第45話 嘘
柊真さんと他愛もない話をしていると、今度は知らない女性がいきなり柊真さんに詰め寄って来た。
「あきれた。もう次の女?」
柊真さんはその女性をしばらく見ていたけれど、
「ごめん」
と謝った。
女性は次にわたしの方を向くと、
「この人が優しいのは、最初だけよ。すぐに他の女に乗り換えるんだから」
そう言って、行ってしまった。
前に似たようなことを聞いた。
だから、女性は颯真の元カノだとなんとなく推測できた。
それなのに柊真さんは、「それは自分ではない」と否定することもなく謝った。
「お知り合いですか?」
「全然」
「今みたいなことよくあるんですか?」
「どうかな。たまにね」
「その度に柊真さんが謝ってるんですか?」
「向こうにしてみたら同じみたいだからいいんだよ」
初めて颯真に会った日、ひどいことを言われた。
それで、ちょうど車を待っているのを見かけて文句を言った。
そうしたら、何も聞かれもせず、すぐに謝られた。
あの時は、2人が双子だなんて知らなかったから、何だか拍子抜けしてしまった。
でも、今ならわかる。
ひどいことを言ったのが颯真で、謝ったのが柊真さん。
「だからわたしの時もすぐに謝ったんですか?」
「そんなことがあった?」
「どうして颯真を庇うんですか?」
「負い目かな」
「負い目、ですか?」
「冗談だよ」
「柊真さんでもそういう冗談を言うんですね」
柊真さんは微笑むだけで返事をしなかった。
嘘だ。
冗談なんかじゃない。
柊真さんは何か隠してる。
それが何かはわからないけれど。
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