ほんのなかに
一の八
ほんのなかに
「あの、すみません。」
僕は、恐る恐る声をかけた。
高校生くらいだろうか。机の上にマックの袋を広げて、何かをしている様子だった。
「あっ!」
「はい?何ですか?」
たまたま通りがかっただけなので、少年とは面識がなかった。
「あの、すみません。マックを食べているところを見て、美味しそうだなと思って。図書館で食べるのは珍しいので、一口味見させてもらえませんか?」
少年は驚いた表情で僕を見た。「えっ?何でですか?嫌です。」
「いや、違うんです。ただ、こんな静かな場所で食べているのを見て、特別に美味しいのかと思ってしまって。」
「なんですか?」
「図書館で食べるって、なかなかできないことだから、どんな味がするのか気になってしまって。お金なら払いますから、一口だけでも。」
「気持ち悪いな、なんだよお前。」
「気分が悪いなら、残りをもらいましょうか?」
「お前が気持ち悪いんだよ!どっか行けよ!マジで!」
静かな図書館で少年の声が響いた。
「まぁまぁ、そう怒らずにね。もし体調が悪いなら、図書館の人に伝えておくよ。」
僕は、少年の目を見て言った。
「いや、やめろよ。迷惑だから。」
「迷惑?何でですか?」僕は、当たり前のように聞いた。
「別に体調悪くないし、普通にマック食ってるだけだし。」
「なるほど。君は図書館でマックを食べるのが普通なんだ。ありがとう、知らなかった。自分の子供にもそう伝えておくね。あ、そうか、学校にも伝えた方がいいかな。君の学校では、図書館で食事することが普通なんだって。」
「いや、やめろよ…やめてください。」
少年は少し泣きそうな顔で言った。
「大丈夫、ちゃんと伝えておくから。」
少年は、急いで荷物をまとめ、その場を去っていった。
僕は、少年に別れを告げた。
帰り際、図書館を出ようとすると、図書司書の人が静かに会釈をしてきた。
僕は、図書司書に薄く笑みを浮かべて後にした。
ほんのなかに 一の八 @hanbag
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