猫になった銀次郎

菊池昭仁

第1話

 俺は夢を見ているのかと思った。顔を撫でるとその手は白い猫のような毛で覆われていたからだ。

 びっくりして全身を見ると、なんと俺は生まれて間もない子猫になっていた。

 しかも狭い段ボールの中に入れられて。


 「これは夢ニャ、俺が猫にニャルわけがニャイ! あれれ、言葉もおかしいニャ?」


 俺は猫語を話していた。

 恐る恐る両手を見ると、手のひらがピンクの肉球になっているではないか!


 「ニャーっつ! ニャンニャこれニャアアア!」


 俺は『太陽にほえろ』の松田優作の殉職シーンのように猫語で天を仰いだ。


 (捨てニャ子?)


 元々俺は親から捨てられた捨て子だった。そして施設を出ると『猫撫ねこなで組』のヤクザになった。

 ほっぺをつねろうとしたが何しろ猫の手である、つねることが出来ない。

 俺は仕方なく爪を出し、夢から醒めるために鋭い爪でチンコに触れた。


 「ギャーッ! 痛いニャあああ!」


 痛かったが夢から醒めない! 俺は焦った。


 (これは夢ではニャいということなのニャ?)


 俺はチカラの限り泣き続けた。


 ニャー! ニャー! ニャー! ニャー!


 (誰か助けてくれニャー!)


 

 すると足音が近づいて来た。


 (女の足音がするニャ? ローファーにゃ? 女子高生かニャ?)


 「あーっ、かわいそうに。君、捨てられちゃったの? なんて酷いことをするのかしらねー」

 「ニャー! ニャー!(そうニャ姉ちゃん、早くここから助けてくれニャ!)」


 それは制服を着た、ポニーテールの女子高生だった。いい匂いがした。

 俺はその女子高生にやさしく抱き上げられた。


 「かわいい」

 「ニャア(お前もかわいいぞニャ)」

 「このまま置いて帰るわけにはいかないわよね? そんなことしたら死んじゃうもん、こんなに小さいのに」

 「ニャアニャア!(ホントニャ、死んでしまうニャ!)」

 「とにかくウチに連れて帰らないと。一緒に帰ろうね? 子猫ちゃん?」

 「ニャアー(アンタは命の恩人ニャ、この恩義は一生忘れニャイからニャ。この姉ちゃんの親なら多分大丈夫ニャろう? 俺を飼ってくれるはずニャ)」




 でもそれは甘かった。


 「えへへ ママ、かわいいでしょ? 捨てられていたの。ウチで飼ってもいいでしょう? ねっ、お願い!」


 女子高生は母親に両手を合わせて俺のためにお願いをしてくれた。


 「駄目よ。ウチにはもう一平がいるじゃない。二匹は飼えないわ、すぐに元あったところに返してらっしゃい」

 「ニャア!(ママさん、あそこにいたら死んでしまうニャ。どうかここに置いてくれニャ! お願いニャ!)」

 「そんなことしたらこの子、死んじゃうよー」

 「ニャー(そうニャ、あともうひと押しニャ! 頼むぞ女子高生!」

 「それなら他に飼い主が見つかるまでよ」

 「ありがとうママ!」

 「ニャアニャア!(ありがとニャン、ママさん大好きニャ!)」

 「良かったね? 子猫ちゃん?」

 「ニャア(ありがとニャン、お姉ニャン)」


 というわけで、ひとまず俺の命は救われた。

 新しい飼主が見つかるまでの間、俺はこの猫山家で暮すことになったのである。

 

  

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