第36話 中宮北戦
7月12日、僕は家族と朝食を食べた。
「巡也はずいぶんと打撃が上手いそうだが、プロ野球の選手をめざしていたりするのか?」と父さんに訊かれた。
「いや、そんなことは思ってもいないよ」と僕は答える。
本当は少し考えている。
きみがプロ野球の選手になるのなら、僕もなりたいな、くらいのことは。
「なればいいのに。巡也なら普通になれるでしょ」と美架絵流姉さんは言う。
「だめよ。プロ野球の選手なんて、不安定極まりないわ」と母さんは反対する。
「巡也なら軽く億が稼げるよ、お母さん」
「ホントに?」
お金に目が眩む母さん。
「やめてよ、姉さん」と僕は釘を刺す。
今日は地区予選の1回戦がある。青十字高は
「いってきます」
「いってらっしゃい。がんばってね」
家族が僕を励ましてくれる。
きみと共に部室へ行く。
監督と部員全員揃ってから、電車で県営野球場へ向かう。
14時開始の第3試合。きみと相手チームのキャプテンがじゃんけんをして、負けたうちは先攻になった。
中宮北の先発投手は3年の
2メートルを超える長身から繰り出されるストレートが武器だ。
低めに決まると、高低差がすごくて、昔の漫画にあったハイジャンプ魔球のような趣があると一部の人から言われているそうだ。
でも僕は、その低めのストレートを初打席でバックスクリーンに打ち返した。先制のホームラン。
竹藪さんは「あれえ?」というような顔をしていた。
「やったね!」「ナイスホームラン」「さすが時根くんやね」「期待どおりだよ。胸がすく」
ダイヤモンドを1周し、ベンチに戻った僕にみんなが声をかけてくれた。
1回表の攻撃は、さらにつづいた。
能々さんがセーフティバントを成功させ出塁。
雨宮先輩はハイジャンプ魔球風ストレートを打ち損なってキャッチャーフライに終わったが、方舟先輩はサード強襲内野安打。1アウト1、2塁となった。
気合いの入った表情をした志賀さんが左打席に入る。近ごろの彼女は闘志を内に秘め、刹那的なほど野球に賭けているように見える。
竹藪投手にはときどき失投がある。3球目、真ん中に入った甘い球を志賀さんは逃さなかった。綺麗に流し打ちを決めて、レフト前ヒット。2塁から能々さんが生還して、2点目が入った。
なおも1、3塁のチャンスがつづく。レフトがバックホームした隙に方舟先輩が好走塁して、3塁へ進んだのだ。
そして、胡蝶さんのショートゴロの間に方舟先輩が還り、3点目が入った。胡蝶さんに初打点がつく。
「ナイス打点、胡蝶さん!」と僕が声をかけると、ベンチに戻ってきた彼女は、「ありがとうございます。運が良かったです」と言って微笑んだ。
毬藻先輩が凡退してチェンジ。
1回裏、きみは素晴らしい立ち上がり。
低めに速球をズバズバと決め、打者を追い込んでスプリットを投げる。これはわかっていても打てない。三者三振。
2回表にまた僕に打順が回ってきた。今度は左翼スタンドに放り込んだ。4点目となるソロホームラン。
これがこの試合の僕の最後のホームランとなった。3、4打席目は勝負してもらえず、敬遠の四球。
きみは5回まで完全試合という好投。6回以降は草壁先輩が投げ、2ヒット0失点に抑えた。
志賀さんは2安打を放って、みんなから賞賛され、笑顔を見せてくれた。
青十字高は5対0で快勝。
草壁先輩は打撃では振るわず、全打席三振した。
「くそっ、当たればホームランなのに!」と先輩は叫び、部員たちは失笑した。
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