第二十五話 無償

次の日、俺はいつもの場所で星空と昨日のダンジョン探索の振り返りを行なっていた。


「やっぱり雷魔法は目立つよなー……」

「そうそう!そこがいいんだよねー!雷魔法持っててよかったー!」


そこがよくないって話しようとしたんだが。


「魔法……魔法なぁ……他のも使ってみたいよなぁ」

「何?雷魔法に不満でもあるわけ?」

「……はい」

「はい?はぁ?こんな便利な魔法……はぁ?言っておくけど、雷魔法って今年の好きな魔法ランキングでトップ5に入るんだからね!」


正直に頷いたら星空がキレてしまった。それにしても雷魔法って好きな魔法ランキングトップ5に入ってるんだ。みんな派手な魔法好きだなぁ。


「因みに、他の4つは?」

「ふん、治癒と光は不動の一番、二番。三番以降は闇と火がライバル」


むくれながらも質問にはちゃんと返してくれるんだな。

それにしても治癒と光か。


「光って治癒も使えるんだっけ?」

「そう!専門の治癒魔法ほどじゃないけど簡単な怪我なら一瞬で治せるんだよ!」

「光……うーん」


光は音は出ないけど明るいのがちょっとなぁ。でも治癒が使えるのはありがたい。

しかし、自身の能力の機密が最優先である以上、やはり目立たない魔法をコピーすべきだ。


となると、候補は絞られてくる。


「水か闇魔法で強い人とか知り合いにいない?」

「水か闇魔法?うーん……知り合いにはいないなぁ」

「そうだよなぁ」


そもそも魔法のスキルを持ってる人間って珍しいしな。

それでもここは通う全生徒がステータスを覚醒させている迷宮学園。

それだけ貴重なスキルを持っている人間は多い。


「上級生とかにはいそうだよなぁ」

「うんうん!魔法研究部に行けば多分強い魔法使いの人もいると思うよ!」

「魔法研究部?何だそれ?」

「えっ?マジで言ってんの?本当に?」

「ああ、知らない。教えてくれ」


魔法研究部。なんか怪しい名前だな。裏で人体実験とかしてそうな名前だ。


「魔法研究部、通称魔法研。魔法スキルを持っている人が加入できる魔法使い専門の部活!」

「へー、そんなものあるんだ」


まあここは普通の学校じゃないからな。普通じゃない集団もいるか。


「魔法研究部か……、ありだな」

「え!入るの?」

「入るわけないだろ」

「だよねー」


魔法研究部に入るってことはスキルを星空のものにして公開しないといけないということだ。レベル1の落第生で通ってるのに、急に魔法の才能が発現したら騒動なんてものじゃない。


「という事で、星空は魔法研に入るんだろ?」

「もちろん!」

「じゃあ俺の代わりに闇魔法持ってる人探してきてくれないか?」


俺がコソコソ嗅ぎ回るよりもそっちの方が自然だろう。


「うーん、タダじゃちょっとなぁ……」


こちらをちらちら眺めながら曖昧な答えをする星空に、俺は即答する。


「何が欲しい?出来る限りのことはするぞ」

「へぇ、てっきりタダでやってくれないのか、とかいうと思ったんだけど」

「そんなこと言うわけないだろ。俺とお前はギブアンドテイクの関係。労働に対する対価を支払うのは当然のことだ」


人を動かすのにタダでやってくれないことを怒るほど俺は矮小ではない。逆の立場なら俺だって対価を要求する。


今回は、一人でも気兼ねなく魔法を使うためのステータスの高い闇魔法を持っている生徒を探してもらうこと。

俺にとって重要なことでもあるため、対価はきちんと払うつもりだ。


「ふーん、じゃーあー、ワン君のレベ……」

「断る」

「まだ最後まで言ってないんだけど!?」


レベ、までいったらもうレベルしかないだろ。


「悪いがレベルを教えるほどのことじゃない。それなら自分で探す」


俺が自分で探さないのは、レベル1の俺があちこちで人に聞いて回ったり、コソコソしていれば怪しまれるから。

その点、魔法スキルを公開している星空が、他の魔法に興味を持っても何ら不思議ではない。


俺が払う対価とはそのリスクを回避するための額。


レベルを教えることはそれ以上のリスクを生むため、対価になり得ない。


「1万DPでどうだ?」

「え、いらない」

「そうかー、うーん1万5千!」

「いや、額の問題じゃないし」

「は?」

「そんな目と口を丸くするほどのこと!?」

「目と口を丸くするほどのことだろ!何言ってんだ!金だぞ!金!」

「いや私、お金は別にそんなに欲しくない」

「ヒィ……」

「何でそんなに恐れ慄いてるの……」


お金が欲しくないとか現実で言ってる人、初めてみた。しかも本気そうなのがまた怖い。


いや、そんなはずはない。お金が欲しくない人間などいないのだ。


「2万DPでどうだ……?」


正直割に合わない。だが、もはや意地である。金の力は偉大なのだ。


しかし、星空は半笑いで俺をみながら首を横に振った。


「いや、いらないです」

「なん、だと……?」


とすると俺が払えるものは無くなるわけだが。

呆然とする俺に呆れた星空は軽くため息を吐きながら信じられないことを言った。


「はぁ、しょうがないなぁ。今回はタダでやってあげるよ!」

「は?タダ?はぁ!?何言ってんだ!はぁ?」

「あっはっはっはっ!ワン君がバグってる!あっはっはっは!」


しどろもどろになる俺をみた星空が爆笑している。


そりゃおかしくもなるだろ。2万DPあげるって言ってるのに要らないって。それなのに無料でやってくれるって……意味がわからない。


「いやー、別にこれくらいのことでお金なんて貰わなくていいよー」

「え……本気か?お金払うって言ってんだぞ?」

「いや本当にいいって!大したことじゃないし」


お前にとっては大したことなくても俺にとっては大したことだ。そもそも俺達の関係はギブアンドテイク。貰ったら対価を支払わなければならない。


俺はそう思っていた。しかし、星空はその対価の受け取りを拒否している。

そんな悩む俺は星空からすると、相当奇妙に映ったようだ。驚いたような顔をして俺の顔を覗き込んでくる。


「え、私がタダでやってあげる理由、本当にわからないの?」

「ああ、意味不明だ。何でそんなことしてくれるんだ?」


俺にそう聞かれた星空は照れたように笑いながらこう言った。


「だって私達友達だから」

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