休日

紙飛行機

休日

 時計を見ると時間は午前十時半。窓を見ると清々しい日光がこちらを差してくる。ここまですっきりとした目覚めはここ数年あっただろうか。小鳥の囀りすら朝の爽やかさに味付けをしてくれる。この日有給を取ろうと思ったのは一週間前だ。理由はあまり無い。それまで忙しい毎日を過ごしていたから、ふと何もしたく無くなったのかもしれない。顔を洗い、髭を剃って外へ出る。バスに乗るのに気持ちを急かす必要も無い。道中、いつもシャッターが閉まっている不動産屋が開いている。筆書きで不動産情報を書いている昔ながらのお店だ。小学校を通ると、ちょうど授業の始まりを知らせるチャイムが鳴る。運動場から子供達の騒ぎ声が聞こえる。バスに乗り込んでも容易に座ることができる。それだけでも心には余裕ができるというものだ。


 夏が近づくこの季節、外は蒸し暑くバスの中のクーラーがちょうどよい風を供してくれる。駅に着くと何も用は無いが、とにかく歩いてみた。この辺りでも普段帰りが遅く、シャッターを閉めてばかりの店が普段の顔を見せている。駅前にも活気があった。バスや車がロータリーに行き来し、人が流れる。駅にからどこかへ向かう人、スーツケースを持っている人は遠出をするのだろう。自分も日帰りでふらっと、普段は行かないどこか遠くへ行ってしまおうか。そう思って財布を見たが、そんなに持ち合わせが無い。仕方がない。今日は給料日前だったのを忘れていた。あまり散財することはできない。とりあえずちょっと近くにカフェで一休みしようか。

カフェに入り、アイスコーヒーを一杯頼み、窓側の席に座る。ここは外の様子が良く見えた。スーツ姿の人達があくせくと移動している。きっと時間に追われ、仕事に追われているのだろう。趣味はあまりよくないが、そういう姿を中から眺めながら冷たいコーヒーを飲むというのは大変気持ちいいものだ。とはいえ、自分も明日になれば、再びあちらの仲間入りなる。そう考えるとふとため息を吐く。雰囲気も人間関係も息苦しいあの会社に明日の朝から通わなければならないのだから。そんなことを思った矢先、ふと空が明るく光った気がする。何か落ちてきたのか?その光は自分の目の前でも大きく光り、目の前が真っ白に…


 気がつくと僕は病院にいた。病院と言っても清潔感があるあの病院じゃない。ここは野戦病院だった。左足が痛む。右腕は折れているらしく簡易的な固定がされてある。恐らく戦場で酷い傷を負ったのだろう。遠くで爆発音が聞こえる。ここにも地響きがした。


「気がついたか」


医者が僕にそういった。


「束の間の安らかな夢はどうだった」


「夢だったんですね」


僕はそう答えた。


「こんなことでしか時間を潰せないからな」


すまなそうな顔をしかながら機材のボタンを押す。片付けて他の病人にも貸し出すようだ。


「もっといろんな夢のプログラムがあったらな。うちにはこれぐらいしかない」


最後にプログラムが喋り始めた


「こちらのマシンはまるで実際の体験のように夢を見るプログラムがあります。プログラムは複数あり、就寝時に様々な体験をしていただきます。なお、追加のプログラムにつきましては…」


次の瞬間、野戦病院にも爆弾が落ち、僕達は諸共吹き飛んだ。

早くこの夢から覚めますように。

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休日 紙飛行機 @kami_hikoki

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