第29話 改革

 6:55分


 カイさんの姿が見えた。金髪でフリーター、モデルのような体型。

 ドレッドヘアのグリミー沢木から必ず何か言われる。まずは必ずここで捕まる。そして、”コの字”来る。


「おはようございます。」と太い声。

「おはようございます。」と草加部と大沢が返す。


 グリミーは忙しくて機嫌が悪いのか、小さな声で「おはよ~」と言い、左肩を回した。


 これで、仕分けは4人になった。関東便と上越便が重なっても何とかなる。


 上越便のドライバーは沢寺さんだ。

グリミー化はしていない。裏表のない人で誰とでも気さくに話すタイプだ。半グリでもない。自分をしっかり持っている人で過去に、チンピラの残党の高津とやり合いそうになったことがあるらしい。元々は、ここの配達ドライバーだったが、自分から希望して大型ドライバーをやっている。


 同じここの配達ドライバーをやっていたグリミー6号こと伊藤とはまるで違う。


 4人で仕分けをしたが、カイさんとグリミーは話しを一切しなかった。カイさんもグリミーを嫌っており、グリミーが先輩面して何か言ってる時や指示があった時は、とりあえず返事するが、その内容を自分の中で精査して、を決めているようだ。




 7:40分 

 なんやかんやとあったが終わった。構内は空台車や片付けていないパレット物でごった返していた。


 それはいつものことだった。

 さすがに今日は疲れた。


 草加部と大沢はカイさんに挨拶をして帰ることにした。グリミーにも挨拶したが、「これからが大変なんだ!」と嫌味ぽく言われ、「大沢、2班やってから帰れ。」と言われた。


 が、今日の草加部はいつもと違う。


「おめえがやれよ。」と静かに誰にも悟られずに斬った。


 河童頭のカケルの姿はない。どうせ、LINEでもしてんだろう。


 ”俺は、あいつだけは絶対に許さない。”

 それと、

 ”グリミー1号こと嵯峨”

 ”グリミー”

 この3人は、おとしめた時に悦に浸った。


 それから、

 ”グリミー2号こと村上”

 人にはやっていいことと悪いことがある。明らかに


 草加部と大沢は疲れ切って、休憩室に向かった。構内は全てのホームで配達の準備をしていて、てんやわんやの状態だ。


 グリミー6号こと伊藤は、「まったくここの作業員はレベルが低いよ」と言いながら、ガニ股で歩幅がせまい特徴のある歩き方で帰っていった。


 沢寺さんはトラックを所定の場所に移動していた。


 草加部が休憩室に行くと、今村所長がいた。

「おはようございます。」

「おはようございます。」

「あと、あがります。」と草加部が言ってタイムカードを通した。

「分かりました。お疲れさまでした。」


 草加部は休憩室に戻り荷物の整理をした。

 大沢君も、タイムカードを切って、「お先します。」とあがった。疲れ切っていた。

「おー、お疲れ様、今日の夜、またよろしく」と返す。


 草加部も休憩室を出る。喫煙所を通って駐車場に向かおうと階段まで行くと金髪のカイさんが自販機の前でスポーツドリンクを飲んでいた。


 ”朝、出勤してきたばかりで体が起きてないのだろう。”


 草加部は調度いいと思い、カイさんに話すことにした。

「カイさん、ちょっと話しがあります。」

「はい?」と戸惑った様子もあったが、「何ですか。」と太い声で言った。


 喫煙所では、話しを聞かれてしまうと思った草加部は、少し離れたところまでカイさんを誘導した。大沢君の車が出るところが見えた。


 ”きれいな金髪だ。赤とか青もいいと思う。”

 それぐらい様になっている。


 草加部が切り出す。

「現状、大型ドライバーと配達ドライバーが構内作業員に自分の仕事を押し付けてるのが目立ちます。仕分け作業などの作業員の状況は関係なしに、各々が自分に作業員を合わさせようとしています。これって、営業所の役割を果たす中で、役割分担が不明確で、結果としてその場しのぎでメチャクチャになってると思うんですよ。」


 カイさんは、話しを真剣な眼差しで聞いてくれた。そしてカイさんの口が開いた。


「そうですね。ここは独特だと思います。」

「なんか、無法地帯って言われてるらしいです。」

「それで?」

「所長も代わりましたし、この辺で改革ができないかと考えてるんです。」

「改革?東藤さんがいるうちは絶対無理だと思いますよ。」と笑った。

「やぶさかではない感じですか?」


 ここまで話した時、階段から降りてくる足音が聞こえた。今村所長だ。


 こっちに来た。

「お疲れ様です。」と、今村所長。

「お疲れ様です。」

「今日はどうでした?」


 これは調度いいと思い、草加部は夜の一連の話しをして、所長も代わったから改善して行きませんかという話しをしていたところだと説明した。


「改善とは?」と今村所長は食いついてくれた。


「はい、今考えているのは、作業員の業務内容を明確にして、それをアナウンスして、大型ドライバーと配達ドライバーの業務も、どこからどこまでかも決めて、お互いに役割分担を明確にして、


 荷物が到着する時(夜間)は、

 大型ドライバー → 構内作業員 → 配達ドライバー


 荷物が集荷された時(日中)は、

 配達ドライバー → 構内作業員 → 大型ドライバー


 みたいに、役割分担を決め営業所の流れをきちんとするために、きちんと線引きできればと考えています。


 そして、自分の仕事は自分でやる。その上での助け合いという感じにできないだろうかと模索していました。」


 と。草加部が説明した。

 カイさんは、「線引きは必要ですね。」


 今村所長は、

「なるほど。無法地帯と言われてますからね。こういう話しになりますよね。」と一定の理解を示してくれた。


 今村所長は続けた。

「分かりました。ただ、私も昨日来たばかりで全く現状を把握していません。少し、把握して整理するまで時間をくれませんか。」


 草加部は迷わず言った。

「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


 草加部は続けた。

「ここは動物園ではなく野生の王国ですから。麻酔銃では無理ですよ。」


 今村所長とカイさんは笑った。


 じゃあ、そういうことでお願いしますと草加部は二人に頭を下げ帰った。


 ”疲れた。”


 ー第一章 終わり 2章へつづくー

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