#08 悪役令嬢になりたい転生希望者

§  §  §  § 


とある現実世界と虚実の世界のはざまで、二人のこの世ならざる存在がいた。

一人は大人のキャリアウーマンのような姿を、一人は若い女子学生の姿をしているかのように見えた。

二人は手元にある書類を見ながら、次々と部屋に入ってくる迷える魂を様々な異世界へと送り届けていた。


新人プランナーは、書類を見て頭を抱えて固まっていた主任の代わりに、目の前にいる転生希望者のA子に確認をする。

「……えっとご希望……なのですが……悪役令嬢……のいる世界に行きたいんですか?」

「はい、交通事故で死んだのですから……あれ? そういう転生ではないのですか?」

「えっと、輪廻転生の際にある程度行先を決められる程度に考えていただければ……」

「ああ、そう言う……でしたら、その、悪役令嬢的な世界に……」

「悪役令嬢的な世界ですね……私も勉強していますので、地球の世界史に例えると、中世から産業革命の文明レベルで、貴族がいる社会、魔法がある世界でよろしいでしょうか?」

「あ! そんな感じです。そこの女神様には話が通じなくて困ってたんですよ」


新人プランナーは主任の方をちらりと見る。視線に気が付いた主任は顔を上げる。

「昔は良かったわ……今より平和な世界とか、今より食べ物が豊富な世界とか……希望が現実的で……」

「なるほど……えっと、その様な世界は現状かなりありまして……」


新人プランナーは希望に沿いそうな世界観の異世界をリストアップし、A子に見せる。

A子は目を輝かせながら色々な世界を見ていく。


「どれも素晴らしい世界だと思うのですが……あの、念のため確認なんですけど……私は「悪役令嬢」に転生したいんですよ?」


「……え?」


新人プランナーは理解が追い付かなかったので思わず主任の方を見る。

「最近多いのです……「悪役令嬢」に転生を希望される方が」

「……あの、残念ながら「未来」、物語が決まっている世界は無いので……「悪役令嬢」になるには……転生後にそう言ったふるまいをしていただくしかないと思うのですが……カルマ的にお勧めできませんが……」


A子はわかってないなぁ……という表情を新人プランナーにする。

「違いますよ。ええっと、要するに性格の悪い貴族の令嬢に転生して、幼児期に前世の記憶が戻って普通に振舞うだけでちやほやされる状態にしてほしいんです」


「……私にも意味は分かるのですが……」

「なるほど……それは……難しい話ですね……」


新人プランナーは主任に同情をする。その傍らA子の魂の履歴を見て彼女の貢献値などを確かめる。


「A子さんはかなりのカルマも積んでいるようですし、希望を叶える方向でよいのでしょうか?」

「ええ……出来るのですが、ただ少々問題が……」


「出来るんですか!? ダメ元で言ってみるものですね! さすが神様!」


「ダメ元……だったんですか?」

「大丈夫です……実は今日三件目なのです……「悪役令嬢」への転生希望が」


A子は主任の発言に大げさに驚いて反応する。

「え? そんなにあったら……「悪役令嬢」的な世界がすぐにいっぱいになっちゃうじゃないですか?」


「ですので、頭を抱えていたのです……この世界に貢献していただいたA子さんに報いるために……」

「あ、なんか照れますね。看護師で頑張った甲斐があります。ありがとうございます! ってかやっぱりみんな「悪役令嬢」になりたいんですね。シンデレラじゃなくて」


新人プランナーがマニュアルを取り出し、いろいろと調べ始める。

「検索が難しいですが、ある程度個性、性格が決まった生体に軽く後付けで魂を上書きするようにすれば……」

「そうですね、なるべく貴族階級でお願いします! 令嬢っぽい生活をしてみたいんですよ!」


「A子さんは……一般サラリーマン家庭から頑張って勉学に励んで医師を目指すが親の失業により金銭面で断念、その後看護師になり貢献……なるほど、庶民的な生活ではない世界を堪能したかったのですね」

「勉強、ものすごく頑張ったんですけどね……金銭的余裕がある家庭にはあこがれますよ。それと憧れてた物語の世界が実現できるなら……」


「何件かヒットしましたので、この世界からお選びください。性格などは何となくなので参考程度に……」


A子が異世界のダイジェストと、産まれ落ちる両親と予想される性格などを視覚化したものを提示され暫く迷い始める。

(やはり転生先の人間を紹介……という事になりますか……)

(主任も同じような感じで違う転生希望者も案内したのですか?)

(ええ……)


「魔法ありの中世文明……これにします。スキルアシスト無しってなんだろ? まぁいいか。あ、この子で……美人ですが遺伝子的に我儘になる確率が非常に高く、癇癪持ち。両親が溺愛する可能性が高いので……ダメ人間になる可能性が高そうですね!」

「……なるほど、そう解釈されましたか」


「え? 違うんですか?」

「大体は当たっていますが、場合によっては周りの人間の影響でまともな状態からのスタートになる可能性もあります。遺伝的な性格も引き継がれますのであなたの魂で強く矯正する必要があります。……そこは注意してください」

「なるほど……たしかに、優秀な教師や、親戚がいたら変わりますものね……うーん、両親の顔を見る限り……めちゃくちゃ好みですし、この娘でお願いします! 魂の浄化は無しで、やはり定番の6歳から記憶を取り戻す的な感じで! 私の精神力でねじ伏せますから!」

「承知いたしました。では少々お待ちを……」


新人プランナーが諸所の手続きを終え、A子と最終書類の最終確認をする。

「では、そちらの合意ボタンをおしてください。新たな人生が良い旅になりますように」

「ありがとうございます! では……さようならですかね?」

「はい、よろしければカルマをためてまたこちらに戻ってきてください。A子さんなら歓迎ですよ」

「あ、戻ってこれるんですね。では!」


A子は空中に浮いたボタンを期待に満ち溢れた表情で押すと、一瞬にしてその場から消えていった。



§  §  §  § 


主任がA子が転生するのを見届けると、思い悩んだ表情をする。


「主任、どうしたんですか?」

「……ええ、希望者が多すぎるんですよね……「悪役令嬢」的な性格に問題のある人間への転生を……」

「一日数件も入るんじゃ……飽和しちゃって困ってしまいますね」


主任が次の魂の情報を見ながら答える。

「ええ、飽和しすぎているんですよね。A子さんの行く世界にもすでに数人紹介していますし……ほぼ毎日数件入るので……」


「……え?」


「……次の方も……「悪役令息」への転生を……って書かれてますね……」

「どうしましょう?」

「困りましたね……困った相手だけをこちらに回されている気がしてきました」

「そうなんでしょうね……隣の部署なんて希望が無い人達が多いからハンコ押すだけですものね……」


新人プランナーは次の世界を検索しながらも、A子の人生をウオッチリストに入れておいた。


§  §  §  § 



A子は転生希望通りに6歳で記憶を取り戻す。どうやら彼女の誕生パーティをしている最中だったようだ。目の前にはメイドが倒れ、ジュースを頭からかぶり、恨めしそうな残念そうな表情で耐えていた。


思わずA子は看護師時代の記憶で助けなければと慌ててメイドに駆け寄り声をかける。


「大変! だいじょうぶですか?!」

「……え?」

「なんと……」


A子の振る舞いに驚いたメイドや執事たちだったが、何かを理解するとが手を取り合って歓喜し始める。

「なんと、A子様がついに!」

「ああ、やはり「神のいとし子」だったのですね!」

「耐えたかいがありますね!!」

「旦那様に報告を!!」


執事やメイドたちが喜びながら各自の仕事に戻っていく。

A子は前世の記憶と令嬢としての記憶が入り混じり混乱していた。

「え? あの、どういう事でしょうか?」

「A子様、お気になさらずに。あ、こちらでこの者は何とかしておきますので席にお戻りください」

「はい、彼女は大丈夫なのですか?」

「ええ。大丈夫です! A子様! 旦那様の元へ行ってまいります!!」


ジュースがかかっていたメイドは飛び起き、一礼をしてにやけた顔をしてその場を走り去っていった。

(どういう事かしら?? 神のいとし子?)


それからA子はこの世界に生きてきた常識と記憶を整理しながら目の前に出された食事を前世の知識とこの世界の常識を照らし合わせながら食べていく。

一つ一つの挙動を見張るように執事とメイドがソワソワしながら見ている感じだった。

(……なんか観察されている? でもこの子はあれが嫌いこれが嫌いとかやってたから……不思議に思っているのね。これがあの有名な、入れ替わって突然善人になったって驚かれている……感じなのかしら?)


A子がデザートを食べ終えると、慌てた様子で父親と母親が部屋に入ってくる。彼女の記憶だとそこまで接点が無かったような記憶だった。


「A子!! 大丈夫かい?」

「!! あなた! A子が!! A子がしっかりとテーブルに座っているわ!」


A子は記憶をたどってみる。確かにこの娘はテーブルに座らずに奔放に食べては移動し遊び……を繰り返していた記憶があった。

「あの、お父様、お母様どうしました?」

「!!!」

「なんと……やはり……神のいとし子だったのね」

「これでこの子は救われるのか……」


(反応に困るわね……何が起きているかいまいちついていけないわ……あとで「神のいとし子」というものをしらべておかなければ……定番通りだと前世の記憶があるのは言わない方が良いんだっけ?)


A子はそれからも記憶をたどりながらこの世界へと適応をしていく。6歳児に30歳大人の女性の振る舞いが入っている上に、この世界での勉学にいそしむ姿、前世での患者への対応の仕方などが入り混じり、その世界の人間から見ても大変優秀な子供になっていた。

彼女の想像以上に文明が進んでおり、彼女の持っている知識程度では、知識チートの出る幕は無いと考えていた。

ただ、一人で「神のいとし子」を文献で調べようとしても答えは出ず、館のものに質問をすると全員がはぐらかし始め、まともに答えてくれはしなかった。


ある時、A子と3歳違いの妹のN子と偶然出会う。同じ屋敷に住んでいるはずだが「会った事」がなかった。不思議に思いながらも彼女を見ていると、メイドに食べ物を投げつけ。「こんなにまじゅいものは食べられなゃい!」と罵倒している姿を見て驚きを隠せなかった。思わず彼女の護衛の騎士に声をかける。

「ねぇ、あの子……大丈夫なの??」

「ええ……なぜか貴族の幼女は癇癪持ちの場合が多いのですよね……魔力が強い影響かもしれませんが……」

「あれでは大人になったら……思いやられるわね……」

「……」


A子のつぶやきに護衛の騎士だけではなく、執事やメイドたちもA子を見ながら何とも言えない表情をしていた。

A子が間に入り、とりなそうとしたら、護衛の騎士に持ち上げられて別室に連れていかれてしまった。


A子が9歳になり、両親と食事をしようとしていると、食材で派手に汚れたメイドが食卓に入って来て慌てて両親に報告をしていた。

「B子様が、B子様も「神のいとし子」に!!」

「なんと!!! またか!!」

「やったわね! あなた!!」


両親がA子を残して慌てて部屋から退出していく。A子は隣にいた執事に質問をする。

「ねぇ、そろそろ「神のいとし子」の話を聞かせてもらっていいかしら?」

「え、ええ……B子様がそうなられているのを見ると理解されてしまいますね……なぜか魔力の多い貴族は6歳になると突然大人びて聡明になる方が多いのです」

「……なるほど、そう言う世界なのね」

「……はい。そういう「世界」です」


A子はなんとなく納得する。この世界では魔法という概念があるため、前世の理屈が通らないことが多く、今回も魔術がらみだと思っていた。だがA子は執事たちの目の奥が光っている事には気が付かなかった。

それからはB子とも生活を共にする様になり、貴族らしく淑女教育が施されていく。前世の受験戦争に比べるとかなり楽な教育レベルだった。

(この世界って楽なのかしら……魔法も簡単に使えるようになったし、勉強も簡単だし……問題は絵のレベルも高いし、娯楽も色々ありすぎるのよね……そちらでは活躍できそうにないな……)


A子が成長して知識と行動できる世界の幅が広がっても、文明の発展を実感し、彼女が絶対的に優位に立てる気にはならなかった。彼女は前世同様に勉学に励み、これから行く「学園」のためにも入念に準備をしていた。

性格が落ち着き、優秀になったと評判のB子がA子に質問をしてくる。

「姉さま。「学園」とどんなところなのでしょう?」

「貴族や平民の優秀な人間が集められて教育、勉強をするところと聞いているわ。成績が優秀だと良い場所で仕事が出来たり……その、良い殿方の目に留まり娶ってもらえるとか……なんとか……」

「なるほど!! 王子様と結婚できたりするのですね!!!」

「!!!」

「私も頑張ります!!! 姉さま、最初はどこからやれば……」

「そ、そうね……それじゃ私もやってきた勉強を……」


A子は学んできたものを前世の様に分類していたので、B子へ教えるのは苦ではなかった。その様子を見ている家庭教師達も、さすが「神のいとし子」達だ。このままだったら王太子様とのご婚約も……と期待しながら見入っていた。

B子もその姿を見てか、我儘を言わずに、A子同様に真面目に勉学に励み、A子を尊敬している様に見えた。

彼女の両親も、娘たちの優秀さに気が付き満足してる様に見えた。


A子が10歳になり「学園」に通い始める。彼女の予想に反し学園は平和そのものだった。

(とても……普通な生活ね……ただの学校だわ。これ)

彼女は大学時代のキャンパスに似た雰囲気の広々とした空間で高位貴族と思われる人間が女性達に囲まれながら歩いているのを見届ける。

(……ほんと悪役令嬢的な貴族社会なのね)


成績によりクラスが振り分けられ、授業に出ると尚更普通の学校っぷりに驚きを隠せなかった。

ただ、女子達の穏やかなふるまいの目の奥で、高位貴族達を見る目がぎらついているのには気がついていた。

(ここはやっぱり悪役令嬢的なポジションの人間がいるのかしら??)

A子はクラスだけでなく、「学園」そのものの情報を集め始める。だが、あまりに大人びた人間が多すぎて情報がなかなか集まらなかったが、彼女の生活範囲内には悪役令嬢的な高飛車な令嬢など一人もいなかった。


ふとA子が一人で歩いている時に何げなく聞こえてきた話し声に耳を傾ける。

「ねぇ、やっぱりあなた王太子様狙い?」

「そうしたいけど……無理じゃないかなぁ……成績トップクラスで魔力も出自も問われるとか?」

「やっぱりD侯爵子息狙いか……」

「高嶺の花ねらいだねぇ……何方にしろ勉強頑張らないと駄目ね……」

「やっぱりそう思う?、ああ、もぅ! 転生してもひたすら勉強するとは思わなかったよね。「参考書」もいいの無いし」

「あ、それなら街の本屋で売ってるらしいわよ?」

「え?! なんで!? 貴族階級の本屋にないの?」

「ほら、やっぱり転生者がからんでるんじゃない? 商売になるって」

「なるほど……買いに行かせないと……」


A子は思わず立ち止まって聞き入ってしまう。話をしていた令嬢たちは彼女の気配に気が付き、少々驚いた表情をしたのちに礼をしてその場を足早に去っていく。


(……転生者達……あの子たちも転生者? 「参考書」なんて言い方……こちらの世界にはないわよね……)


A子は家への帰り道で護衛の騎士と共に市井の本屋へと向かう。そこには貴族階級にはない、まるで「地球」の本屋のような光景が広がっていた。そこには貴族街で見ない様な色々な物語や絵本なども置かれていた。

「ね、ねぇ……この本屋って、なんでこんなに広いの??」

「そうですね。市井の世界はこんな感じですね。貴族階級だけ伝統を重んじている感じなので」

「文章も手書きじゃなくて……これは「活版印刷」……」

「え? お嬢様、よくご存じで。さすが「神のいとし子」ですね」

「……ねぇ、「神のいとし子」って転生者ってことなの?」

「自分もあまり詳しくはないですね。ただ前世の知識を持ってる方が多いとか?」


「……なんてこと?!」

「てっきりもうご存じかと……」

「この辺の「参考書」をまとめて買って帰るわよ!」

「はっ。仰せのままに」


A子は護衛の騎士と共に急いで家へと帰り、自室で勉強中のB子のもとを訪ねる。

「B子!! あなたも転生者だったの!?」

「へ? お姉さまも?? やっぱりそうだったの?」


B子は驚いたあと、A子にどこ出身だったか何歳の記憶があるのか……などの話をしていく。A子もしばらく楽しそうに話をしていたが、ふと学園での事が頭によぎる。


「ねぇ……B子、どうやらこの世界には転生者がたくさんいるみたいなの。ほら、この「参考書」も……」

「そうだよね、この文明レベルで活版印刷とか、電子機器の様な魔術具はおかしいものね……」

「え?」

「気が付かなかったの? 街に出た時に沢山あってちょっとドン引きしてたんだけど……」

「ってことは、この世界は転生者だらけってこと?」

「……そうなるんじゃないかな? 女神様も「悪役令嬢」に転生したい人は今日あなたで10人目って言われたし……」

「……え?」


A子は、B子の予想外の答えに狼狽し、持っていた「参考書」を落としてしまう。

B子は「参考書」を広げてペラペラと中身をめくる。

「まとめ方とか……図とかグラフが書いてあるね……本当にあちらの世界の「参考書」ね。まるで出版業界経験者のような……」


A子はいろいろと理解し始め、執事に質問をする。

「ねぇ、王太子様と結婚……婚約するにはどうすればいいの? そもそも「婚約」って話を聞いたことが無いわ?」

「はい、まずは王太子様と婚約されるには……「神のいとし子」であることが最低条件になります。そのうえ勉学で優秀な成績を収め、魔術も自在に扱え、ある程度の武術、そして貴族のしがらみをいなせるほどの社交術が必要になります。大丈夫です。お嬢様方は優秀な部類にいるかと存じますのでそのまま努力を続けていただければ……必ずや、王太子様の目にとまるかと……」


A子は自宅にあった大量の蔵書に書かれていた歴史の知識を思い返す。

「おかしいじゃない! 貴族同士は幼い時には「婚約」するって文献には書いてあったんだけど!」

「はい、ここ数十年で、「神のいとし子」様がかなり現れるようになりまして、学園での成績と生活態度などをみまして、王太子様が結婚相手を見つけるようになっております。幼少の時の婚約は「神のいとし子」様が大量に現れる前はあったようですが、最近はしなくなったようですね」


「お姉ちゃん。もしかしたらこの世界だと、貴族はみんな6歳になると突然前世の記憶に目覚めて、あちらの世界のまともな性格になるんじゃないの?」

「……そうだとしたら……」

「……学園でひたすら勉強をして……いい成績を……納めないと……」

「……私はこれ以上無理よ……今までも結構無理して来たのに……」

「私は頑張るよ……お姉ちゃんもがんばろうよ! 日本にいた時と変わらないじゃない!」

「……そうなんだけど……」

「また受験戦争になるだけじゃない!」

「そ、そうなんだけど……またぁ??」


A子は現実を知ってもモチベーションが下がらないB子を尊敬のまなざしで見ていた。


A子は自室に戻ると本屋に並んでいた物語のタイトルを思い浮かべていた。

どうやら転生者達はまだ流行のラノベを出版していない様だった。

A子は折角なので前世で人気だった「悪役令嬢の物語」を書き始めた。


§  §  §  § 


新人プランナーは疲れた顔をしながら主任に声をかける。

「主任、あちらの世界からクレーム……いや、送り届けた転生者達からのクレームがあちらの管理者に上がってるのでもう少し送り方を考えてくれ……との連絡がありますね」


「……やはり送りすぎましたか……新しい世界を開拓しないと駄目なようですね……営業部に連絡をしなければ……」

「全員が善人……まともな人間になったら……普通の競争社会になっちゃうんですねぇ……」

「そのようですね。争いも減り文明は発展するのですが……その代わりに「努力の戦い」が始まるようですね。興味深い……覚えておきます」

「勉強になります。では営業部への連絡はこちらでやっておきますね」

「助かります」


新人プランナーは営業部の方へ「悪役令嬢」的な世界の新規獲得を依頼した。


§  §  §  § 

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