第49話 グリミー会に怒鳴り込み

24:14分 北日本便が到着した。

草加部は頭の整理をしながら荷降ろしを始めた。

この便については量も少なく、なるべく早く出発させた方がいい。


”要するに、我々のやらなければならない作業は変わらない。”


中沢が荷降ろしをしながら聞いてきた。

「なんで、やってやらないんだ?」

「もう、耳に入ったんですか?」

「夕方、発送の積み込みの時にな。」


大沢君は、台車がいっぱいになったころに台車を取りに来てくれていた。

相変わらずキビキビしていた。


「なんでと言われると、何から話していいか分からなくなりますが、自分の仕事を押し付けるのではなく、自分でやるという、当たり前のことの上に助け合いで手伝えるようにしたいんです。」


いつのまにか大沢も聞いていた。


草加部は続ける。

「やっておけ、なんでやってないんだ、回り切れねえどうしてくれんのとか、本来は自分の仕事なのに、あたかも構内作業員の仕事かのように言っているのが気に入らないんですよ。やってもらったら、ありがとうでよくないですか?それを、当たり前にしか考えていない、こちらの状況なんか関係ない。一線を越えてくるのも出てきています。」


荷降ろしした台車は溜まっていった。


中沢さんは黙って話しを聞いた後に、

「そうだよな、ありがとうでいいよな。」

「なんで、こうなったんでしょうね。」

「うまく説明できないけど、必ず東藤はそうい時にいるんだ。そのくせやらねんだ。」


荷降ろしが終わった。大沢君が書類に判子を押して持ってきてくれた。

中沢は、それを受け取りながら、

「昔からこうなんだ。」と言って、出発の準備を始めた。



草加部と大沢は、長話しは出来ないと思ったので、

「仕分けに入ります。」

と言って”コの字”に向かった。


中沢が、観音扉を閉めて出発した。


”もう広まり始めてんだな。

どう伝わって尾ひれが付くか。

これはいつもの風評の流布作戦だ。”


********


そして、3:26分 

グリミー大森のボーリング大会も終わり、草加部達は仕分け作業をやっていた。


事務所の前あたりで、

相変わらずの白髪のクルクル頭で少し前かがみでガニ股姿の大森と、

トサカ頭の能見、

ドレッドヘアが緩い感じの沢木

の三人で”グリミー会”でも開いているのだろうか。


キーウキーキィー

コッコーコーコッ、コッコーコーコッ

ウキーキーウキィーキー

とわざわざ聞こえるように話しをしていた。


内容は、

「俺が分けて降ろしてんだから楽なはずなのにや~、やってやればいいのになー」

「暇なくせに、我々は配達に行くんだぞ。」

「作業員の仕事じゃないですかねー」


という感じだ。


草加部は黙って聞いていた。大沢はゴリラと心で呟いているのかは分からないが表情には出ている。嫌だろう。


そして、大沢君が沢木担当の台車がいっぱいになったので運んで行った。


結構、重たいのだろう。体全体を使って引っ張り、体全体を使い踏ん張りながら押して運んで行った。


草加部は心配しながらも見守りながら仕分け作業を続けた。


「持ってくんなよ。こっちが狭くなんだから作業員が考えることだろ。」

と、紳士風な口調が聞こえてきた。


草加部の右まぶたがピクっとする。


「どうして、あっちのは、あんなにきれいにパレットにしているのに、こっちはやってくんないの。作業員は皆に公平にするのが仕事なんだから。」


さらに、紳士風な声で正論ぽく聞こえるが正論ではないことが聞こえてきた。


草加部の右まぶたがピクピクッと動き、左肩が上に上がって後ろに回りながら顔も左に傾き、ゆっくりと顔が正面に戻る。


大沢は、

「できないですよ。」と答える。

「どうしてできないの?」


グリミー大森はそれを見て悦に入っている。

白髪でクルクル頭の表情に湧き出ていた。


グリミー能見も口を出してきた。

「夜勤なんか楽なんだから、我々は大変なんだぞ。」

言い聞かすように言っている。


草加部は怒りが頂点に達していた。


”なんで? 俺に言わねえで大沢に言ってんだよ!”

”大沢は俺の言うとおりにやってるだけだ。”


「おいっ、なんで俺に言わねえんだ!」

凄い口調だった。もしかしてあっちの人と思われるくらい。


沢木、能見の顔色は変わった。大森は何か言いたそうだ。


沢木のプライドだろうか必死に紳士風に言ってきた。

「どうしてできないの?」

「どうしてできると思う?」

「・・・・・」


次に大森が言ってきた。

いつもグリミー会で言ってることだ。これは本音だと思う。

「ほとんどは俺が仕分けしてんだろう?夜勤なんていらねえんだよ。」

「じゃあ、どうして募集した?いらねえなら初めから募集すんじゃねえよ。」

「・・・・」

「なあ、大森さんよ~、何様になったつもりか知らねえが、おめえが決めることじゃねえんだよ。俺らは雇用主と契約してんだ。ここまで言われたからには、俺も黙っちゃいねえぞ。おーいっ!雇用主の社長連れて来いよ!」


草加部は3人の顔を見渡す。

「誰でもいいから呼べよ! おーいっ!日本語分かんねえのかよ!」


草加部は続けた。もう止まらない!3年溜まめてきたものを吐き出す。


「おーいっ!沢木! 

 なんで、あっちやったら、こっちもやらきゃなねえんだ?

 分かるように説明してくんねえか?」

「・・・・」

「いつから構内作業員の仕事になったんだ。誰が決めた!どうして、おめえらが構内作業員の仕事の内容と範囲を決めるんだ!えー答えろ!公平に全部やるのが作業員の仕事だーって言ったなー!おーいっ!」

「いや、自分はただただ全員で協力し合ってと言いたかっただけで・・・」

「だったらよ~仕分け手伝えよ~、今までやらせるだけやらせて手伝ってんの見たことねえぞ!」


グリミー大森が口をはさんだ。

「な~にが、ちょっとだけだべや、俺なんか1人でやってんだぞー」

「分かってねえな~、だから、これが、あんたの仕事なんだよ。500個荷降ろしするのと仕分けするのはどっちが時間かかると思う?だから、会社はこういう体制にしてんじゃねえのか?」

「・・・」

「勝手に業務員の仕事内容を決めてんじゃねえよ!」


ついでと思って草加部は核心に迫った。

「誰が言い出したんだ?」

「・・・・」


三人とも黙った。


「大沢君、仕分けに戻るぞ。」

「はい」と、なんか自分が悪いことをしたかのような返事をした。

「大沢君は悪いことしてないぞ!ズルをしてんのはあっち側だ。」


草加部と大沢は、”コの字”に向かう。


三人は顔を見回していた。


草加部の怒りは収まらない。

そこにあった空台車を荷降ろしホームの空台車に叩きつけた。

グゥアーーーーーン。

鉄と鉄がぶつかる音が響いた。


グリミー達はビックリした。が、大森がガニ股で前かがみで歩いてきた。


「何、物にあたってんの?」


”物にあたる?人にあたるわけにはいかねえだろ。”


「だめじゃないの?そんなことしちゃあ。」

自分が正義かのように、今が突っ込みどころだと、精いっぱいのプライドで、これを逃したら後はないくらいのノリだ。


沢木と大森も一瞬目が光った。


「おもしれえこと言いやがる。この怒り、どこにぶつけりゃいいんだよ!」


グリミー大森はもう引けない。プライドがある。

「やるか~」

と、右拳を肩の高さに上げ後ろに引いている。

目線は、草加部の右肩。軌道が見える。

右拳で突いてきた。大森には当たったと思った。が、その時には草加部の右足は45度後ろに回転していた。下っ腹を中心に回転したのだ。


”肩すかしだ。”


すかされた大森の右腕は伸びきり、前に重心が傾いているのでよろめくようになった。その時には既に草加部は、右手で伸びきった右腕の手首を内側から、左手で大森の右腕の肘を外側から抑え込み、肘を極めた。


全員、何が起きたか分からなかった。大森だけは手を外そうともがいているが、草加部の両手は少し回転させ、右手は手首を上から、左手は肘を下から、肘が極まっているから動かない。さらに草加部は、大森が動く方に一緒に移動している。105kgの体重だ。外せない。


極まっている。


「まだやるか?」

「キー」

「引き際って大事だぞ!なかったことにしてやる。」


トサカ頭のグリミー能見が草加部に向かってきた。止めに来たのか、攻撃してきたのかは分からない。


草加部の視界に入る。見逃さない。


草加部は、自分の体を中心に回転しながら、大森の右肘を左手で押す。

大森はそれに合わせて動くしかない。


そして手を離した。


大森は能見に突っ込む形で倒れて行った。能見も倒れる。

運動不足の60歳の二人だ。すぐには起きれない。


「正当防衛だ。」

と草加部は言い、仕分け作業に入った。


一部始終を見ていた大沢は、「正当防衛です。」と御呪い的に言った。


「やっぱり御呪いだよな。」


大森と能見はまだ転がっている。

沢木はいなかった。そういう奴だ。


”グリミー達はこれで大人しくなるような輩ではない。次の手を考えてくる。”

“もう、引き返せない。改善できませんなんて言えない。”



ーつづくー

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