第8話
「はー、だる」
佐々木 拓哉は全身にのしかかる倦怠感で目が覚めた。
(昨日からずっとだな。熱は測ってもどうってことないし、学校行くのめんどくせえな)
そこまで考えていたところで、自分が制服を着て学校のカバンを肩に変えようとしていることに気付いた。しかし、気付いたとて、佐々木は自分の行動に何の疑問も感じない。
「でも、学校は行かないとだよなぁ......行かないと...」
誰に話しかけるでもない呟くように話す彼の足取りは重く、目はうつろになっていた。
翌日、佐々木は遺体となって発見される。
◇
熾条さんと出会ってから二日、彼女にかけてしまった呪いが今まで通りなら、明日にでも彼女は死んでしまう。
その日の朝、いつも通り制服に着替えて学校の支度は整えたが、今日の授業に出るつもりはなかった。校門をくぐり、自分の教室のある新校舎には行かず、真っ直ぐ旧校舎のいつもの教室に向かった。
「おはよう夕君」
熾条さんとの約束は昼休みだ。でも、居ても立っても居られなかった。たとえ僕にできることがなかったとしても、何もしないのは違う気がした。熾条さんが昼休みより先に来ているかどうかは知らない。それでもただ普通に授業を受けて過ごすより、彼女を待っている間に自分にできることを考えていようと思っていた。
「おはよう...ございます」
「来ると思ってたよ。じゃあ、ちょっと早いけど...今すぐ...呪いを解きにいこうか」
椅子に腰掛けながら話す熾条さんは明らかに息遣いが荒く、顔色も血の気を失って白くなっているのに気付いた。
「今からですか?でも、熾条さん顔色が...」
「うん。どうやら...思っていたより事態は深刻みたいだね。...おっと」
椅子から立ち上がった熾条さんは足に力が入っておらず、ふらついて今にも倒れてしまいそうだった。
「大丈夫ですか!?」
慌てて熾条さんを受け止めようと近づいたところをなんとか踏みとどまった彼女の手に制される。
「大丈夫。これは...私のミス。ゆっくり情報を集めて明日にでも呪いを解けばいいかな...なんて考えていた私が悪い。ちょっと
熾条さんはここまでする必要があったのだろうか。初めてこの教室で出会った時も、僕がこの学校で起きてる異変の元凶だと分かったのなら、わざわざリスクを冒して話さずとも黙って柳さんに引き渡せば良かったはずだ。それなのに見ず知らずの僕を助けようと動いている彼女だけがこんなに弱っていき、自分は何もせずただ傍観しているだけ...。
今までだってそうだった。この学校で起きている変死事件に自分が関わっているのではという自覚を少しでも感じていたはずなのに、ただじっと黙って学校で過ごしていただけ。でも...もうそんなのは終わりにしよう。
「熾条さん。どんなに些細なことでも構いません。何か僕にできることはありますか?もう、ただ見ているだけは嫌なんです!」
僕の心の内を読み取ったのかは分からないが、彼女は僕の顔を見ながらふっと笑った。しかし、その笑顔からは確かな優しさを感じた。
「じゃあ二つ、お願いできるかな?」
◇
空はまるでこれから何か不吉な事が起きるの予感させるように厚く暗い雲に覆われていて、その上にあるはずの太陽の光はほとんど遮られていた。そんな皐月高校の校門の前に柳は立ち、旧校舎を見ながら呟く。
「やるならさっさと終わらせてくれよ熾条。あたしは楽に仕事ができればそれでいいんだ」
今にも雨が降り出しそうな空の下、ジャケットで隠しているショルダーホルスターにある銃を、今一度触って確認する。
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