リガイシュ
浅葱 沼
第1話
空気は澱み、教室内は12月の冬の肌を刺すような寒さに加え、異様なピリつき感じる。
(まぁ、しょうがないか...)
それもそのはず、この皐月高校ではこの一ヶ月の間に校舎内で二人の学生が変死体となって見つかる事件が起きた。
いずれの学生も休み時間中にいなくなり、その日のうちに学校内で死体となって見つかっているが、犯人はいまだ捕まっておらず学校周辺の至る所に警察がパトロールで目を光らせている。
犠牲者の一人目は二年生で明るく誰にでも人当たりが良いことで評判のみんなのアイドル的女子生徒、中嶋 美緒。
二人目は一年生の素行が悪く教師達の間でも要注意人物扱いをされていた男子生徒、佐々木 拓哉。
そんなタイプの全く違う二人の学生の度重なる死は、学校内の生徒達に次は自分かもしれないという緊張感を走らせ生徒同士の会話もめっきり減ってしまった。
現在時刻は12時30分過ぎ、昼休みに差し掛かったところだが教室内は生徒同士の会話で盛り上がるわけもなく、ただでさえ事件のせいで欠席者が多い中登校している生徒たちが黙々と食事をしながらお互いに距離を測っているような視線が飛び交うばかりである。そんな中、僕が席から立ち上がると一斉に視線が集まるもあまり気にしないようにしながら教室を出る。
廊下に出ると教室より冷える空気に身震いしてポケットに手を入れる。食堂近くにある自販機で缶コーヒーを買って両手でその温もりを堪能してからカイロがわりに上着のポケットに入れるとふと渡り廊下が目に入った。
皐月高校には新校舎と旧校舎があり、Hの形になるように二つの校舎を繋ぐ渡り廊下が存在する。今僕がいる白く塗られたアスファルトの建物が新校舎で渡り廊下の先に見える茶色がベースの木造の建物が旧校舎なのだが、廊下の先に見えるその旧校舎の入り口には立入禁止と黒字で書かれた黄色いテープが人の侵入を拒むように乱雑に貼られている。
旧校舎は現在使用を禁止している。二人の遺体はそれぞれ旧校舎から見つかっており、一人目の中嶋の死体が見つかった日から警察によって封鎖されてしまったためである。その後大して日も経たずに佐々木の死体が封鎖された旧校舎で警察によって発見されたことで、警察が毎日のように来ている中どうやって死体を運んだのか、どうやって殺害したのかと謎は深まるばかりで捜査は難航しているらしいが、元々旧校舎は授業に使われることはほとんどなく部活動の部室棟として存在している程度だったので授業自体に支障はきたさないのだが、学校の中に立ち入り禁止のテープが貼られているだけで物々しい雰囲気を感じさせる。
ほんの一週間前までは旧校舎の入り口の前には門番のように立っている警察官やら中に入っていく警察たちの姿が数多く見受けられたが、もうこの場所で調べることは無くなったのか旧校舎からはほとんど人の気配が感じられなくなっている。
そんな旧校舎を眺めながら立っていると、渡り廊下の先の旧校舎の入り口から不思議な匂いが香ってきた。
どこか懐かしいような、甘く、優しい匂い。強烈に香るのに決して嫌な感じはしない。
その匂いを感じた瞬間、心のうちから僕はこの先に行かねばならないような気がしてきて匂いに誘われるまま立入禁止のテープを押し退けて旧校舎の中に入って行った。
旧校舎の中に入るとしんとした静寂だけが流れていた。正面には上に続く階段があり、その左右に教室が伸びていく。木造らしく床や階段も木で造られており窓から差し込む日が空中に浮かぶ埃と床を照らしている。相変わらず不思議な匂いは旧校舎全体に漂っているが、僕にはなぜかその匂いが上の階からから香っていることが分かった。
静かなせいで階段を一歩踏み出すとぎしりと軋む音が響いた。旧校舎は四階建てだが上に登れば登るほど匂いはキツくなっていく。最上階の四階に着くと、右に見える廊下の一番先が匂いの元だと直感した。ここまできてやっと何故こんなところまで来たのかと後悔したがそんな意思に反して足は止まらない。左の窓から新校舎が見えたが、廊下に人影は見当たらなかった。
一番奥の教室の前でその場所の名前を確認しようと見上げたが、本来名前を差し込むためのスペースには何も書かれておらず、茶色い木に囲まれてポッカリと白い空間が空いているだけだった。教室は廊下側に窓がなく、ドアにも窓は取り付けられていないので中の様子は伺うことができない。
ドアの取っ手に手を掛けて横にスライドさせる。鍵はかかっていなかったらしくガラガラという音を立てながらドアが開く。
教室の中に入ると僕のクラスと変わらない元々は普通の授業が行われていたのであろう広さの空間が広がっていた。数少ない机や椅子のほとんどは教室の隅に寄せられ、ただ広い空間が広がっているだけだった。ただ一点を除いて。
教室の中心に彼女は立っていた。
肩ほどの長さの黒髪は後ろの毛先だけ赤く染まり、綺麗に切り揃えられた前髪の下から覗く切れ長の目はどこかこちらを品定めしているように感じるが、とんでもない美人だった。こんなに人の目を引きそうな彼女は皐月高校の制服こそ着ているものの、僕は初めて見る顔だった。
そんな彼女の隣にある一つの机の上には小さな壺のようなものが置かれていた。壺には唐草模様のような意匠が施されており蓋の部分から薄く煙が立っていた。どうやら香炉か何からしく、あれが匂いを放っていた正体なのだと直感した。
「お、よく来たね」
彼女と目があった時、胸の奥の何かがぐっと苦しくなるのを感じた。
それが僕『
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます