第44話エピローグ

 朝日が差し込む廊下を俺は足早に歩いていく。いつもはまだ来ていない時間帯だが、今日は用事があるためにいつもよりも早く登校している。


 …と言っても、今は遅刻してる最中だ。ちょっとだけ荷物を整理していたら思いの外時間がかかってしまった。

 逸る気持ちと焦燥感に駆られながら階段を一つ飛ばしで登る。やっとの思いで目的の教室まで来ると、扉を開けた。

 中に入ると案の定お例外の全員が集まっていた。


「やっときましたね。遅刻ですよ灰様」


「ごめん…ロッカーの整理してたら思いの外時間喰っちゃって」


「ふわぁ…朝っぱらからご苦労様だな団長」


 俺が急いでやってきたのは生徒会室。今日から発足する生徒会が活動拠点として利用する教室だ。今日は活動初日ということで朝から集まろうという話になっていたのだ。

 中央にあるソファに腰を下ろすと、俺の前にティーカップが差し出される。


「どうぞ。朝からお疲れ様」


「あぁ、ありがとう」


 連夜が手渡してくれたティーカップに口をつける。見覚えのあるティーカップだが、これは…


「…なぁ真紀、これって」


「はい。私が家から持ち寄ったものです。我が物顔で出してる連夜様のものではありません」


「なんで僕に対してちょっとチクチクしてるの…?」


「まったくよ。試しに淹れさせたら、酷い腕。貴方のほうがマシよグレイ」


 彩亜の目の前にある紅茶が中途半端に余っているところを見るに、どうやらかなりご機嫌斜めなようだった。俺のでさえ飲むのだから、彼女にとっては相当酷かったのだろう。

 …いや、俺のだから飲んでくれてたのかな。


「みんな冷たいなぁ…」


「ははっ、顔だけだからそうなるんだぜ連夜。少しは自分を見つめ直すんだな」


「いつも情けない奴がよく言うよ」


 思わぬカウンターに紅蓮は連夜を睨みつける。連夜はわざとらしく肩を竦めた。


「ちょいちょい、喧嘩しないでよ。今日から俺等生徒会なんだから」


「…それに関しては私から一つ質問がありまーす」


 この教室で唯一一人、不服そうな顔をしている彼女に視線を向ける。彩亜は彼女の表情を見てニヤッと笑った。


「生徒会選挙で負けたはずの自分がなんでここに集められているのかって?」


「分かってるなら早く答えてよ」


 七海はむっとした顔で言い返す。彩亜は誇ったような瞳で七海を見た。


「貴方には敗者らしく私の元で働いてもらおうと思ってね。これから私がグレイといちゃいちゃするのを見て存分に悔しがってもらうから」


「相変わらずの性悪…私はまだ認めてないから!」


 ギャーギャー言う七海の言葉を彩亜は涼しい顔で聞き流す。そして俺の腕に抱きつくと、わざとらしくひっついてくる。その様を見せつけて彩亜はニヤッと嗤う。それを皮切りに七海と彩亜の言い合いが始まってしまった。


 これからこのメンバーで生徒会としてこの学園を動かすことになる。たまにはこういう賑やかなのも悪くはない。

 なによりも、今は彩亜が隣にいる。確かめあった想いは嘘じゃない。強固になった信頼の元で俺は彼女を支えるのだ。


 前世ではまともな言葉も交わすこともなく別れになってしまったけど、こうしてこの世界で巡り会えたことを今は幸運に思う。案外、神様ってのはハッピーエンドが好きなのかもな。


 今世では、彼女と共に歩んで行こう。幸せな時間を過ごして、しわしわになるまで一緒にいよう。

 この平和な時間を大切にしていこう。それが今の俺に出来る、精一杯のことだ。


「…?灰くん、その首元のやつなに?なんか噛み跡みたいな…」


「あら、隠し忘れてたわね。


「っ!?」


「このアマ…!」


 やっぱりこの二人と過ごすのは少し騒がしすぎるかも…

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