裸足のシンデレラ
野宮麻永
第1話 真実の愛って何?
「真実の愛を見つけたんだ。だからお前との婚約は破棄する」
違った。
すっかり脳内変換してしまってた。
「他に好きな子ができたんだ。その子と付き合ってるからお前とは別れる」
その好きな子と既に「付き合ってる」という事実をつきつけられて、「別れる」って。もうどうにもならないことくらいわかる。
こちらには一言も話す隙すら与えず、一方的に言いたいことだけ言うと、2年間付き合っていたはずの大垣優次は席を立った。
せめて目の前のコーヒーでもかけてやれば良かったかな。
でも、それにはまずカップについてる蓋を外さないといけないから、あんなに早く席を立たれたら、間に合わないか……
さっきまで優次が座っていた席をぼんやりと眺めていたら、傘がぽつんと残されているのに気がついた。
外は雨だから、傘がないと困るよね?
そう思って追いかけた。
でも、お店の大きなガラス窓の向こう側で、女の人の傘に入って歩いて行く優次の姿を見て、立ち止まった。
『その子と付き合ってるからお前とは別れる』って、そんな失礼やつに傘を届けようとした自分がまぬけに思えた。
傘を近くにいた店員に渡し、元の席に戻ろうとして、前から歩いて来ていた男性とぶつかってしまった。
はずみで、その人が持っていたファイルが床に落ちる。
「ごめんなさい」
慌ててファイルを拾おうとしゃがんだけれど、わたしが拾うよりも、その男性の方が早くファイルを拾い、わたしの耳元で囁いた。
「二股かけられてたのにも気付かないくらい注意力が欠如してるから、こういうことになるんだよ。それに、見た目も少しくらい努力すれば?」
思わず男の顔を見た。
20代後半くらい?
どこかのモデルみたいに整った顔立ち。
アッシュグレイの髪。
サラリーマンでその髪の色が許されてるって、一体何の仕事してるの?
靴はきれいに磨かれていて、着ているスーツも高級そうだった。
わたしがじっと見ていたせいか、向こうもちらりとこちらを見た。
そして、いかにも嫌そうにため息をつくと、店を出ていった。
10,000歩譲って、優次は多分さっきまでは彼氏だったから、あんな別れ方をされても仕方ないって思える。
でもでも、今、去って行った男は初対面。
どうしてそんな男に文句を言われた挙句に、ため息までつかれないといけないの?
ため息をつきたいのはこっちの方なのに。
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