いつか、ラブコメみたいに笑いたい。

第1話 枇々木俊樹目線

枇々木（ひびき）俊樹（としき）目線。

　中学時代黄金世代なんてもてはやされながら市内リーグを突破するに留（とど）まった。

　理由はいくつかあるだろうけど、結論はひとつ。自分たちより他のチームが強かった。それに尽きる。県大会なんて夢見るもんじゃない。

　自分で言うのもなんだけど、僕は市を代表するフォワードで、それなりにゴールを重ねていた。僕よりゴールを重ねてる奴は同じ中学の相方だった男だ。僕は中学サッカーでそれなりに満足を感じていた。

　部活ってのはこんな感じで、仲間ってのはこういう奴らを言うんだと思った。仲間内は仲がよく引退した後もよく一緒に遊んだりしてる。

　このままこいつらと付き合っていくんだと、なんとなく思っていた中三のある日、相方で親友と言っても過言じゃない奴があるサッカーの強豪校の推薦を受けると言い出した。

　その高校は小一時間電車に揺られないとたどりつけない場所にあって、しかも工業高校だった。工業高校にも女子がいないわけじゃないが、普通科に比べて断然少ない。女子が少ない高校生活なんて地獄だろって説得した。

　正直同じ高校に進学するものだと思っていた。成績は同じくらいだし高校でもコンビを組んでサッカー出来たら楽しいだろうと思っていた。だから女子がいないと地獄だろとか言って少し脅した。

　割とモテるヤツで、入れ替わりながらも彼女がいることが多かった。だから僕の言葉に耳を貸すと思っていたが、だけど僕の言葉に耳を貸さないまま、その工業高校の推薦を受け合格。

　僕は一度も誘われることがなかった。理由はハッキリしている。うちの両親だ。うちの両親は偏見が強い。工業高校は就職希望者が行くところで、大学に行く者が選ぶ高校ではないと、そういう事を平気で言う人たちだった。そして高卒で働くことを「負け」と平気で言う人たち。

　その事を知っていたからアイツは誘わなかったのだろう。

　付け加えると僕が親を説得できるほど、サッカーに情熱を持ってないことをアイツは知っていたのかも知れない。だから誘われなかった。事実僕にとってサッカーは体力づくりと仲間を作ることが目的。だから別に何でもよかった。

　小学校時代に近くのクラブチームに通っていたのでサッカー部でいいや、そんな決め方だったと思う。簡単に言ってしまえばアイツとは熱量が違うのだ。

　そんなわけで僕は僕なりに考えた結果家から１番近い公立高校に進学することに。いろんな意味で普通の高校。部活動も熱心過ぎずそれなりに活躍してる部もあったり、進学もそこそこしてる。そんな割とある高校。確か、女子バレーが強かったんじゃないか？　あと、ジャズ部なるものがあり、レベルは全国区だ。

　一応サッカー経験者で、市内ではそれなりに目立っていたのですぐにサッカー部に勧誘された。サッカー部は近くの高校の中では、そんなに弱くはない。例えるなら２回戦くらいは勝てる可能性のある高校と思ってもらったらいい。

　強くはないけど最弱ではない、そんな感じの高校だから中学時代の事を考えると入学後すぐにレギュラーになった。自慢してるように聞こえるかもだけど、部員の何割かはサッカー未経験だし、経験者の先輩でも練習にあまり参加しない。

　そんなサッカー部だった。背番号も空いていたこともあり、中学の頃慣れ親しんだ『９』をつけることに。ユニフォームだけはカッコよくイタリアにあるチームの白と黒の丸パクリ。

　中学時代と変わらないレベルの練習。部活なんてこれくらいでいいだろう。そんな感じの練習量に僕はどこかで満足していた。部活だけで青春を終わらせたくない。楽しいことや、やりたい事はいくらでもある。

　部活以外にも体力を注ぎたい。それが高校生活の醍醐味だろうと思う。簡単に言ってしまえばサッカーをファッションでしてる感じだ。サッカー部だというブランドが欲しくてやってると言われても反論できないし、たぶん部員の誰もが反論しないだろう。僕だってとんでもないところに来てしまったとは思わなかった。

　そんな軽い汗をかく程度に練習をしていたある日。僕は転がったボールを取りに体育館脇の手洗い場まで来ていた。そこからすぐ近くのところにクラスメイトの女子が座って液タブに何かを描いていた。

　あまり話したことがない女子だったが、その日は話しかけてみた。部活中いつもそこに座っていたから勝手に親しみを持っていた。

「なにやってんの？」

「それを聞きたいなら私の質問にまず答えて。はた目から見ても温（ぬる）い部活に何でマネージャーが５人も必要なの？」

「それはわからないかな。本人たちに聞いて、別に強制連行してマネージャーさせてるわけじゃないだろうし」

「ふぅん。答えになってないわね。じゃあ、別の質問。あそこに座ってるのは君の彼女でしょ、見た感じマネージャーとは違うようだし。なんで毎日部活終わりまで待ってるの？　時間の無駄じゃない。君、拘束系なの？」

　このクラスメイトの液タブ女子が言ってるのは確かに僕の彼女で、幼馴染。中学の時から交際している。地味で目立たないけど、気立てのいい子。昔からずっと一緒。小さいときからずっと側にいて僕の面倒をいろいろ見てくれた子。

　やや低めの声が心地いい。少しクセがある髪の毛、ぷっくりとした唇。機嫌がいいとすぐに鼻歌が出る。なんの歌なのかいつもわからないけど。

「先に帰っていいとは言う」

「帰れとは言わないってことでしょ。そんなの帰れなくない？　帰った後でご機嫌斜めとかマジでやめて欲しいし」

　見てきたようなことをいう。だけど大なり小なりというか、多かれ少なかれというか。確かに自分の時間を消費してまで待つ必要はない。僕は部活棟の側の古びた青いベンチに座る幼馴染兼彼女に「帰らないの？」と聞いた。

　彼女は首を傾（かし）げ「なんで？」と聞き返す。僕は長距離から体育館脇の液タブ女子に肩をすくめて見せた。こんな距離でも溜息が聞こえそうだ。

　□□□作者より□□□

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