第2話 暗殺の所以
城壁の下にも衛兵が20人ほど待ち構えていた。私は城壁の中腹辺りで止まり、矢を射かける。数人負傷させたところでワンタが飛び降り、衛兵たちのど真ん中に斬りこむ。ワンタはそのまま乱闘を始め、私が城壁から援護射撃をする。
しかし数人倒したところで城壁の上に弓兵が現れ私に矢を射かけてくる。
真上の敵と相対するのはさすがに危ないので、射撃を諦め私も飛び降りる。
小刀を抜き応戦する。衛兵と斬りあっているため城壁の弓兵も迂闊に射撃ができない。仲間を射抜いてしまう可能性があるからだ。
我々はなんとか衛兵を押しのけると、市街地のなかに消え去った。
しかし王都チャンチャンの市街地は広い。さすがに一気に駆け抜けることはできないため、途中我々サランゴ乱波隊の隠れ家に逃げ込んだ。
「はぁー助かった。テグラ、ありがとな。」
「いえいえ、お二人さんをしっかり助けるようミジュエ様より仰せつかっておりますので。」
「ミジュエ様には助けてもらってばかりだ。」
「お互い様ですよ。チムーの王妃がいなくなれば、我らも枕を高くして寝られるということです。」
「サランゴ同盟は一心同体であるからな。」
「食い物を買いに行ったサルファがもう少しで戻ってくるはずです。」
「うん、すまないな。」
テグラにサルファ、ワンタは私を含め皆サランゴ乱波隊の一員である。サランゴ同盟の中でも、私とワンタはカニャーリ王国の乱波で、テグラとサルファはマイラプ王国の乱波である。そして彼らはマイラプ国王ミジュエ公の直属の配下である。
「ガルザさまにワンタさま!お待たせしました。こんなものしか買えませんが、どうぞ。」
サルファが袋からジャガイモをいくつか取り出す。
「おう、十分だ。助かるぜ。」
「その感じだとどうやら成功したようですね。」
「その通り、しっかり息の根を止めてやった。俺らがサランゴ同盟の者だともおそらく気づかれていないだろう。」
「さすがです。しかし、サランゴ同盟のためというのはわかりますが、実際何のために王妃を殺したのですか?」
「テグラ、サルファはまだ聞いていないのか?」
「すみません、彼は昨晩急ぎでチャンチャンに着いたばかりでして。」
「そうか。よし、説明しておこう。」
「お願いします。」
「コスコ帝国が南北に分裂した後、復興を遂げたチムー王国は北コスコ帝国と手を結び南コスコ帝国を滅ぼした。その隙に我々サランゴ諸王国は独立を成し遂げサランゴ同盟を結成した。その後うまいことチムー王国と北コスコ帝国がインカの称号をめぐり敵対関係となったため我々サランゴ地域は緩衝地帯となり征服を免れてきた。ここまでは知っているな。」
「はい、だいたいは把握しております。」
「その平和な状態が数十年続きサランゴ同盟は繁栄してきた。しかし、数か月前、チムー国王タナイカモ5世を半ば無理矢理退位させた王妃ミャンセは、まだ幼い自らの子をミンチャンカマン3世として即位させ、思うがままに政治を動かし始めた。」
「王宮の権力闘争でよくありそうな話ですね。」
「ただの権力闘争なら俺らは関係ねぇ、放っておけばいい。しかしそうもいかなくなっちまった。ミャンセのやろうは北コスコ帝国と裏でつながってたんだ。」
「てことはまさか、」
「そうだ、王妃は北コスコ帝国を和議を結びサランゴ地域を両者で分割しようとした。」
「しかし、なぜインカの称号をめぐってあんなに激しく争っていた両者が...」
「そのインカの称号をチムー側、つまりはミャンセが投げ出したんだわ。北コスコにくれてやるってな。」
「チムーの民はそれで納得したんでしょうか?」
「そう、我々も当然諸侯や民衆の反対によって失敗すると思い静観してた。しかしミャンセは上手かったんだ。『インカの称号は元来我々を一度滅ぼしたケチュア族のものであり、我々とは縁もゆかりもない。我々モチーカ族ははかつてシエックという独自の主を頂いていたではないか。インカなぞという汚らわしい称号をありがたがるとはなんと卑屈で滑稽なことか。我々はインカなぞ捨て、シエックのもとにまとまろうではないか。』とまあ、うまく諸侯と民を扇動し、半ば納得させてしまった。宮中のあらゆる権力を王妃が握っていたこともあり、和議は成ってしまった。」
「なるほど、するといよいよサランゴが危ない。」
「おう、サランゴへの出兵はまだ内密になってたみてぇだが、時間の問題かもしれなかったんだわ。」
「では、王妃を暗殺することで、出兵は避けられたと。」
「そうだ。」
「ガルザさん、しかし気になることがあります。」
「テグラ、何が気になるのだ。」
「王妃を消しただけで、チムーと北コスコの結託は解かれるのでしょうか。」
「もともとチムーの諸侯と北コスコの諸侯は仲が悪かったからな。それは大昔のケチュア族とモチーカ族の争いまで遡る。そんな両者が強く結託できると思うか?王妃の働きかけで成った和議も、諸侯からしたらしぶしぶ同意したものだったろう。そんな和議、王妃がいなくなれば簡単に崩れることは目に見えている。」
「それにな、保険として俺たちである手を打っておいたんだ。」
「ある手とは、、」
「ワリ王国の伝統的な暗殺方法を用い、さらに王宮にワリ王国騎士の短剣を一本落としてきた。」
「ワリ王国というと、コスコの西、クンティ州の...」
「そうだ。ワリ王国は長年チムー王国と北コスコ王国が手を結ぶのを警戒し、チムー王国に圧力をかけてきた。チムーの者らに、ワリ王国の手の者によって王妃が暗殺されたと思わせれば、チムー王国も迂闊に北コスコ帝国に近づけなくなるだろう。」
「さすがはカニャーリ王国、綿密な計画でございますな。」
「ああ、宰相ビリャン公の計画だ。」
「ところで、王は殺さなくてよいのですか?」
「王を殺したら国を超えた大きな騒ぎになるからな。それに、王はまだ若い。サランゴに危害を加えぬ心清き王に成長するかもしれぬ。その芽を摘んでしまうのは勿体ない。」
「そうですね、そのような世を祈りましょう。」
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