【完結】家族だからこそ、分かり合えないこともある。でも、家族だからこそ、最後には笑い合える。
湊 マチ
第1話 プロローグ
桜はカレンダーを見ながら、ふとため息をついた。母親の和子の還暦が近づいている。三姉妹の長女として、特別な祝いを計画するのは当然の役目だと思っていた。ふと、部屋の隅にある家族写真が目に入る。和子と三姉妹が笑顔で並んでいるが、桜の表情にはどこか緊張が残っている。
「よし、温泉旅行にしよう」と桜は心に決めた。母親がずっと行きたがっていた温泉宿を予約し、妹たちにメッセージを送る。「母さんの還暦祝いに温泉旅行を計画したわ。予定を空けておいてね。」
次女の葵からはすぐに返信が来た。「いいね!楽しみ~♪」と絵文字がたくさん付いたメッセージに、桜は少しだけ微笑む。しかし、心の奥には、葵との比較に苦しんだ記憶がよみがえる。葵は社交的で明るく、桜とは正反対の性格だ。いつも周りから「素敵な妹さんね」と言われる度に、桜の心には小さな棘が刺さった。
三女の涼からはしばらくして「了解。予定は空けてある」と短い返信が届く。涼は冷静で観察力が鋭い。家族の中でも一番独立心が強く、桜は時折彼女の冷静な視線に圧倒されることがあった。
そして、ついに旅行の日がやってきた。桜は運転席でハンドルを握りしめ、助手席には母親の和子が座っている。後部座席では葵と涼が楽しそうに話している。和子は「みんなで旅行なんて、久しぶりね」と嬉しそうに微笑んだ。
「本当にね、お母さん。今日はリラックスして楽しんでね」と桜が答えると、和子は「ありがとう、桜。あなたがこんなに気を使ってくれて嬉しいわ」と感謝の言葉を返した。
「ねぇ、桜、お母さんはどこの温泉に行きたがってたの?」と葵が興味津々に聞いてきた。
「母さんが昔から行きたがってたのは、あの静かで自然に囲まれた『紅葉の宿』だよ。落ち着いた雰囲気で、本当にリラックスできる場所だって聞いたから、そこを選んだんだ」と桜が説明すると、葵は「さすが桜、お母さんのことよく考えてるね」と感心した様子で言った。
「涼はどう?楽しみ?」と葵が涼に振り向いて尋ねると、涼は「うん、自然の中でリラックスするのは好きだからね。でも、みんながどう感じるかが一番大事だと思ってる」と冷静に答えた。
桜は少しだけ肩の力を抜き、「そうだね、母さん。今回はゆっくり楽しもう」と返す。しかし、心の中では、旅行中に何が起こるのか、少しの不安がよぎっていた。
到着した温泉宿は、美しい自然に囲まれており、静かで落ち着いた雰囲気が漂っていた。桜は宿のロビーでチェックインを済ませ、部屋に向かう途中で、ふと一息つく。ここで母親に最高の時間を過ごしてもらうことが、自分の使命だと強く思った。
「みんな、部屋に行こう」と声をかけ、家族全員が荷物を持ってエレベーターに乗る。これから始まる一泊二日の旅行。桜はこの旅行が、家族の絆を深める素晴らしい時間になることを願っていた。
温泉宿の静かな廊下を歩きながら、桜は心の中で決意を新たにする。どんな困難が待ち受けていようとも、この旅行を成功させてみせる。そう、自分自身に誓いながら。
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