恋愛禁止な15歳の女優を恋人にしたら毎日が破天荒
@tokizane
縁起
第1話 ここが最前線
「
そう俺に言ったのはスーツ姿の若い女性だ。
やや小柄。淡い色彩の茶髪。後ろできっちりまとめたヘアスタイル。
一方の俺は適当に選んだ私服を着ている。左手と右足にはギプスがついてまま。松葉杖が壁に立てかけられてある。2ヶ月前に遭った事故とこの件は無関係なので説明は省略させてもらおう。
「怪我を押して足を運んでもらいましたが、こちらの要望はこれだけです」
5月。都内某所。
夕刻である。
大手芸能事務所『エンタープライズ』のオフィス。
物音一つしない部屋だ。この部屋自体は広いのだが、普段面談で使われているであろうこのスペースはパーティションと壁にはさまれ狭かった。
俺は足を組んだ。
むこうが失礼なことを言ってきたのなら、それにあわせた態度をとるまでだ。
「別れるなんて『ない』から。天地がひっくり返ってもありえないね」
「あの子はうちの事務所に所属する大切な
俺はテーブルに置いてある
游よりもマネージャーのほうがよほど芸能人みたいな名前をしている。容姿も整っていた。まぁ、游ほどではないけれど。
見た目は若々しくとても成人しているようには思えない。美しいというよりも可愛い。さきほどから俺のことを親の仇のように恐い目で見ていることは減点対象になってしまうが。
相手は女なのだ。正直やりにくい。
男だったら撲殺することも視野に入っていた。恋人のマネージャーが男だとかこっちが憤死するわ(NTR趣味はないので)。
「理由は?」
「言うまでもないことでしょう? 游さんはうちの新人女優。期待の星です。何億円というプロジェクトが進行しているんですよ。彼女は既に人気タレントですが、今後はもっと大きな存在になれる。女優、歌手、モデルなどなど各分野での活躍が見込める存在です」
「游は商品じゃないよ……」
「人間は誰だって売るものがあるんですよ。知識や経験や体力。彼女の場合それが容姿であり人格である。それだけのことです」
同等の才能を有する者が2人がいる場合、片方が善人で片方が悪人なら前者が評価されると。
その理屈はわかる。
わかっているがなにかが俺を動かしている!!
なので反論してみた。
「人格ねぇ。それを評価に加味するならさ、たとえば戦争でいっぱい人殺してる曹操の詩を褒めちゃダメってことにならん?」
「この国では大衆は才能ある者に優れた人格を求めるものなのです」
ただ可愛いだけじゃダメ、芸達者なだけではダメだと。
かなえは続けて言った。
「この国では普通の15歳は彼氏なんてつくらない。早すぎると思いませんか?」
「確かに俺15歳だけど彼氏はいないな」
かなえは俺の軽口を無視した。
「游さんのファンは男女問わず清純さを求めています」
「だから恋人の俺が邪魔だと、排除したいと」
「そうです。マネージャーとして認められません。……昨日知らされたときは驚きましたよ!」
──俺はただの高校生で、自由恋愛したいからという個人的な欲望のために動いているにすぎない。理は相手側にある。
だがそれがどうした。生涯初彼女だ。
俺には游しかありえない。邪魔する者は排除する。
相手が大組織だろうと関係ないね。
「──ならなにか? ム○カみたいに金貨放って寄越して、游にはもう2度と関わるなと?」
かなえは黙ってうなずいた。
ノートをとりだし、ページを破り、ボールペンを滑らせる。
紙には俺の見たことのない数字が書かれていた。
「ジンバブエドル表記?」
「日本円です。お願いします。游さんは本物なんです。スターになれる。日本中にその名が知れ渡り、優れた作品に出演できる。とんでもない大物たちと共演し、肩を並べられるんです」
かなえが俺に嘘をついていないことはわかる。游は……なんていうか持っているから。
この人についていけば游はいったいどれほどの高みに到達できるのだろう?
「游のことは応援するつもりですよ」
「ならあきらめてください。恋人がいるだなんてすぐにバレます」
かなえは立ち上がり頭を下げる。
俺は数字が書かれた紙を丁重に返してやった。
「この程度の額じゃ動かないね。国家予算もってこい」
「若宮君の家がお金持ちなことは知っていますよ。霞ヶ関で働いているお父様、外科医のお母様。よほど恵まれた環境で育てられたんですね」
「大きなお世話だよ。俺の家庭環境がこの話に関係あるのか? 逆に貧乏なら游のヒモ呼ばわりするつもりか?」
つうかよく調べたなこの短い期間に……。
かなえは有能だ。俺というイレギュラーの出現に最適に近い対処を見せている。
「恋人が欲しいのなら游さん以外の女性を求めてください。高校生なんですから周りにいる気に入った女子に声をかければ良いのでは?」
無茶を言う人だ。
俺がそんな恋愛強者に見えるのかよ。
「いくら俺が超絶イケメンだからってその選択肢はないよ」自分で自分のギャグに笑ってしまった。「……游以上の女なんてこの世にいない」
「紹介してさしあげてもいいんですよ。大人の女性でしたらいくらでも」
かなえの提案を俺は鼻で笑った。
「きかなかったことにしてやるよ……。鮎京さんは游のプロデューサー?」
「マネージャーです」
きっぱりと訂正するかなえ。
「マネージャーなら周囲の人間に若宮アキラは游の恋人ではないと主張すればいい。游の兄、弟。いや親か」
「同い年でしょう?」
「子供か?」
「そんな大きな子が高校生にいるわけないでしょう?」
「あらやだ、ならあたしがオカマだってことにすれば游のそばにいても問題ないってことになるでしょう♡ あたしの好みは頼りがいのある兄貴だけ♡ かなえはただの女友達よ♡ どーお、このアイディア! かなえちゃん! アリ寄りのアリじゃ……」
「最近はLGBTに配慮した表現が求められているのでそういうのは……」
ちょっと演技に熱が入ってしまった。もうすることはあるまい。
おふざけを繰り返しているのはシリアスな空気に耐えられないからだけではない。場を和ませてかなえにこちらのプランを呑ませたい。
……現状かなえは俺を認めようとしていないが。。
専属で担当するタレント(美少女)に男がいたらそりゃ困るよね。
同情はするけれど俺の心は変わらない。
俺と游は相思相愛で、少しでも長い時間そばにいたいと思っている。つきあい始めたばかりだし(ちなみに彼女はこの部屋の外で待機してくれている)。
かなえは口に手をやり、沈思黙考モードに入った。
数秒後に口を開く。
「……あなたが恋人であると世間に知れ渡った場合、芸能人・游はどのようなダメージを受けてしまうのか。考えたことはありますか?」
俺のほうは犯罪者並の扱いを受けることになるだろう。なにもしていないのに大衆の憎悪の対象となる。
なら游のほうは……。
叩かれるんだろうな。
「俺が游の盾になるしかないんじゃないの?」
「盾になる……そんな抽象的な対応じゃ游さんは救われないですよ! もっと真面目に考えて!」
そんな仮定の話で責めて論破した気になられても困るのだが……。
かなえは真剣な目で俺を見つめている。
「ならお宅の会社をとおして表明すればいい。游さんとは真面目に誠実に交際していますって。前代未聞ではないでしょ。彼氏がいようと堂々とアイドル的な活動を続けりゃいいんだ。(俺は)私人なら流石に名前を出す必要はないはずだけど、勝手に漏れちゃうだろうな」
游の人気に付随する形で俺の名も各所に流布してしまう。デジタルタトゥーってやつだ。
「……!! それでいいんですか? 誹謗中傷されることになりますよ! ……游さんのファンが攻撃し続ける」
「もしそうなったら自宅の警備体制を強化するよ。セキュリティカメラを設置せんと」
「汚名を着せられる覚悟があると?」
かなえの問いに俺はうなずく。
あいつとこのまま一緒にいられるなら、どんな困難だって乗り越えられるさ。
「あるよ。游に比べたら俺がする苦労なんてないに等しい」
そもそも俺の身にあった話をすると、『数年ぶりに再会した幼馴染に勇気を振り絞って告白したらOKをもらった』。本当にただそれだけなんだ。
なんか人生を棒に振りかねない話になっているが大事すぎひん?
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