偽善勇者の後日譚

ラ主

取り戻した自由

それは、数年前。

俺は、「勇者」という称号を受け取った。

「称号」。それは、選ばれたもののみ与えられる、強さの証拠。

一見、良さそうに見えるだろう。でもこんなもの、俺は欲しくなかった。

元々、勇者になるつもりはなかった。ただ、人よりも勇者の素質があったから、強制的に「勇者」という称号を受け取り、勇者として生きることになった。

勇敢な者と書いて「勇者」。俺はちっとも勇敢ではない。

それこそ、スライムごときの弱いモンスターでさえ怖がって逃げ出した奴が、果たして勇者と呼べるのだろうか。「偽善勇者」、と呼んだほうがいいのではないか。

俺が何を言っても「勇者になったんだから」という理由で聞いてもらえない。休憩もほとんどなく、この世界を暗くしている魔王を倒すまで、ずっと働き詰めだった。


でも、そんな苦痛の勇者という役割になって、少しは良かったという出来事があった。


「ルキ、おはよう!」


それが彼女、ミルとの出会いだ。

言うのを忘れていたが、俺はルキ。そして、勇者と一緒に道を歩んでいった仲間がミルだ。今...はね。

元々、俺含め4人で魔王を倒す旅をしていた。

しかし、2人は限界が来たのか、俺達が寝ている間にあるものすべて奪ってどこかへ飛んでしまった。


「俺だって本当はやりたくないのに」


それが本音。嫌ならそいつらと一緒に逃げればいいと思うだろうが、そうとはいかない。

俺には、大切な妹がいる。だが、さっきまで隔離されていた。

国の奴らは俺が妹を大切にしているのを知っておいて、俺が逃げ出さないように妹を人質として取ったのだ。

他の奴らはこの事は何も知らない。嫌でも「偽善勇者」として生きていくしかなかったのだ。

だから、毎日が苦痛。そんな中、心の支えになったのはミルだけだったのだ。

彼女も「聖女」という称号を受け取った。でも、彼女も本心でなりたかったわけではない。同じ者同士仲良くなったんだ。

お互いに気持ちが理解し合える存在。二人の相性が良すぎたのも、他の2人が逃げてしまった理由なのかもしれないが。

よく書物で勇者や聖女が書かれているが、あまりにも美化されすぎだ。

生まれつきの能力だけで決められ、その役割で生きていかなければならない。あまりにも理不尽な話だ。


ここまで愚痴をこぼしたわけだが、今俺はミルといっしょに遠いどこかへと逃げている。

何日も歩いてきたが、何も辛くはない。

勇者や聖女として異常にもてはやされ、期待以上の活躍を求められたあの時よりは全然マシだ。

やっと、開放される。


これは、魔王を倒し、国中から称賛された勇者と聖女の後日譚。


―いや、ここからがスタートかもしれないが。

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