整形アプリ~貴方の願望、かなえます~

夜道に桜

女優 浅倉 華編

第1話 

――どこか遠くでセミの鳴き声がする。


ミーンミーンミーン。


そう。ミンミンミンと。


耳を澄ませば、その音はだんだん大きくなる。


そしてその音は段々と大きくなり、耳鳴りがしてきた。


……朝からうるさい。


今何時だと思ってるの?


もう少し静かに出来ないの?


近所迷惑だよ。


……って人じゃないから言ってもしょうがないけれど。


私は頭の中でそうぐちぐちツッコミを入れ、はあとため息をついて、気持ちを固める。


(……もう……起きないと。起きて私)


もう少し寝たい気持ちはあるけれど、そうぐずぐずはしていられない。


私は、鉛でも腹に詰めているのではないかと思う程、重たい身体を無理やりでも起こして、枕元にあるスマホの電源を入れて、時間を確かめる。


2024/7/02/05:24


まだまだ本格的な夏はこれからだろうに、あまりに暑っ苦しい。


寝汗がひどく、シャツには汗がべっとりとついている。


身体を動かすたびに、シャツが擦れる感触が絶妙に気持ち悪い。


外からは、まだ早朝だというのに、相変わらずセミがミンミンと鳴いている。


私は、部屋に一つある小窓のカーテンを開け、そこから差し込む太陽の眩しい日の光を浴び、まだ虚な頭を強制的に目覚めさせる。


「うぅーん」


思い切り背筋を伸ばして、身体をほぐす。


二、三度、ストレッチをした後、私はパタパタと、軽く手で顔を仰ぎ、出来るだけ音を立てないように慎重に部屋を出る。


抜き足、差し足。


そして、部屋の横にある桜さんの部屋を通り、一階へと続く螺旋階段へと向かう。


最初ここに来た時は、どんなに細心の注意を払っても、床が古いのか、軋む音で、桜さんを起こすことになってしまい、「私の睡眠を妨害するな!」と、大目玉を食らってしまったっけ……。


今は要領を掴んで、そういう事も減ってきた。


階段を降り、朝食の準備を始める私。


冷蔵庫を開け、それなりに使えそうな目ぼしいものを取り出し、調理を始める。


……とはいっても、最近は来た時に比べると、手抜きがちになり、冷凍食品とか缶詰とかを取り扱うことが増えてきてはいるのだけど。


ばれてはないよ。ばれては。


桜さんは、普通に私が作ったものだと思い込んでいるから。


今日も、「ハンバーグ」をレンジでチンしたモノと、缶詰の「いわし」を、それっぽくアレンジして、皿に盛りつけて、テーブルに置く。


後は、ご飯。


野菜?


野菜はいれない。


極度に桜さんが嫌うから。


というか、桜さんが野菜を口に入れているの、見たことがない。


ベジタリアンの反対バージョン。ミー、ミータタリアンってそういう人の事を呼ぶんだっけ?


健康に悪いと思う。


おまけに桜さんは大の酒豪で煙草もプカプカと最近吸うようになったし。


どうやら、知り合いの人に勧められたらしい。


一度吸って以来、桜さんは1日に2箱も吸うヘビースモーカーに成り果てた。


何がそんなにいいのか、私には全く理解を示すことはできない。


周りにいて、煙を吸っただけで咳き込むし、私には無理だ。


一度、私にも「霊も吸う?」と、一箱渡してきた事があった。


勿論、断った。


年齢的にもまだOUTだし。


だけど、桜さんは受け取りを拒否し、「捨てずに持っておきなさい。20になれば吸えばいい。何なら、隠れて吸っても私が許すわ」とか何とか、言って聞かなかった。


結局、それは今は私の部屋の机の引き出しにしまってあるけれど、20歳になっても吸わないと思う。

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