第四十九話 黒騎士(絶望)物語

エキシビジョンマッチからしばらくして、ゆかりちゃんはずっと眼をハートマークにしながら「黒騎士様~~」と甘い声をあげていた。


それだけではなく、貴族達もあの一件以来黒騎士へのラブレターが猫トイレの砂の様になっていた。



「どぼじで……」魔王様はゲッソリしながら大地の敷物になっていた。


「あれから、ギジェルは魔法もスキルも使える事が判ってひっぱりだこなのに。頑なに俺はもっと強くなるんだって修行してるわよ」


ヒルダリアがアリアにそういうと、アリアはさらに大地に沈みこむように溶けていく。「どぼじで……」



最近はお昼寝しようと思っても魔王城の庭から、軍部や騎士達の一段と暑苦しい声が止まる事を知らぬエキゾーストの様に聞こえてくるありさま。



「煩い、ははうえが出ろって言うから出たのになんでこんな事になるんですか」


「ギジェルはパパの時代と比べたらやる気失って、萎びた海藻みたいになってたのよ。だから、目標を持てれば生きようって気になるかと思ったのだけど……」


ヤル気が出るどころか、最近では勝利して顔を拝んでみたいだの。

貴族と一緒に、ほらラブレターまで送ってるわよ。


そういって、アリアの前に手紙を差し出す。実に実直で美しい文章で書かれていたのだが、全部ビリビリと破いてゴミ箱に投げ捨てた。


「おっさんはイヤ」「そりゃ、アリアちゃんが大きくなったらお爺ちゃんだものね」とヒルダリアが苦笑した。


「ははうえ、何とかして下さい」アリアが涙目でヒルダリアの方を見るも「凄いわよ黒騎士人気」と答える。


特に、コボルトとかゴブリンとかスライムみたいな力の無い種族から。頑張れば俺達も俺達も魔王様の側近になれるかもしれないっ!とか言って国民総兵士になる気かって、勢いで鍛えてるらしいわよ。


魔王はほっぺを膨らませ、その手を母親にみせながら。

「ははうえ、腱鞘炎になりそうです。サインの書き過ぎで」


出かける度に、魔王城の中ですらサインをねだられ(パパンにも)。定期的に母親の所で治癒魔法を受けている有様。本当は、自分でもすぐ直せるのだがははおやに手をにぎりながら治療してもらえるので。アリアは不貞腐れながらも、ママンの所で治療を受けているのだ。


「正直、ママも中身を知って無ければパパンと離婚して黒騎士様~ってなってるわよ」

何あれ、あんなカッコいい女性騎士が居ていい訳ないでしょと熱弁。


さらに、げっそりした表情になる魔王様。心なしか、雨の日に捨てられたか細い声で子犬の様な声をあげていた。


「号令かけたら、アリアちゃんとは違う意味で人の国を滅ぼせるわよ」

「イヤでゴザル」


そういうと、ルイボスティーに氷をいれたグラスをからりとやった。


「そういえば、エターナルブルーだっけあんな剣魔王城にあったかしら」


「あぁそれなら、剣士が剣を持ってないと不自然だからつくりました」


パパンの胸毛を一本風呂に落ちてたのを拝借して、剣の形にしただけだとママンに説明。


(一瞬で固まるママンの表情)


「はぁぁぁぁぁぁぁ?」思わず声が裏返るママン。


「じゃぁ、この紅茶の葉を入れているティーパックを何かの武器に変えれるのかしら」


そっと、避けていたパックをアリアちゃんの目の前に持っていく。


紐の部分を摘まむ様に持って、アリアが魔力を込めるとそこにはルイボスティーの刀身の色をしたロングソードがあった。


それを見て、ヒルダリアの眼が限界まで見開かれる。



(それは強すぎでしょ、紅茶色の魔剣になってるわよ。宝石よりも美しいじゃない)


「アリアちゃん、それは外ではやっちゃいけませんよ」脂汗を一筋流すヒルダリアにアリアはぶすっとした顔で頷いた。



「これ、効果時間はいつまで?」「私が解除するまでです」

「何本位いけるのかしら」「何本でもいけますが、面倒なので絶対嫌です」

「剣以外の武器は作れるの」「私が知っているものなら、材料は必要ですが」


ヒルダリアの手が口元に当てられて、足と手が震えだす。


(これは……あかん)


「パパンの股間の毛で作りましょうか」「それは遠慮するわ」


急にスンとした顔で、全力拒否するヒルダリア。

「そうですか」と嫌がらせが失敗して、またぶすっとした顔になるアリア。


「もしかして、遠隔でも解除できる?」「人の国にばら撒いて、戦争仕掛けて来たら戦闘中に解除とかもできます。本来はそっちが使い道らしいです」


(我が娘ながら、どんだけ便利な能力してんのよこの娘)


「このルイボスティー色の剣は、普段紅茶色の薔薇のブローチにしておきましょう。剣をと唱えれば剣に、盾にといえば盾に。薔薇へと言えばブローチに変わります」


そういって、すっとさっきまでの剣を薔薇のブローチにしてヒルダリアに渡すと立ち上がり。「おやすみ、ははうえ」それだけいうとのっしのしと歩きながらドアの向こうに消えてしまった。



アリアが消えた後、ヒルダリアは無言で頭をかきむしる様にヒステリックな叫びを上げた。


(三話連続話 終わり)

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