第28話 グリミーが蔓延した状態。
”カイさん早く来て”
草加部、大沢、グリミーの3人で仕分けを始めた。
河童頭のカケルは、グリミー4号こと沢木と配達の段取りをしている。沢木は疲れるからカケルを使いたいだけだった。というか、カケルじゃなくても構わない。誰でもいい。だが、服従してくれそうな人を選んで”やらせる”マルチ商法のように正論ぽく言葉巧みに。
さっそく聞こえてきた。
「さすが、正論だ。」河童頭のカケルの声。ダンディーな言い方で沢木を指差しながら称えている。
グリミー1号こと嵯峨も出社してきた。まだ若いのに上から目線で語る癖がある。口も悪い。生意気なのだ。
こちらも、さっそく聞こえてきた。
「ったく!ギー、こんなゴタゴタ仕分けして仕事やれって言ってんだろうが、こんなんじゃダメだから俺がやる。ウギャー」と、気に入られたい先輩向けのパフォーマンス。
グリミー2号こと村上は、まだ言っている。機嫌が悪い。唸っている。
「ギー、何回言っても仕事しねえよ。キィー。夜中にいったい何やってんだや、持って行くパレットそのまま置きっぱなしにしてんだぞーウキャー。」と周りに言っていた。
グリミー3号こと能見は起きてきた。「コーコッコッコー」と疲れたアピールが板についている。7時近くになり事務所の人が出社してくるから、誰が早番なのかを見に来たのだ。人によってはそのまま車に戻り、また寝る。今日は主任だったからか、そのまま事務所の空いている席で疲れた表情を作り座っている。
グリミーは仕分けしながら、
「あの能見の野郎、今まで寝てたんだよな。こっちを手伝うとか、グリミー沢木を手伝ってカケルを戻すとかさー」と被害者にでもなったかのようにほざいている。”だからお前がこうしたんだよ。”
グリミー6号こと伊藤は、わざとらしく大きな音を出しながら、手伝わない作業員が何か悪いことをしているかのように荷降ろしをパフォーマンスを入れながらやっている。
グリミー1号と2号は交互に、間違えて仕分けされた他のホームの荷物を、草加部を睨みながら、”コの字”に持ってきては、「ったく!」とか「ギー」とか「ウギャー」と言いながら叩きつけるように置いていった。
川中は、”コの字”の方面別台車がいっぱいになり、大沢がホームに運んでいくと、「いらねえよ!こっち持ってくんじゃねえよ!」と怒鳴り、台車を乱暴に通路に出した。それを見ていたグリミーは、ざまあみろとニヤッとしている。
グリミーはこういうチャンスは逃さない。
「キーーーー大沢!考えろ!配達ドライバーは大変なんだから!ウギーーーー」と、自分はちゃんとやっているけど夜勤がおかしいんだと言わんばかりに吠える。
今日の草加部は、いつもと違う。
「東藤さん。じゃあ、どこに置けべよろしいんですか?」
「・・・・」東藤は黙る。
が、川中に聞こえていたのか、川中が答えた。
「どっか。」
草加部は相手にするのを止めた。グリミーは鼻高々としていて、さっきまで顔を赤くしてわざとらしいテキパキとした動作で仕分けしていたことなんか忘れたかのようだ。し返してやったくらいの感覚だろう。
いつの間にか、チンピラの残党の高津が全国最大手のスーパーの流通センターから戻ってきていた。カケルに聞こえるように、「そっちをやるならこっちもやれよ!」と大声を出している。
大型ドライバーのグリミー6号こと伊藤も、「そうだよギャー、そっちやるなら、荷降ろしやれよギー」と吠えている。
1号と2号は、繰り返しガーンと睨みながら荷物を叩きつけて行く。1号が悦に入って行くのが分かる。
そんな時、上越便が到着した。関東便と重なってしまったのだ。
さらに荷物が降りてくる。
これが昨晩、赴任してきたばかりの今村所長へ説明した”グリミーが蔓延”した状態だ。
“ウキーー!キーー!バーン!
ウォー!ヒヒーン!キー!カー!モー!バーン!
ウホウホッ!ウホウホッ!ウッホウッホ!
コーコッコッコー!コーコッコッコー!
そっちを手伝うならこっちもやれーウキー!
いらねえよ!荷物持ってくんじゃねえよ!
ちょっと来い!
荷降ろしやれよー!
なんでパレットここに置くの!
ウキーー!キーー!バーン!
ウォー!ヒヒーン!キー!
カー!モー!バーン!
ウホウホッ!ウホウホッ!ウッホウッホ!”
6:55分
カイさんの姿が見えた。金髪でフリーター、モデルのような体型。
ドレッドヘアのグリミー沢木と高津から必ず何か言われる。まずは必ずここで捕まる。そして、”コの字”に来る。
「おはようございます。」と太い声。
ーつづくー
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