺たちはできれば銃を使いたくないんだ!」と角刈りの自衛官が言った。
「きみも戦争をしたいのかい、
そう言って、斑所長は自衛官を黙らせた。
「以上で説明を終わります。みなさま、6階食堂へ行ってください。食堂の掲示板にみなさまの部屋割りを表示してありますので、食後にご覧になって、それぞれの部屋でお休みください」
説明会が終わった。
変身生物容疑者たちは階段を使って、ぞろぞろと6階へ上っていった。
「なんだか国はすごいことになっているみたいだね」と僕は言った。
「人間と変身生物の暗闘があるんだろうね」ときみは答えた。
給食は不味くはなかった。
ごはんと鯖の塩焼き、キャベツとトマトのサラダ、わかめと豆腐の味噌汁。
ごはんのおかわりは自由だった。
食べ終わってから、掲示板を見た。
「僕は8号棟の202号室だ」
「ワタシは35号棟の104号室」
「離れ離れだね。いつも隣の家にいたから、寂しいよ」
「ワタシは少し安心してる」
こんな状況だというのに、きみはなぜか微笑んだ。
「実はワタシは前から、自分が変身生物じゃないかと疑ってた。それがはっきりしたら、時根と引き離されるんじゃないかと怖れてた。でも捕まっても、キミと話せる環境にいる。キミと一緒にいる限り、ワタシの人生は暗黒じゃない」
「そうだね。こうなったら、ふたりとも変身生物でいいかも」
「そうじゃなきゃ嫌だよ。時根だけ人間で、ここから出ていったりしたら、ワタシは死んじゃう!」
掲示板を見ていた人たちのほとんどが、きみと僕を見た。
僕たちは顔を赤くして、その場所から逃げ出した。
研究管理棟から外に出て、8号棟と35号棟を探した。
敷地内は外灯が多く設置されていて、明るかった。夜間の脱走を防ぐためかもしれない。
8号棟はすぐに見つかったが、きみの宿舎は奥まったところにあり、少し見つけにくかった。
35号棟の前で、僕たちは立ち止まった。
「明日の朝食のときに会おう」
「うん。時根……」
きみは口ごもった。
「なに?」
「中学のとき、ワタシに告白してくれたよね」
急になにを言い出す?
僕は戸惑った。
外灯の下、きみは耳まで紅潮していた。
「あのとき、きみは逃げ出したよね」
「ごめん。あのころ、ワタシは変身生物で、キミは人間かもしれないと思って悩んでた。時根と恋人になる資格があるのかどうかわからなかった。なんて答えればいいのか迷って、パニックになってしまったんだ。本当は、ずっと前から時根が大好きだった」
「きみ……」
「こんな状況になって、明日なにが起こるかわからないから言う。愛してる、時根」
僕は息を飲んだ。
収容所みたいなところにいるのに、しあわせに包まれた。
「僕も愛してる。きみが好きで好きで堪らない」
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