第13話 草加部が考えていたこと。②

「もう一つなんだけどさ。」草加部は真剣な表情だ。


「グリミーなんだけど、俺はこれまでのことが許せないんだ。なかったことにもできない。腹いせにさ、グリミーをキャラクター化して儲けてやろうよ。」


「キャラクター化?」ピンと来ない感じだった。


 無理もない。


「うん。キャラクター化。」

「かわいいやつですか?」

「いや、マスコットとかグッズじゃなく、俺も受け売りで曖昧なんだけどさ、キャラクター化というのは、フィクション作品とかで登場人物にするということ。性質を持たせて役を与えることらしいんだ。ネットで調べただけなんだけど。」

「うおー」

「ハラスメントの化身グリミー。頑張って本を書こう。ゆくゆくはハラスメント撲滅運動のポスターや冊子に載るくらいにして。ハラスメントと言えばグリミーとなるくらいのやつ。そしたらグッズを作って売ろうよ。」


 大沢君が乗ってきた。

「いいですね。イラストは?」

「大沢君 頼む。かわいいやつ。」

「えー、カッコ悪い感じでよくないですか。」


 そうだ、ハラスメントはカッコ悪い。カッコ悪くて醜くていい。こうなりたくないと思わせるような。


「そうだな。そうしよう。それで頼む。」

「絵とか苦手です。」

「何とかして。」

「本の内容はどうするんですか?」

「グリミー宇宙からの襲来みたいなやつでどう?国際宇宙ステーション(ISS)に掴まってやってきて、落下傘で降りてきてハラスメントするみたいな。」


 大沢は想像してニヤニヤしながら、


「そうですね!腹いせにキャラクター化しちゃいましょう。」

「儲かったら会社作るぞ。」

「うおー。凄い。」

「大沢君、社長やってくれ。」


 草加部もいい歳だ、これからの若い世代を育てたい。自然に涌き出た感情だった。


「いや、社長は草加部さんじゃないですか。」

「俺は常務、専務は仁田さん。俺と仁田さんは代表取締役だ。大沢君は社長だ。」


 大沢くんは笑いながら、

「雇われ社長?」


 草加部も笑っていた。


 仁田良介にたりょうすけ(46)、もう一人の夜間作業員だ。ダブルワークで本業は半導体の工場で検品作業をしている。自宅は草加部と近所で、二世帯住宅で三世代6人で暮らしている。夜間作業員は仁田良介を含め三人でシフトが組まれている。昔はサーキットでドリフトテクニックを競っていたらしい。


「じゃあ、仁田さんに言っといて。そうなったからって。」


 大沢は笑った。


 そのあと、会社名はどうする?本社の陰謀で、ここを潰すためにグリミーが派遣されたというのはどう?会社ってどうやって設立するんだ?資本金てなんだ?みたいな話しで花がさいた。


 そうこうしてるうちにピーピーピーという入場テーマが聞こえてきた。


 草加部と大沢は反応した。


「来た?」

「そうみたいですね。」


 北日本便の中沢さんだ。この便のドライバーはグリミー化していない。だけど、たまにそれっぽいところが出ることがあり、“どっち側だ”と思うことがある。半グリ?


 草加部と大沢はホームに向かった。

 そういえばチョコレートを食べていない。


 ーつづくー

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る