短編集「バー・ミード」
青切
ショートショート
バー・ミード
その二階建ての店舗併用アパートには、左からインド料理店「タージ・マハル」、中国式マッサージ店「万里」、そして酒場「バー・ミード」が入居していた。
12:00
バー・ミードの常連Aは裏口の鍵を開け、二階へあがる階段を一瞥したのち、薄暗い店内に入り、電気をつけた。
店内は明け方の閉店から片付けられておらず、酒とたばこの臭いが充満していた。
Aはレジの中の金を手早く数えると、帳簿に売り上げなどを記入していった。
それからAはレジ横のメモを頼りに、常連たちのツケの増減をノートに書いた。
最後にAは、自分の名前が書かれた欄に追記した。
そして、自分の財布からお札を出すと、昨日の売り上げと一緒にして、裏口横の金庫へ保管した。
金庫が開かないことを確認したのち、Aは裏口のドアに鍵をかけ、店を後にした。
14:00
バー・ミードの常連Bは裏口の鍵を開け、二階へあがる階段を一瞥したのち、薄暗い店内に入った。
Bは店の入り口のドアを開け、新鮮な空気を店内に流し込んだ。
それからBは、裏口前に置かれていた発泡スチロールの箱を店内に持ち込み、肉や野菜の数を確認したのちに、冷蔵庫へ納めた。
つづいて、製氷機に水を入れ、慣れた手つきで店内の清掃を済ませると、グラスを念入りに磨いてから、入り口と裏口のドアに鍵をかけ、店を後にした。
16:00
バー・ミードの常連Cは裏口の鍵を開け、二階へあがる階段を一瞥したのち、薄暗い店内に入り、電気をつけた。
Cはカウンターの中に入り、冷蔵庫の中身を一瞥すると、手際よく料理の下ごしらえを始めた。
最後に塩むすびを二つ握り、カウンターの端に置くと、裏口のドアに鍵をかけ、店を後にした。
17:00
バー・ミードの常連Dは裏口の鍵を開け、二階へあがった。
しばらくすると、Dの大声が店内にも響いた。
「ママ、起きて。開店の時間だよ」
十分後、シャワーの音が微かに二階から聞こえた。
18:00
開店。バー・ミードのママは、カウンター席の隅に坐り、塩むすびをもぐもぐと食べていた。
カウンターの中にいた常連Eが白ワインのグラスをママの前に置くと、他の常連たちが次々とEへ酒の注文をした。
常連たちが飲めや歌えの大騒ぎをしている間、ママはすみっこで酒をあおり続け、ときどき、音痴な歌をうたった。
そして、ママがうたたねをはじめるとその日は閉店であった。
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