第19話 「花蓮」という名前
毎日重いダンボール箱を上げたり下ろしたりしているせいか、筋肉痛になってしまった。
実はいい運動になってるのかな……
そんなことを考えながら、従業員出入り口に向かっていると、御堂さんとバッタリ出会ってしまった。
どっちなんだろう……
「先日はありがとうございました。失礼します」
あやふやな挨拶をして横を通り過ぎようとしたら、話しかけられた。
「今朝、食料品売り場に寄ったらいなかった」
「配置替えがあったから」
「配置替え?」
自分が話している相手が颯真さんなのか柊真さんなのかわからなかったけれど、不思議そうな顔をされた。
「少し付き合って」
「え?」
「1人でコーヒー飲むのもつまらないから」
「あ、はい」
IKEDAから少し離れたビルの上にあるカフェに連れて行かれた。
「それで、今はどこの部署?」
「どこ……どこになるんでしょう? 今は、地下にある倉庫の片付けをしています」
「いつまで?」
「……ずっとみたいです」
「どうして?」
「どうして……」
質問の意図が分からずオウム返ししてしまった。
「誰に言われて?」
「主任です。販売部の」
「ふうん」
その時、座っている席を通り過ぎていく女性の2人組が話すのが聞こえた。
「不釣り合いな2人」
どうしていきなりそんなことを話し始めたのか……
ずっと誰とも話してなかったから、誰かと話したかったのかもしれない。
ほんの少し心が折れそうになっていたからかもしれない。
今目の前にいるのが、OFFの方だったら、きっとひどいことを言われて、更に傷つくのがわかっているのに。
「わたしの『花蓮』という名前の意味、『花のように美しい』なんです。でもそんなの……ホント、名前負けしてますよね……」
泣きそうなわたしに、優しい顔が向けられた。
「確か、『花蓮』は、台湾のサキザヤ族の居住地で、『真の人』って意味もあったと思う。『花蓮』の、『嘘偽りのない人』って意味は、小鳥遊さんにぴったりの名前だと思うよ」
その優しい口調で、ここにいるのは柊真さんだとわかった。
「そんなこと言ってくれたの、御堂さんが初めてです」
「何も知らない他人が言ったことに落ち込んだりしてたら、もったいない。小鳥遊さんは、他の人が気が付かないことにも気が付く人だから。それで救われてる人もいる」
優しく微笑む柊真さんは、わたしの心をふんわりと温かくする。
「ありがとうございます」
「安心して。きっと全部元に戻るよ」
柊真さんが、自分のハンカチで涙をそっとふいてくれた。
「笑ってる方が小鳥遊さんには似合ってる」
そう言われて、わたしも、柊真さんに微笑み返した。
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