独身おじの異世界転生録

アスタロット

独身オジサン異世界で頑張る


ガッハッハ!

オジサンは名も無き転生者だ。


と言っても酒場で日がな一日飲んだくれている、しがない冒険者だがね。


会社員として暮らし十余年、オジサンとなって独身貴族を孤独に謳歌していた頃の話だ。

睡眠から目覚めたら見知らぬ土地、っていうヤツだな。


そりゃ慌てたよ。

ここがどんな世界か、全くもって分からないんだ。

何となく、ヨーロッパの片田舎っぽい(行った事は無い)感じはするが。

それで幾許か過ごして、俺はやっと知ることができた。

現代では、ありえない文明だってね。

電気ガス水道の生活インフラが皆無な上、魔法が普通に存在しているんだから。

惜しむらくは、俺が知ってるゲームや漫画の世界だったら良かったのだが…

生憎とその分野は嗜む程度だったなぁ、と若干の後悔。


言語が通じたのは、御都合主義よろしく不幸中の幸いだったがね。

風景は日本じゃないのに、日本語ペラペーラとかシュールすぎる。

ほ○やくコンニャクかよ。


そんで、サラリーマンとしてのキャリアも、身内も友人も住まいも…全て失った俺は必死だった。

ここに来て、しばらくの間は悲しむ余裕すら無かったよ。

異世界で過ごし始めて間もないうちは、そりゃあ何度も苦労した。

現実にはありえない、怪物やら種族にも戸惑ったもんだ。

生きるのに必死で、割とすぐに慣れたがね。


そんで身分もコネも無い俺は、食い扶持を稼ぐためにもファンタジーよろしく冒険者になった。

日銭を稼ぐにゃあ、冒険者がイチバンって聞いたからな。

運が良かったのか俺は、その手の才能には少しだけ恵まれていたらしい。

瞬く間に数多くの依頼を遂行し、順調に冒険者としてのランクも上がっていった。

ルーキーの俺が完遂できるよう、依頼を選んではいたが。

色々アドバイスをくれた受付のお姉さん、ありがとう愛してる。


それでも人間ってのは思っちまうもんだ。


”俺って主人公じゃね?”


ってね。


こういうのはコツを掴むと、トントン拍子に事が進むってもんよ。

失敗もほとんど無いから、分かってても自信過剰になる。

思い上がりも甚だしかった訳だが。


ただのモブがイキがってさぁ…恥ずかしいよ、まったく。


しばらくして冒険者ギルドでも、俺の名がそこそこ通るようになって来た頃。

ある冒険者パーティーが、俺がいる街にやって来た。

ヤツらは勇者として、魔王打倒を謳っているらしい。

正直、生意気だと感じた。

今振り返れば、渇望というか嫉妬じみた感情だったと思う。


馬鹿だった俺は、愚かにも…


“お前ら気に入らねぇなぁ…先輩冒険者として、俺様がその鼻っ面をへし折ってやる”


そう思って、ノコノコと冒険者ギルドにやって来たソイツらに声を掛けた。

今考えれば、お決まりの三下ムーヴだな。

本当に恥ずかしい。


んで、結果的にどうなったかって言うと…


俺はそのパーティーに加入した。


アイツらと対峙して何となく分かったぜ。

主人公は俺じゃなく、お前達だってな。

オーラと言うか、纏う雰囲気が違っているんだよ。

俺は自分の存在が、ゲームや漫画の背景にいるモブだと理解した。

瞬く間に、俺は心を折られた。

ポッキリと綺麗にね。


だが現代日本社会で揉まれ生き残って来た、サラリーマンソウルを舐めたらいかん。

矮小なプライドなんて、何度も捨てている。

謝罪や土下座など、お手のものだ。

社会というジャングルで、俺はそうやって出世してきたんだ。


だから、逆に彼らに頭を下げて仲間にしてもらおうとした。

ダメで元々、断り文句もバッチ来いだ。

こんなモブ、彼らは歯牙にも掛けないんだろうなぁ、とも俺は思っていたけど。


だが結果として俺の願いは、リーダーである勇者君の二つ返事で承認された。

もし彼らに断られたら、ジャンピング土下座するつもりだったから僥倖だ。


勇者君の一味に加わった俺は、物語の当事者になれた気がして浮かれていた。

だがパーティーに加入した俺を待ち受けていたのは、とてつもない苦難の連続だった。


いつもギリギリの戦いだったんだ…

俺だけね。


アイツら優秀過ぎなんだよ。

普通に戦ってちゃ、必ず埋もれる。

モブの俺は、良いとこサブアタッカーが関の山だろうさ。

このままじゃあ遠からずに勇者君から、戦力外通告を受ける事になるだろう。

だから、彼らの足手纏いにならないよう頑張った。

戦闘に付いて行くだけでも、俺は必死だったけどな。


いつパーティーからお役御免を言い渡されるのか、俺は常にヒヤヒヤしてたもんだ。

だから、死に物狂いの努力をした。

ちなみに俺の主な役割は、パーティーの鉄砲玉だ。

俺がパーティーにできる貢献なんて、このくらいだからな。


例えばだ…初見のモンスターは、何があるか分からないから対処が難しいだろ?

特に搦手を使うヤツらは、気が抜けねぇ。

何も考えずに物理攻撃や魔法攻撃をして、痛いしっぺ返しに遭う、ってことも珍しくはないからな。

だからそんな時は、俺が突撃して相手の情報を探るって寸法よ。

威力偵察って言っても良いかもしれない。

そのまま突破出来れば、尚良しってな。


この戦法が結構うまく行った。

パーティーのメンツには、何度も心配をかけてるみたいだがな。

役立たずと言われて、クビになるよりはマシだよ。


んで、そこから先は端折るが、そんなこんなで俺達は魔王を打倒した。


いやぁ、感動したね。


物語の主人公は叶わなかったが、勇者パーティーの末席にはなれたんだ。

モブの俺には、過ぎたる功績ってもんよ。


悪の親玉たる魔王を倒したし、この世界は少しずつこの平和になるだろう。

いや、具体的にどうなるか知らんけど。

何となくで勇者と一緒にいたし。

俺達は、雰囲気で冒険している。


何はともあれ、勇者パーティーの最終的な目的は達せられた。

そろそろ、俺は用済みかな。

お役御免でパーティーをクビになるだろう、俺はそう踏んだ。

だから解雇通告が来る前に、一筆残し先んじて抜けてやった。

“家出します、探さないで下さい”

的な内容でな。


おまwティーンエイジャーの女かよwww

クッソ笑えるw

ワハハハ…ハハ…

ワイ、精神がまだ子供でわろた。

わろた…

うぅ…本当は出て行きたくないよぉ…

グスン…

クビになりたくないよぉ…

皆んなと一緒にいたいよぉ…

うぅ…

ま、どうせ俺が仲間の中で一番弱いからな。

パーティーへの影響なんて皆無やろ。

魔王を倒したら、型落ちのモブメンバーなんて即刻退場だ。

それは納得してる。

弱っちい俺が悪いんだ。

楽しい冒険をさせてもらった。

良い夢を見させてもらった。

仲間達には感謝こそすれど、恨みなんか一切ない。

本当に、ありがとう。


ただ仲間から、面と向かってクビって言われるのだけは、耐えられる自信が無かったんだ。

臆病者と言いたければ、罵ればいいよ。


でも見知らぬ土地で、新たに冒険者家業をやるのも悪くないよな。

これで良いのだ。

どうか許しておくれよ、勇者君。

ま、俺が抜けてもアイツらは気にしないか!

ガハッ!


おっ、そうだ。

パーティーを抜けた後、面白い拾いモンをした。


孤児のガキんちょだ。


出奔して安住の地を求め、フラフラと放浪してた時かな。

街道を賊が占拠してたんだ。

素通りしても面倒だから、強引に押し通ってやったよ。

結果的に、賊をブチのめす事になったけど。


で、予想通りこの賊、街道を封鎖してただけあって財を蓄えてやがった。

路銀も心許なかったし、賊の財産から幾らか拝借しようと荷物を漁ってたところだ。

ヤツらの戦利品の中に、このガキんちょがいた。

んで、ゲットしたわけ。

ガキとしては悪くない見た目だし、賊の戦利品なら俺が頂戴しても問題ないだろう。


そんな気まぐれで親代わりとして、このガキを育ててみる事にした。

ガキ曰く両親はいないらしいし、別にええやろ。

ってことでオジサン、独身から結婚を通り越して一児の親になっちまったよ。

本音を言うと、前世からの孤独を紛らわしたかったってのもあるがね。

あと、少しばかりの良心も満たされたし。


ガキを一人養うのも、今の俺には造作もない。

それに命の恩人とは言え、初対面から俺に従順なガキで助かったよ。

拠点となる良い感じの街と住居も、ガキと移動しながら見つけられたし。

伊達に俺は、勇者パーティーの鉄砲玉をやってた訳じゃない。

サラリーマン時代に養ったコミュ力と営業力もある。

ガキには、分不相応の不自由ない生活を送らせてやったぜ。


それと、コイツと共同生活をして気付いた事がある。

このガキんちょ、異様に成長が早い。

この世界は子供の生育が良いのか?

ってか子育てした事ねぇから知らねーんだったわ。

まぁこのガキんちょ、俺に簡単に懐いてくれたし愛嬌もあるから問題ないやろ。


地に足を付けてしばらく。

俺達の生活も落ち着いて来た頃、俺はコイツを鍛える事にした。

勿論、教えるのは俺がこの世界に来て培った戦闘法だ。

稼いで酒飲んで寝る、それ以外にやる事ねぇし暇だからな。

子供も居ない俺が、後世に残せるモノと言えばこのくらいだ。


したらよぉ、メキメキと成長するんよ、コイツが。

乾いたスポンジみたいに知識や技術を吸収するって、コイツの事なんだな。

勇者君を初めて見た時もそうだが、俺って”他人の才能を見抜く才能”はあったみたい。

そんなんいらねえーから、別の才能が欲しかったなぁ!


クソが。


んで、気が付いた時には義理の息子は、年上の俺より遥かに強くなってたよ。

もう俺が居なくも、コイツは一人で暮らしていける。

んで案の定このガキは、士官のために家を出るそうだ。

出世したら迎えに来てくれるらしい。

オジサン嬉しいよ。

この世界に年金なんてものは無いからな。

養う家族が居ない年寄りは、死ぬだけだ。


だから老後は息子にたかって、ダラダラ過ごさせてもらう。


そんなこんなで義息子は家を出た。

実の所、アイツが戻って来る保証はない。


結局俺は、前世も今世も孤独なんだなぁ。


たまにギルドに行っては、割りの良いクエストをやって。

あとは酒を飲んでダラダラと過ごす。

前世は真面目なサラリーマンだったけどね。

俺の本質は怠惰なのよ。

休日の自己研鑽とか大嫌い。

楽をするために、最低限の努力をするタイプのヤツだ。

ある程度の所で落ち着ければ、俺は良いのさ。


さて、そうやって孤独にグダグダと過ごして暫く経った頃だ。

俺の元に、意外な来訪者がやって来た。

世界を救った、偉大な勇者君である。



おう、久しぶりだなぁ勇者君。


え?俺を迎えに来た?


嘘やん勇者君。


鉄砲玉の俺を後ろに下げようとして、何がしたかったねん。


俺に傷ついてほしくなかった?


知らんがな、俺には俺の戦い方があるんじゃボケ。


え?何で勝手にパーティーを抜けたって?


そ、そりゃあ…アレだよ。山よりも高く、海よりも深い事情があってだね。

(クビが怖かったとは言えない)


ん?誰か来たなぁ…何だぁこんな日に。

今日は来客が多いなぁ。


はいよぉ、今出るよぉ……っと。

おぉ!

我が自慢の息子ではないか!

おかえり!

こんなに大きくなって!

クッソ立派になってるやん!

オジサン嬉しいよ。


ん?アッ!?

ち、違う!違うんだ、勇者君よ!

コイツは俺が拾った孤児なんだ!

俺は独身だよ!

なぁ!?我が義息子よ!?


なんだよ二人とも、険悪な雰囲気でぇ…


え?今なんて言った?勇者君。


………嘘だろ?


ちょ、待ってくれ。


ん?何だ、我が義息子よ?


………嘘やろ?


ちょ、待ってくれ。


血の繋がりは無いから問題ない?


あっ!い、いやっ!そういう問題じゃなくてぇー!!


おま…ちょ、待てよ!


ちょ、オジサン…そういう趣味じゃないからー!!


あっ…


アーッ!


おっ♡



「エリス、愛している。俺と結婚してくれ」


「ダメだよ、母さん。約束どおり出世した、僕と結婚して」


一人の麗しい少女に向かって、二人の美丈夫が愛の言葉を囁いている。

しかし当の少女は狼狽して、言葉が出ないようだ。


「俺を惚れさせておきながら、君は全く…勝手に居なくなった事を、俺は許さないぞ。さぁ、俺と共に来るんだ」


「僕、約束したよね?大きくなったら母さんと結婚するって。血も繋がっていないし、良いよね?」


少女は男二人の顔をキョロキョロと見ながらも、言葉にならない声を発している。

完全にパニックに陥っているようだ。


「さぁ!」


「ねぇ!」


「ちょ、オジサン…そういう趣味じゃないからー!!」


「「無⭐︎理」」


ーおわりー



:エリス

語り部にして、本作の主人公。

前世は独身男性のサラリーマンとして、現代日本社会で生活。

孤独ながらも、程々に楽しく暮らしていた。


ある日、聖女として少女の姿で異世界へ転生する。

なお、エリスが転生した先は、ゲームをモデルとした世界である。

前世の面影は一切無く、現地人曰く傾国の美女。

回復魔法を自身に施しながら突撃し、強引に敵をブン殴る戦闘スタイルを取る。

メリケンサックを装備したエリスは、”ステゴロ聖女”として多くのプレイヤーから愛されている。

たまに一人称を「オジサン」と言い、周囲を困惑させる。

世界を救った勇者パーティーの一員として知られ、無類の酒好きとしても有名である。



:勇者君

エリスをはじめとした仲間と共に、魔王を打倒した救世主。

とある有名なヒーラーをスカウトしようと、冒険者ギルドに立ち寄り主人公と出会う。

その有名なヒーラーこそが、エリスであったが。

回復役にも関わらず、前線に突き進むエリスを度々注意するも聞き入れられず心配していた。

主人公にはギルドで会った際に、一目惚れしている。

魔王を倒した後、主人公に愛の告白をしようと思っていた。

肝心のエリスは勘違いを重ねた上、姿を晦ましてしまうが。

その後、血眼になって捜索した結果エリスを発見。

エリスに息子がいた事に愕然とするも、義理の息子と知り再度エリスにアタックする。

ちなみに、義理息子が帰ってこなかったら、強引に襲って孕ませるつもりだった。


:息子君

主人公が保護した孤児。

出自や年齢の一切が不明。

無防備な傾国の美女に育てられ、見事に性癖が破壊される。

義母であるエリスの使用済み下着で、夜のソロ活動が日課であった。

本気で主人公と結婚したいと告白し、二つ返事で承認された事を忘れていない。

(主人公は幼少期の決まり文句だと思っている)

義母と結婚して養うために、士官し短期間で見事に出世する。

ちなみに、帰省時に勇者君がいなかったら、エリスを襲って既成事実を作るつもりだった。

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