第16話 飯星カンナの自分語り。

 飯星カンナ目線


 自分が変わったやつだと思われてる自覚はある。変わったやつというか、変人? 別に構わない。


 そう思われてもいい。どうせ鷹崎たかさきを卒業したら、顔を合わせることのない連中の顔色をうかがい、取りつくろうことに意味を感じないだけのこと。


 言い換えれば、私に顔色をうかがう気にさせない奴らが悪いまである。ただ、石澤凪沙なぎさも私からしたら負けず劣らずの変人。そしてびへつらう達人。


 そんなこともあって、彼女を変人と認識してるのは私とたぶん、瀬戸悠子だけだろう。瀬戸悠子はクラス分け早々、石澤凪沙のことを警戒した目で見ていた。そう感じた。


 そして彼女の勘は正しかった。この場合私の勘でもあるが、私の場合、瀬戸に比べ漠然としていたが日を追うごとにわかった。


 石澤は、石澤凪沙は誰かのモノが欲しくなるタイプらしい。


 この一点においては私も変わらない。否定できない。だからわかったに過ぎない。ようは同じニオイがするってこと。そしてお互いそれを隠すのがうまい。


 私は人との接点を極端に少なくする。誰かに興味を持たれなければ、誰かのものを欲しがってるとは気付かれない。


 石澤凪沙の場合は笑顔と明るさで自分の内面をうまく隠せている。私と瀬戸を除いては。じゃあ、瀬戸は同じ人種なのかというと、瀬戸の場合違う。全然違う。


 彼女の場合は、警戒する対象が石澤凪沙をピンポイントで狙ったんじゃない。瀬戸がいつも一緒にいる、長内おさない佳世奈かよなの彼氏枇々木ひびき俊樹。彼を、彼の趣向に警戒しているからだ。


 枇々木君の趣向にどうやら、私と石澤凪沙が引っかかった。こんな事故物件予備軍のなにがいいやら。


 結果枇々木ひびき君の行動から私たちは一網打尽いちもうだじん。とはいえ、私は極力人と関わらないから石澤凪沙ほど警戒されてない。


 そうは言うが、私が唯一話をするのがその問題の枇々木俊樹だったりもする。今日だって呼び出されたら嬉々ききとして出かけた。


 もちろん『嬉々』の部分は隠している。でも、男子に呼び出されるのは生まれて初めてだから、正直彼への好感度が上がった。


 だから。だからってのは言い訳。私は自分で言ってるように自分語りがしたかった。自分のことを知ってほしかった。


 いや、言い方あいまい。枇々木ひびき君に知ってほしい。普段から少し声をかけてくれる枇々木君に聞いて欲しかった。


 何かと気にかけてくれる彼に聞いてほしい。そう思ってしまった。枇々木君の彼女、長内さんは目立たないけど、違うか。目立たないようにしてるが正しい。


 だけど、かなりかわいい。空手の有段者らしい。こういうのがギャップ萌えとか言うのだろうか。わからない。


 私の父は病院を経営していた。地元ではそこそこ大きい。年の離れた兄姉がいて、二人共医療の道に進んでいた。


 私自身内心は反発しながらも勉強は欠かさない。枇々木君にはどういったかな。


 いろんなことをいっぺんに喋ったので覚えてない。親のこと、病院のことは言ってない。


 親に反対されたから美術科を諦めたとか、ウソ言ったかも。

 ウチの父は私だけでなく、兄や姉に対しても医療系に進めとは言わない。


 そんな話は聞いたことがない。いや兄姉とは年が離れてるから知らないだけかも。私にだけ言わないとなると、期待されてないからかも知れない。


 一度だけ美術科のことを言おうかと思った。両親とも言いにくい空気を出す人じゃないし、子どもが望むならと許してくれたと思う。


 でも、私は皮肉れてるからその許しが――見捨てられたって取るかもと、恐れた。思い込むであろう自分の内面を恐れた。


 美術科に進むことに有利なことを提案されたらされた分、突き放されたと感じてしまう自分だと理解していた。


 だから、枇々木君には耳障りのいい言い訳をしたかも知れない。

『親にも反対されたし』みたいな。


 つまりあれもこれも、どれもそれも自分が怖くない道を選ぶための言い訳な気がする。


 私が持ってる液タブだってA社の最新の物だ。しかも容量が1番大きい、高校生が絵を描くだけに使うには、ちょっと高額すぎるモノだ。


 それを合格祝いに両親からもらった。知ってたのだ。私のことを、したいことを、目指したいものを知ってた。


 でも、だから余計に私は迷っている。この両親と兄姉の進んでいる道を外れる孤独に耐えられないかもな自分を、知っている。


 知っていて、わかっていて、理解してもまた聞いてほしいのだ。彼女がいる枇々木君に。


 石澤凪沙という愛想のいい同類。そんな彼女とも仲のいい枇々木君にわかって欲しいという、どうしようもなく歪んだ願望を胸のうちに持っている。


 でもその願望は昨日までは妄想で、叶うことも叶えることもないと思い込んでいた。


 そう思いたかった。そう思えれば諦めもつく。それはそれでよかった。いや、それがよかった。


 時が過ぎれば、視線を逸らせば自分を騙すためだけの極上のウソをつけばよかった。


 この小さな思いに気付かないふりさえしていれば、この感情が芽を出し葉を蓄え花を咲かせ実をつけることがなかったハズだった。


 この先に続くストーリーは悲劇ではない。笑えない喜劇だろう。見たことのない滑稽な役回りを私は演じることになるだろう。演じた先に何かあるなんて期待してない。


 端役でも名前のない役でも舞台に上がれば、物語の主役の視線の中に収まることが出来る。


 なにも望まないなんて嘘だけど、今はそれでいい。今日彼が呼び出したのは私なのだから。





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