第21話 香雅里さんの気持ち
その日の夜、香雅里さんに「ケーキを食べに行こう」と誘われて、思い切ってケーキバイキングを提案してみた。
ホテルグランドロイヤルの23Fにあるカフェのケーキバイキングは、普通のケーキバイキングと違って、お値段がそこそこするだけあって、ケーキのクオリティが高い。
それに、日によって、クリームチーズとサーモンのカナッペや、イタリアから直輸入の生ハムなんかもある。
ローストビーフのサンドイッチは、その辺の専門店よりよっぽど美味しい。
香雅里さんがとても興味を示してくれたので、すぐに予約した。
約束した日は、ホテルの前で待ち合わせをした。
お店のスタッフに席へ案内されると、早速ケーキを見に行った。
テーブルいっぱいに並べられたケーキやムースを見た香雅里さんは、目をキラキラさせた。
甘いものに目がないみたい。
「これ全部食べていいの?」
「全種類は絶対に無理だと思いますけど」
「ううん。わたし頑張れると思うの」
そう言って、香雅里さんは4つほどケーキを選んだ。
他にも色々見ているようだったので、わたしはケーキ2つと、その場で焼かれたクレープに温かいオレンジソースがかかったものを持って、席に戻った。
仕事のことを聞かれ、つい最近まで倉庫を片付けていたけれど、また食料品売り場に戻れた話をした。
「じゃあ、ずっと廃棄予定の段ボールを1人で整理してたの?」
「はい」
「花蓮ちゃん、なんて健気なの。この生ハムあげる」
香雅里さんが自分のとってきた生ハムをわたしのお皿に入れてくれた。
「ありがとうございます」
「柊真か颯真にお礼言わないとね」
「生ハムのお礼をですか?」
「違ーう! 地下の暗い倉庫から救ってくれたお礼」
「それが御堂さんに関係あるんですか?」
「2人が話してるの聞いたから」
2人が話をしたら、どうしてお礼を言うことになるの?
「あの、全然話が見えません」
「その異動、急だったはずだけど?」
「そう言われてみれば」
「柊真か颯真のどちらかに倉庫の話をしたでしょ?」
香雅里さんがどうしてわたしの仕事の話を聞きたがったのかわかった。
「話をしました」
「どっちに?」
香雅里さんが気にしているのはどっち?
「どちらかが手を回してくれたんだよ」
「え? 御堂さんて、そんな力あるんですか?」
「あるよ」
香雅里さんは視線をケーキに向けたまま、フォークで一口分をカットし、口に運ぶ。
倉庫と主任のことは柊真さんしか知らない。
柊真さんが助けてくれたんだ。
でも、それを言うのが正解かわからない。
「どちらだったのか、見分けがつかなくて」
わたしがいろいろ思い出している間に、香雅里さんは3つのケーキを食べ終えていた。
「そっかぁ」
名前を出していいのか分からない。
香雅里さんは、どっちであって欲しいと願ってる?
どっちであって欲しくないの?
「わたし、飲み物とってきます」
頭の中を整理させたくて席を立った。
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