第十三話 悩み
「うおっ……」
目の前に突然現れた黒い画面に白い文字で書かれたステータス。
本当に出てくるとは思わなかった俺は、思わず声を上げて、身体を起こす。
鑑定石が青白い画面なのに対して、俺の画面は黒い画面だ。
何か違いでもあるのだろうか。
「今はそれよりも……。この鑑定石では見えなかった選択だよな。
おそらくこの言葉こそが俺の能力の核となる言葉。もう二度と忘れることはないだろう。
俺はベットに腰掛けて手を伸ばし、その黒い画面に触れる。
だが、直接的に触れはしなかった。VRゴーグルなどを付けると出てくる宙に浮いた画面という事だ。
ならばと、俺は自分の名前の横にある、選択に意識をする。
すると……。
[選択:星空恵]
[坂田明人]
[小鳥遊翔]
「おーっし!」
出てきた。3行。最新のコピー元である星空恵。入学式にコピーしてしまった坂田明人。
そして、俺自身のステータス。これをどれほど待ち望んだことか。
俺は、ゆっくりと選択を小鳥遊翔に持っていく。
次の瞬間、星空のステータスをコピーした時以上の力の本流を感じた。全身を駆け巡る得体の知れない心地のいい何か。
レベルアップをする時、大きくステータスが上がることをネットでは「薬をキメる」などと揶揄されていたが、その例え、正直今ならわかる。
特に根拠もないのに何でも出来そうな気になる。
だがぼーっとなどしていられない。俺は変更された俺自身のステータスを確認する。
[小鳥遊翔/レベル5][選択:小鳥遊翔]
[覚醒度:65%]
物理攻撃力 18
魔法攻撃力 20
防御力 18
敏捷性 19
[スキル][選択:小鳥遊翔]
コピー レベル2
選択 レベル2
「は?」
変更された画面を見て俺は思わず口を開けて固まってしまった。
覚醒度65%。聞いた事がない数字だ。
今年の新入生で一番高い覚醒度は42%。これは新入生としては過去最高といわれ、Fクラスでぼっちの俺の元にもその生徒の噂は流れてきた。
花園千草。俺がダンジョン初日、動画を見ていたら声をかけてきた女子生徒だ。
迷宮探索をしてまだ1ヶ月。既に10レベルを超え、過去最速の速さで迷宮を踏破し続けているのだそうだ。
そんな彼女よりも俺の覚醒度は20%以上上回っていた。
しかも、全てのステータスで7レベの星空よりも上回っている。
恐らくだが、このレベルでこのステータスだった生徒はこの学園にはいないだろう。
それ程までに高いステータスだった。
「やべー、これ学校にバレたら絶対面倒くさくなる奴だ」
このステータスを見て、俺が最初に考えたのが、当初の目的であるダンジョンで金儲けができる。そして次に頭をよぎったのが、面倒ごとの匂いがしそうだな、ということだ。
「うーん……」
レベルは隠しておきたい。だが、金儲けはしたい。
1レベルで下の階層に行くことはバレないと思うが、そこでアイテムをDPに変えると学校側に俺が何階層でモンスター狩りをしているのかがバレてしまう。
信頼出来る人間でもいればアイテムを渡して換金してもらう、という方法が可能なのだが、俺は金銭関係で他人を信用していない。
向こうが俺のアイテムを持ち逃げしても俺にはどうしようもないのだ。
能力はバレたくない。
しかし、俺はこの学園に来た最初の目的は達成させたい。
「はぁどうするか……」
その日は結局結論が出ず、次の日の学校の昼休み。
俺はいつもの屋上で、いつものパンと飲み物を飲んでいた。
すると、昨日と同じようにパタパタと足音が聞こえてくる。
音からしても一人だろう。
「はぁ、また誰か来た……」
一人で青空を眺めていたいのだが、ここは公共の場。人が来るのは仕方がない。
そんなことを思っていたら、ドアがバンと勢いよく開けられる。
「小鳥遊君いる!?」
声からして星空だろう。何かあったのだろうか。
面倒くさいことじゃなければいいが。
などと思いながら無言を貫いていると、カンカンとハシゴを登ってくる音がしてくる。
「って、いるじゃーん!何で返事しないの!」
「面倒くさかった」
「はぁ!?ってそんなことよりも昨日の動画見た!?」
「昨日の動画?誰の?」
「私だよ!分かってよそこは!」
いや、分かんねーよ。別に興味もないし。
「これ!」
「んー?」
俺は目の前に出された星空のスマホをチラリと見る。
『【世界初!?】レベルが上がらない世界でたった一人の男に密着取材してみた!!』
そんなタイトルが書かれていた。
「屋上紹介はどうした?しょうもないから没にしたのか?」
「いや、まあ編集の都合で……ってそんなことよりも下!動画再生数!」
「動画再生数?」
動画の下の再生回数が表示されるところには10万視聴、の文字があった。つまりはこの動画は10万回再生されたと言うことだ。
「10万回再生か。大したことないな」
「何言ってんの!君はいつも何百万回再生されるような人たちを見てるから知らないだろうけど、私のような零細ワーチューバーが一晩で10万回再生されるって凄いことなんだよ!」
「ふーん」
「分かってないね!?ちょっとそこに座りなさい!私が説明してあげるから!」
「いらねぇよ。おめでとう。お疲れ」
そう言って俺は自分のスマホに視線を戻す。
「冷たっ!」
冷たいも何も俺には関係のない話だ。対価は既に受け取った。この動画が百万再生されようが一億回再生されようが俺の懐には一円も入ってこない。
なら俺にはもうどうでもいい話だ。
「トイッターでもトレンドに乗ったんだよ?見てないの?」
「ああ、昨日は忙しかったからな」
「もう!もっと喜んでよ!」
「何に?」
「……」
俺の言葉に星空は口を半開きにして間抜けづらをしている。
一体どうしたと言うのだ。
「君に友達がいない理由がわかったよ……」
「そうか。欲しいと思ったことがないから好都合だな」
「はぁ……」
星空がため息を吐く。
「それで、用は終わったのか?じゃあ帰ってくれ」
「ちょいちょいちょい!まだだよ!今日はお願いがあってきたの!」
「お願い?」
聞き返すと、パチンと手を合わせて頭を下げる。
「私の配信に出て欲しいの!」
「断る」
「がーん!」
俺が即答で断ると、星空が寒いリアクションをして慄く。
「何で!昨日は出てくれたのに!」
「悪いがこれから忙しくなりそうでな。お前に付き合ってる暇がなくなりそうなんだ」
「それってもしかして昨日すぐ帰ったのと関係ある……?」
鋭い。まああんな露骨な別れ方したら流石に気になるか。
失敗だった。俺も興奮して、思わず自分のステータスを見るのを優先してしまった。
しかし、だからといってバラすわけにもいかない。
「まあそんなところだ。だからお前に付き合ってる時間はない」
「ふーん、何があったの?」
「言うわけないだろう。お前には関係のない話だ」
「冷たいなー。そんなこと言わずに相談してみなよ!誰にも言わないからさー!」
「断る。全く信用ができないからな」
星空が可愛くおねだりするように迫ってくるが、信用が全く出来ない。
「ふーん……」
スマホから一切目を離さないまま断固とした態度を取る俺に、星空は考えるような素振りをする。
「そんなに私のこと信用できないのかー」
「ああ」
当たり前だろ。俺はとりつく島も無いほどすげなく断る。こう言うのは可能性を見せない方がいい。
そう思ったのだが、星空は諦めないようだ。
「それって君にとって凄い大事なこと?」
「……」
まあそれくらいは話していいだろう。
「ああ、凄い大事なことだ。俺の人生にとってな」
「ふーん、じゃーあー」
そう言うと顔を近づけて来る。
「私、キスもまだだよ?」
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