第1話

 紅葉の時期、夕焼けと木々が映える夕暮れの通学路に、2人の高校生がいた。



「これ、プレゼント」



 女子の方、みなとはぶっきらぼうに言って、リュックから黄色い紙袋を取り出す。



「えっ、あ、ありがとう……」



 驚きの色を滲ませたまま、駿しゅんはそれを受け取り、リュックに入れる。



「あのさ、なんでプレゼントくれんの?俺、お前に何かあげたっけ?」



 駿は不思議そうに首を傾げた。湊はにっこりと笑う。



「くれたよ。ほら、あの銀杏のしおり」

「ああ。けど、あんなのだけど、良かったの?」

「うん、嬉しかったよ」



 並んで歩く湊は、駿の方を見て微笑みを浮かべた。



「へぇー、あんなの貰って嬉しいんだ」



 駿が呟いた。どちらかと言うと、からかいよりも疑問を含んだ声で。



「別に、誰からでも嬉しいってわけじゃないよ」

「えっ?」



 湊がポツリとこぼした声に、駿は目を見開いて足を止めた。湊も同じく、その場で止まる。彼女の顔を下を向いており、少しだけ、口の端が普段よりも吊り上がっていた。



「なんか、言った?」



 駿は湊に尋ねた。自分が聞こえた声が、聞き間違いかもしれない。そんな思いで。だけど、湊は駿に背を向けて歩き出した。



「え、ちょ、湊!」



 駿は彼女の名前を呼んだ。確かにここから駿と湊が向かう先は違うけど、こんな別れ方はない。



 すると、湊は数メートル歩いた後で立ち止まる。そして、勢いよく振り返った。冷たい風が吹きつけた。湊の髪の毛を揺らして、彼女のマフラーが浮き上がる。枝に残った紅い枯れ葉を落として、秋らしい演出を見せる。



 湊は満面の笑みで駿を見ていた。瞳をキュッと細くして、三日月型に唇を上げて、頬を紅葉と同じ色にして、完璧な笑みで。



「私、好きな人にもらったものなら何でも嬉しいから」

「……へっ?」



 彼女が大声を発して数秒後、硬直していた駿の口から出たのは、そんな、間の抜けた声だった。



「ちょ、それ、どういう……」

「じゃあね。誕生日おめでとう」



 駿が何かを言い終えないうちに、湊は彼に手を振って、道を駆け出した。残された駿は、なんとも言えない余韻にしばらく動くことができなかった。


 

  

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