日陰者の俺なんかに毎日驚きの交際の頼み方をしてくるんですが?

狂歌

第1話交際と木の下で

陰獅露かげしろ先輩!」


 桜の木の下で告白……恋愛物の話ではよく使われる展開。

 一昔前の某メモやアニメで使われていたが、現代ではあんまり使われなくなっている。

 そしてリアルでもそんなベタな事をする人もいない。

 そう思っていたのだが、その考えが今……元気な声で俺の事を呼んできた目の前にいるこの後輩によって、その考えがかき消された。


「えっと……君?僕をここに呼んだのって……」


 今から数時間前の事。

 俺……陰獅露 遊佐ゆさは朝いつものように登校し、今の現実がつらすぎるなぁと考えながら下駄箱を開けると、とてつもないベタな事が起こっていた。

 上履きの上に一枚の薄いピンク色の正方形の封筒があった。

 その時俺はこれがどういう物なのか一瞬のうちに理解できた。

 しかし、経験上どうせ嘘コクだなと思い立った。

 こんな分かってて行くのはMだろうなと思われそうだが、断じてMではない。

 大切な事なのでもう一度、Mではない。

 こういう思惑が分かりきってるのだが、どうせ帰った所で暇なので引っかかってみるか……と暇つぶしと興味本位で行く事にした。

 そして放課後、手紙に書かれていた校舎の後ろにある桜の木の下に向かっていった。

 その時の俺はどんなのが来るのかワクワクしながら、最近ハマっているスマホゲーをしていた。


『先輩!』


 少し待つと、正面から俺を先輩と呼ぶ声が聞こえてきた。

 声からして女子だろう。

 なるほど今回は女子か、という事は1度付き合ってから嘘コクでした〜って明かすパターンか、ここで明かすか、それかァ……声は女だが、裏声を作った男のパターンだな。

 俺は少しニヤけてしまいそうになる口を普通に正すと、スマホをしまい前を向く。

 そしてさっきに戻る。


「はい!私です!」

「そ、そっか……で……そのなんで僕を?」

「あ、そ、そうでした!えっと単刀直入に言うと」


 皆お気づきだろうか?

 先程から僕の反応が微妙そうなのを。

 先に相手の尊厳のため言っておくと、別に彼女の顔がブッサイクという訳ではないのだ。

 どちらかと言うと……めっさ可愛い!

 多分だが、この学校の子よりだ。

 顔もいいし、なんなら体型も良く、出るとこは出て締まっている所は締まっている。

 個人的には好みの子だ。

 それに、こんな子が嘘コクするなんて……ていう悲しみで、そうなっている訳では無い。

 可愛い子がそうやってくるのは経験済みだ。

 では何故微妙そうなのか……。


「先輩!私と!」

「付き合ってください!」


 いやね……それは想定してましたよ?けどね……あなた……いきなり来て、早々バキの土下寝して頼みます?!




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