霞化ユウの丑三つ教室へようこそ

双瀬桔梗

1.霞化ユウの丑三つ教室へようこそ~

 静かな深夜二時、間接照明だけがついている薄暗い部屋。


 SE:エアコンの微かな音

 SE:マウスのクリック音


 配信画面に白いワンピースを着た、長い黒髪の綺麗な童顔女性が映る。

 背景は薄暗い学校の教室。明かりは蝋燭が四本。


 SE:オルゴール調の学校のチャイム

 SE:落ち着いたBGM(薄っすらと流れている)


 (ふわふわおっとりした明るい声と話し方)

「こんばんは~。“かすユウの丑三つ教室”へようこそ〜」


 SE:風鈴の音


「あ、初見さんだぁ。はじめまして~。ご視聴ありがと~」


 SE:タイピング音


 (ふわふわ笑う)

「ふふっ……コメントもありがと。阿修羅の“阿”に、刹那の“那”、それから田んぼの“田”で、“”さんでいいのかな?」


 SE:タイピング音


「ふふっ……合っててよかった。ねぇ、さんがイヤじゃなかったらだけど……って呼んでもいいかな?」


 SE:タイピング音


「ホントにいいの? やった~。、ありがと。よければゆっくりしていってね」


 SE:タイピング音


「“丑三つ教室”ってタイトルの由来が知りたいの?」


「それはね~丑三つ時に学校で配信してるからってだけの、シンプルな理由だよ~。ほら、わたしの後ろを見て? 学校にある机や椅子とか、黒板もあるでしょ?」


 SE:タイピング音


「ここはねぇ、数年前に廃校になった高校だよ〜」


 SE:タイピング音


「『こんな時間に、女の子一人で大丈夫?』って? ふふっ……大丈夫だよ? 心配してくれてありがと」


 SE:タイピング音


「うん。怖くもないよ。最初はねぇ、少し怖かったけど……もう何年もここにいるから慣れちゃった」


 SE:風鈴の音


「あ……ふふっ……ここにいるから、じゃなくて、ここで配信してるから、だね? 言い間違えちゃった」


 SE:タイピング音


「許可はねぇ、取らなくても大丈夫。わたしの場合、絶対に怒られる事はないから」


 SE:タイピング音


 (マイペースな感じで)

「ホントホント、だいじょーぶだよ〜ふふふっ……は心配性だなぁ。う~ん……」


 SE:風鈴の音


 (悪戯っぽく)

「ふふっ……だったら、そういう『設定』ってコトでどう?」


 SE:タイピング音


「びっくりした? リアルな背景でしょ? しかも、動くタイプの背景なんだ~。わたしが動くと~教室の見える位置とか、角度が変わるの」


 SE:タイピング音


「ふふっ……すごいでしょ~」


「でも一応、深夜に学校の教室で配信してるってコンセプトでやってるからね? 設定ってコトは忘れて?」


「ところで、はこんな時間に、どうしてパソコンを開いたの?」


 SE:タイピング音


「『どうしてパソコンで見てるって分かったの』って? ふふっ……ただのカンだよ〜すごいでしょ? それでそれで、こんな時間にどうしたの?」


 SE:少し長めのタイピング音


 (文字を目で追いながら、ゆったり相槌を打つ)

「うん。うん。うん……」


「それは災難だったね……。そんなにイヤなコトが重なると、眠れなくなっちゃうよね。わたしもそういうコトあったから分かるなぁ……」


「だからね? わたしで良ければだけど、が眠りにつくまで付き合うよ? それにね、わたしの声はよく眠れるって評判だから、聞いてる内に眠くなってくるかもしれないよ〜」


 SE:タイピング音


「ふふっ……妹とおじいちゃんとゴンザブロウに好評だったよ?」


 SE:タイピング音


「ゴンザブロウはね~黒色の柴犬で、わたしのお兄ちゃんみたいな存在なんだ〜。あ、あとね~親友のゼロちゃんにも好評だったよ。あ、ゼロちゃんはもちろん、仮のお名前だよ?」


 SE:風鈴の音


「ふふっ……にもわたしの声、気に入ってもらえたらうれしいなぁ」


 SE:タイピング音


「曜日とかは特に決めてないんだぁ。でもねぇ、がわたしの配信を見たいって想ってくれさえすれば、いつだってするよ〜」


 SE:タイピング音


「ふふっ……ホントだよ? 今日だって、の心の声が聞こえたから配信を始めたんだもん。誰かと話したい。誰かと繋がりたいって声がね」


「だから、が願ってさえくれれば、わたしは必ずまた配信するよ? 深夜二時に、わたしに会いたいって想ってくれたら必ず、ね? 約束する」


 SE:タイピング音


「うん。約束は守るよ。今まで一度も……」


 (落ち込み気味に)

「ごめんなさい。一度もないはウソ……一度だけ……約束を守れなかった事があったの……」


 SE:風鈴の音


 (明るさを取り戻して)

「でもね、としたこの約束は絶対に守るよ。が一人でも眠れるようになるまで……ううん。がわたしを必要としてくれる限り、何度だって配信するよ」


 SE:タイピング音


「うん。絶対に。約束だよ」


 SE:タイピング音


「ふふっ……段々、眠くなってきたでしょ? 追い打ちをかけるために子守唄でも歌おっか?」


 SE:まるでツッコミを入れるようにタイピング音と風鈴の音が重なる


「へへっ……追い討ちって言い方はよくなかったね? じゃあ、トドメ? あ、これだともっとダメかぁ」


 SE:タイピング音

 SE:風鈴の音


 (楽しそうにふわふわと笑いながら)

「も〜、“www笑い”過ぎだよ〜」


「ふふっ……でも、少し元気になったみたいでよかった」


 SE:タイピング音


「うん。わたしもと話せてうれしかったよ。ありがと」


 SE:タイピング音


「えへへっ……うん。また配信、見にきてね」


 SE:タイピング音


「ん? 『チャンネル登録ボタンが見当たらない』って?」


 (悪戯っぽく)

「ふふっ……チャンネル登録はしなくても大丈夫だよ? 『霞化ユウに会いたい』って想いながら、動画配信アプリを開けば、必ず見つけられるから」


 SE:タイピング音


 (真剣に)

「うん。ホントだよ」


「心配なら明日、さっそく試してみて?」


 SE:タイピング音


「うん。それじゃあ、今からが眠るまで、子守唄を歌うね」


「ベッドに横になって……エアコンはつけてるのかな? もし、つけてるならお腹が冷えないように、タオルケットとかかけてね」


「あ、もうコメントのコトは気にしないでね」


 (囁き声)

「何も考えないで、ゆっくり目を閉じて……一度、深呼吸して……。ふふっ……が、いい夢を見られるように、心を込めて歌うね?」


 しばらくの間、優しく穏やかな子守唄(鼻歌)が聞こえる。


 (囁き声)

「……寝たかな? ふふっ……おやすみなさい。どうか、いい夢を……」


 SE:風鈴の音

 SE:パソコンがシャットダウンする音

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