罪と知って罪を重ねる
色葉みと
僕の罪
世界には、『知らない』という罪がある。
じゃあすべてのことを知っていれば良いのかって?
否、そういう訳でもない。
もしもそうだったらなんて分かりやすいことか、とは思うけど。
世界には、『知る』という罪もある。
僕はそれを知ってしまった。
***
自分の足音と虫の声以外に聞こえる音がない、暗い道を歩く。
流石に街灯の光だけじゃ見つかるものも見つからないよね……。
僕は新緑色の石が付いたペンダントを探していた。
肌身離さず持っていたそれがないことに気づいたのは、まだ日の明るさが残っていた頃。
あれから1時間は探している。
見つからなかったらどうしよう?
亡くなったおばあちゃんが僕にくれたお守りなのに。
「探し物はこれかな?」
「うわっ!」
振り返ってみると、顔立ちの整っている男性が立っていた。
大学生、かな? いやでも、……コスプレ?
男性は中世ヨーロッパの貴族風な華やかな衣装を着ている。
「そんな熱意のある眼差しで見られると照れるなあ」
「……あ、ごめんなさい?」
確かに凝視していたけど、熱意はなかったと思うんだけど。我ながらむしろ疑心に満ちていたような。
いやでも、疑心という熱意……?
「……ふふ、君面白いね」
……何目線?
そんなこと初めて言われたけど。いつもは真面目だねって言われるから。
「それで、君の探し物はこれかな?」
そう言った彼の手には新緑色の石が付いたペンダントが。
「そ、そうです! これです!」
「見つかって良かったね」
ペンダントを差し出してくれるその手から受け取ろうとする。
「ありがとうございま──」
バチッ!
「痛っ!」
な、何が起きた?
僕はじんじんと痺れる右手を押さえた。
男性は驚いたように両目を見開いている。
そして、その姿は段々と変化した。
口元から牙のようなものが見え、瞳は赤黒く光り、耳は少し尖っている。
まるで、物語に出てくる吸血鬼のように。
「君、吸血鬼って信じる?」
「……え?」
「信じるにしても信じないにしても、君の目の前にいるこの私が吸血鬼だということは変わらないけどね。……知ってしまったね。この世のものではない存在を」
どうしてそんなに悲しそうに笑うんだろう。
この男性が吸血鬼だってことよりも、この世のものではない存在だってことよりも、そんなことが気になった。
「おや、心配してくれているんだね。……ありがとう」
そう言いながら男性は一歩ずつ僕の方へと近づいてくる。
「君は知ってしまった。私が見せて、伝えてしまった」
また一歩。
どこかで警鐘が鳴っている。きっと逃げた方が良いのだろう。
だけど、身体が動かない。
男性の瞳から目を逸らせない。
見えない鎖に囚われているようだ。
「知ってはいけないことを知ってしまうことはね、罪なんだ」
また一歩。
もう僕と男性との間に距離はない。
男性は僕の肩を掴んだ。
「君は不思議な血を持っているね。
怖い? いや、不思議と怖くはない。
声も出ないし身体も動かせないようなよく分からない状況なのに、落ち着き払っている自分がいる。
「……そうか」
「ごめんね」
そんな声と、首に鈍痛を感じたところで、僕の意識は途切れた。
いつものアラームの音、いつもの天井、カーテンの隙間からは朝の光が差し込む。
ふと首に手を当ててみると、鈍い痛みが残っている。
あのペンダントは探しても探しても見つからなかった。
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