第六十七話 ドス濃い

ここ、魔国の商店街はいつもにぎわっていた。

というのも、王道の店は百貨店に集められたが。ニッチ過ぎる需要というものは存在し、それらを満たしたければ、混沌(カオス)商店街にいけというのが魔国の常識だからだ。


今日も、一人の漢(おとこ)がとあるスナックの看板を見ていた。


その漢もとい男というのは、ラクセイ。

彼は、このスナックの常連の一人。



ちなみに、スナック「ドス濃い」という名前だ。

いつも、スタッフ募集の貼り紙がしてある。


ブスなら給料アップ、デブならもっと給料アップ。デブでブスならごっつ給料アップ、ビチグソ潰した様な顔なら言い値で言った条件で雇いますなる文言が書かれており。

可愛かったり、かっこ良かったら秒で帰って頂く事がありますとの注意書きまで一番下に追加されていた。


(これで来る奴はおらんやろ……)というのが常連の共通認識であり。


仕事で疲れたアナタに、待っているのはドブスな鬼嫁だけです。

そんな、マニア過ぎる需要にこたえるべく爆誕した店であり。



実は、結構需要があるから繁盛している訳だが。とにかく、店の女の子男の子を確保するのに苦戦しているという一面がある。



ちなみに、この商店街こんな一部のマニアしか用事が無さそうな店が並んでいて。

通行人同士で何故か、目線だけでお主もかと判りあえる一帯になっていて。


種族性別関係なく、ここに来るって事はお前もやろという空気になっているのである。


ちなみに、使い捨ての薄い布のコスプレ服ありますとか。

僕の黒歴史も白紙にしたいですとか、実に様々な看板が随所にある。


まず、子連れでは来れない。いや、こない区画でもある。



まず、作法としてラクセイは深呼吸し。スナックの入り口にあるこれまた突っ込み所満載のインターホンを力強く押した。


その、インターホンにはこう書かれている。

「こちらのボタンを押して、大きな声でピンポーンとおっしゃって下さい」


そして、ボタンの所にはPUSH!!と力強く表示してある。



「ぴ~~~んぽ~~~~~~~ん!!」大きな声でいつも通り発声するラクセイ。


中から、ゲテモノ達が歓迎する様に飛び出てくる。

「あら?、ラクセイちゃんじゃない!」


ラクセイは近衛兵になる前から、この店に通っている。ちなみに、彼はゲテモノが好きな訳ではない。「ママ、いつもの奴を頼む」「は~い♪」


ママと呼ばれた店長も、筆舌にしがたいゲテモノではあるが。慣れた手つきで、ラクセイからお金を受け取ると「いつもの」を作る為にキッチンに消えていく。


ラクセイが通い始めた頃からあるカウンター席の横の壁では、普通の店ならビールを掲げた美女等が貼ってある辺りには「当店でお気付きの点がありましたら、どんな小さな事でも口をつぐんで頂きたい」と何故かゲテモノ店長のウィンクした三段腹のビキニグラビアが貼ってある。


誰得だよ……と常連の間では思われてるが。



ちなみにこの店、クリスマスや正月にカップルで店に入ってくるのは禁止だ。

その手の日では、お一人様限定デイになる。


「ラクセイちゃん、お待たせ♪」ママが用意してくれたのは極太麺の油そば、その名も極豚。からあげ、極厚チャーシュー、キャベツにモヤシがドカンとのった一品でその凄まじい香りと味でこれを食べにくるだけの客もそこそこ居る。



ラクセイも、この油そばを食べるだけの客の一人だ。

いつも通り、かけダレと呼ばれる辛旨ダレやニンニク等の卓上調味料で好みに調整し大きく口を上げて食べようとした瞬間。


バームクーヘンを疑う厚みのチャーシューが箸から落ちた。


(なんで、いるのぉぉぉぉ?)


そう、自分がいつも座っているカウンター席の四角い小さめの椅子の横でアリアちゃんがうっきうきで座っていた。


身体をゆらし、ママにお金を渡すと。「お子様用のミニブタを頼む」


しばらくすると、お子様用のデフォルメされた豚のキャラクターに入った。子供用に調整された優しい豚ソバが出てきた。



(美味そうなんやが?!)



ラクセイは、今日初めてみるお子様専用メニューなる豚ソバの存在に眼が釘付けになっていた。「あげないぞ」「いや、結構です。ただ、自分の知らないメニューでしたので」と丁寧に返すと。ママが「あら、ラクセイちゃんがていねいに答えるなんて珍しいわね」



(いやいや、こんなんでも魔王ですからね?)



「そうか」それだけいうと、モリモリと食べ終えてご馳走様でしたと手を合わせていた。


「今日は、夕飯いいんです?」「今日はははうえが、お外で食べてきてって」


(そりゃ、ヒルダリア様はむしろあれで良く普段アリアちゃんのご飯まで城の料理人の手を借りてるとは言え回してるなと感心するが……)



「帰りは、ご一緒しても?」「うむ、肩車してほしい」

「それでは、ラクセイタクシーにお任せを」それだけおどける様にいうと、アリアもにっこり笑った。


「あら~いいわねぇ。ラクセイちゃん、私も……」「いや、無理ですから」


ママの言葉に、真顔できっぱりとラクセイが答える。魔王もプリプリしながら、「ラクセイタクシーは私のだ、他をあたれ」というと。ざ~んねんとぶりっこしていて、ラクセイはさっき食べた食事が若干喉から昇って来ていた。


※元ネタは、実写でそういう店やぽっぷがあったからです。それ以上は、聞かないで(ぇ

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