【#5】推しとの配信

 そして、次の日。さっそくティーシャとのコラボ配信が行われる事となった。


 約束の待ち合わせ場所は、渋谷ダンジョンの地下一階。


 自然豊かな森が広がるエリアの中で、俺は一人でティーシャを待っていた。


(あともう少しで集合時間……!! あぁ~!! もう心臓のバクバク止まんねぇ!! どうしよ~~!?) 


 そんな感じで死ぬほどソワソワしていると。


「あっ!! いたいたぁ!! アヤカちゃ~~ん!!」


「!!」


 通路の奥から聞こえる声に、身体がビクッと震える。来た!! ついにこの時が……!!


「はじめまして、アヤカちゃん♪ 改めまして、ティーシャ・クラリオンだよ! 今日はよろしくね~~」


 その銀髪猫耳の美少女は、メイド服の袖をパタパタさせながら駆け寄ってくる。今まで映像越しにしか見た事がない、その姿が!!


(ほ、本物だ!! 本物のティーシャだ!!)


 あまりにも感動しすぎて反応が遅れ、俺は急いでティーシャに挨拶を返した。


「よ、よろしくお願いします!! 今回はコラボをご指名いただきありがとうございます!!」


「いえいえ〜♪ ごめんねー、突然の話で迷惑じゃなかったかな?」


「そんな!? むしろ嬉しいくらいでしたよ!?」


 その流れで俺は思い切って口にした。


「じ、実はですね……わたし、以前からティーシャさんの大ファンなんです!!」 


「えっ!?」


 それを聞いたティーシャは意外そうに眉を上げた。


「え!? アヤカちゃん、猫民ねこみん(※ティーシャファンの通称)だったの!?」


「そうです!! ティーシャの配信は毎回欠かさずチェックしてます!!」

 

「おぉ〜!? 思ったよりガチファン!? ありがと〜!!」


 ティーシャは嬉しそうに笑った後、俺を気遣うように見て言ってくる。


「あっ! でも、今日の配信はリラックスしていいからね? なんてたって、アヤカちゃんがゲストなんだから♪」


「あっ、ハイ……!!」


 そう言っても、リラックスできる相手じゃないんだが。……とにかく努力はしてみよう。


「ちょっと準備するから待っててねー」


 そう言って、ティーシャは背負っていた『魔法カバン』を下ろした。


 その『魔法カバン』は一見小さくて可愛いリュックサック。だが、名前の通り魔法の力により物理法則を超えた収納を実現している。


 そこからティーシャが取り出したのは──。


「はい、撮影モード起動……っと」


 ダンジョン配信用の撮影ドローン。


 それも明らかに最新型モデルで、彼女の配信環境へのこだわりが見てとれた。いやぁ、やっぱり流石のプロ意識と言わざるをえない。


「よし、問題なさそうだね!」


 ティーシャはそのまま手早く配信準備を済ませ、俺の方へ振り返って言った。


「それじゃ、本番いくよ?」「りょ、りょーかいです!!」


 つ、ついに始まる!! 人生初の推しとの配信が!!


 ◇◆◇◆◇


《配信開始》【緊急コラボ】ウワサの”酒クズちゃん”、天霧アヤカさんとのコラボ配信!!


「みんな、おはティシャ〜♪」


 :よっしゃ!! 一番乗り!!

 :おはティシャ~

 :待ってた!! 待ってたぞ!!

 :激ヤバコラボだ……!!


「さっそくだけど、ご紹介!! こちらは絶賛話題中の”酒クズ女サムライ”!! 天霧あまぎりアヤカちゃんで〜す♪」


「どどど、どうも〜!!」


 撮影ドローンのカメラが俺を大写しにする。


 そのまま恐る恐るティーシャの隣へ行くと、リスナーも待ちかねてたようにコメントが加速する!


 :酒クズちゃんきたw

 :どっちも可愛いな!

 :ダブル美少女コラボ最強すぎんだろ!!


 さっそく大量のリスナーが押しかけてくる中、ティーシャは慣れた口調で進行してくれる。


「みんな、聞いて~? これさっき知ったんだけど、アヤカちゃんね……みんなと同じ猫民ねこみんだったみたいなの!!」


 :マジか!?

 :じゃあ、やっぱあの配信みてたんじゃないか!!

 :ちなみにファン歴は?


「えっと……一応初期から毎回見てますけど」


 :なにっ!?

 :おいおい、すげーなw 相当数あると思うが

 :名誉猫民ですな

 :女子でそこまで熱烈なファンもいるなんて流石はティーシャ


 そんなコメントに苦笑いしている間に、なにやらティーシャが魔法カバンをガサガサやってた。


「そうだ、アヤカちゃん。初めて一緒に配信する記念にね、プレゼント持ってきたよ~。──じゃーん♪ あたしの世界から持ってきた最高級ブランデー『シャリア・ブランド』だよ〜♪」


 ティーシャが取り出したのは大きなボトルだった。その中で、琥珀色の液体がトロトロと動いている。これは……!!


「こ、こんな高いもの頂いちゃっていいんですか!?」


 俺も異世界のお酒についてはあまり詳しくないが、それがどういうものかは流石に知っていた。


「もちろんだよ♪」


 それからティーシャは思い出すように続けた。


「こないだの配信で見せてくれたスキル【酔剣】──その発動のためにはお酒を飲む必要があるんでしょ?」


「そ、それはそうですが……」


「でしょ? ──さぁさ! グイッとどうぞ!!」


 :いけーー!! 酒クズちゃん!!

 :わくわく!! わくわく!!


 ティーシャ、リスナー勢共に期待の眼差しを向けてくる。


 ……ならば、その期待に応えないワケにはいかない。いくぞ!!


「んっ……!! んっ……!! ぷはーーーーーーーーー!!!」


 :ふぅーーーー!! いったーーーー!!

 :いいぞーー!! 酒クズちゃん!!


「アヤカちゃん。どう? 気分は?」


 横から聞いてくるティーシャに、俺は酩酊めいてい気分でピースしながら答えた。


「ふへへへへ♡ 最高で〜〜す♡」


 こうしてお酒で心も身体も満たされた俺は、ティーシャとの冒険に出かけることとなった。

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