第2話 出会い
そうだ、私は転生したんだ。とりあえず自分の体を確認すると意外にも自殺した時の服がそのままになっている。おそらく顔も身長も変わっていないのだろう。
身長ぐらい少し伸ばしてくれてもいいのにと思ってしまうのは、先の体験で感覚が少し麻痺しているからだろうか。
改めて考えてみると、いろんな感情が襲ってくる。それはあの天使どもの仕業だけでない。もっとああすればよかった、こうすればよかったなという後悔もある。
転生したという実感が湧き、前世を客観的に見れるようになったからであろう。
これからは悔いのないように生きる!そう決意した。
少しだけ時間が経った。頭の中を整理し、今何をすべきかを考える。まずは衣食住の確保…と言うよりこの世界に人間はいるのか?
一度歩いてみて地理を把握するか…
思考を周りに向けると、辺りには見たこともない動物とそうでないのに別れていることがわかる。あと何故か身体がゾワゾワする。空気中に変な物でも混ざっているのだろうか。
そういえば異世界転生をした主人公の漫画を読んだことがあるのをふと思い出した。ならば自分にも何かしらのチート能力は与えられているはずだ。
そう思い、私はおもむろに手を伸ばし、適当に思いついた呪文ですらない言葉を叫んだ。
「ファイア!」
すると私の手から火花が一瞬散った。私はそれに驚き、手を引っ込めた。まさか本当に出るとは思っていなかったのだ。
「ファイア!」
もう一度叫んだ。すると今度は少し小さいが指の先から火が上がった。
「あっつ!?」
その熱さで思わず手を引っ込める。火傷をしてしまい少し痛いが、そんな痛みも気にならないくらいに興奮していた。
幼い頃、憧れていた魔法。それが実際に使えるのだと。
魔法が使える!という事実により全能感に浸り、それは安心感にも変わった。
今ならどんな苦難が襲ってきても跳ね返せると思えた。
「ん…?」
暫く歩いていると、遠くに人工物が見えることがわかった。
近くに行き確かめると、それはただの小屋だった。
おそらくこの世界には人間がいるのだろう。でなければこんな物作るはずもない。
ドアを開け、中に入るとそこには人間・・の死体があった。
それは所々潰れたり裂かれたように見え、何かしらの外傷を受けたのだろうと予想できる。
だが死体を見たことのショックが大きかった夢見は、それが獣によってつけられた傷とは予想できなかった。
「うわ…」
思わず口を塞ぐ。
突然の死体に気分が悪くなりよろめきながら外に出た。
その瞬間。
足に鋭い痛みが走った。
気づけば狼に似た動物によって、右足の肉が喰われて無くなっていた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
余りの痛みによって私は叫び、その痛みによって思考が薄れようとするのを感じる。
そのまま左足も喰い千切られる。
「あ゛あ゛っ…ぐっ…」
あまりの痛みで声すら出せない。
もはや足は機能しないも同然だ。
バランスを失い、痛みと恐怖で竦んだ身体はそのまま前に倒れ、うつ伏せの姿勢になる。
「ゔっ…嫌だ…」
そしてその光景をを隠れて見ていた者が2人いた。
「あいつは何をやってるんだ?変異体だか使徒だか知らんが世界線を移動した経験があるんだったらあんな奴すぐ倒せるはずだが…」
「もしかして勇者召喚の時に呼び出されるようなただの異世界人なんじゃ…」
「確かにそうだな。普通ならあそこまでボコボコなされて何もしないなんてやついないもんな。」
「そ、そんなことより早く助けないといけないんじゃないですか?…異世界人だったら研究の為に生きたまま本部へ連れ帰れって言われてたはずですよ…」
「あーそういえばそうだな。じゃあ助けるか。」
そう言うと彼の姿は瞬く間に消えた。
「あっ…が…」
夢見は必死で抵抗しようとするが足は食われ、手は切り裂かれている。
最早抵抗の手段はなく、ただ生きたまま食われて死ぬのを待つだけ。
(私…死ぬのかな…せっかく転生したばかりなのに…悔いのないようにするって決めたのに…)
(はは…折角魔法も使えるようになったのにな…こんな…何もできない…)
薄れゆく意識の中、2回目の死を迎えようとしていた瞬間。
夢見を襲っていた生物の頭は何者かの大剣によって飛ばされていた。
「おっと…少し遅かったか?」
そう言いながら頭を切り飛ばした張本人は何かを取り出す。
そしてそれを瀕死になった夢見にかける。すると彼女の身体はみるみるうちに再生していった。
無くなったはずの手足が生え、自分の中身だった物はちゃんと中身として機能するようになった。
「え…?」
夢見はその光景を理解できず、おそらく自分は助かったんだろうという推論を立てることしか出来ない。
「え〜っと、まずは自己紹介からか…?」
そう言いながら赤髪の何者かは大剣を背中に掛け、頭を掻く。
「俺の名前はオルドって言う、でー…特に言うこともないな。よろしく。」
そう言いながら彼は自己紹介をする。
「…」
色々な事が一度に起こり過ぎたせいで夢見の頭は動く事を止めていた。
「オルドさん…流石に色々と急すぎて把握できてないと思いますよ…」
そう言いながらオルドと名乗る男の後ろから槍を担いでいる顔の右半分が髪で隠れた黒髪の男が出てきた。
「僕の名前はユダです。よろしくお願いします。」
「…よろしく。」
夢見は頭を必死に動かして情報を整理し、最低限の一言を発した。
「えーっと…何から説明すればいいのか分かりませんが…取り敢えず貴方は今から私たちのギルド…組織に来てもらいます。」
「一応衣食住は保証します…あと貴方が前にいた世界と色々違うと思うのでそれの説明なども兼ねてですね。」
「道中の安全は保証しますよ。安心してください。」
「お前の方が情報量多くないか…?」
夢見はまだ少し混乱している。だが道中の安全は保証してくれる所とこの世界にはちゃんと人間がいるといることが辛うじて分かった。
「分かりました…あ、私の名前は夢見 現です。よろしくお願いします。」
夢見は自己紹介を終え、立ち上がる。
「お、もう大丈夫なのか?それならそろそろ行くぞ。」
「いや少しは労ってあげてくださいよ。手足ぐちゃぐちゃになってたんですよ。」
「大丈夫ですよ。」
「立ち直り早すぎないですか…?」
そうしてしばらく歩いて行くと3mぐらいの壁で囲まれた街に着いた。
「この街の名前はメルトルラ。ラスカー帝国によって建てられた城塞都市だ。戦争時代の加工技術を活かしたアクセサリーが有名だな。」
「えっと…?」
「歴史に関しては後で本とか買いますのでそれで勉強してもらえれば…」
「そういえば異世界人だったな。」
街の門を潜ると、そこは中世を思わせるような街並みが広がっていた。
「おお…」
私は思わず声をあげる。
「まあエイタール共和国の中央都市ほどじゃないが…結構栄えてるだろ?」
見たこともない街並みや見たこともない文字で目を輝かせながら、ここは異世界なんだと再認識する。
しばらく歩いていると、一際大きい…いやかなり大きい建物の前でオルドとユダが止まる。
「さあ、ここが目的地ですよ。」
「ここが俺たちの所属するギルド「カロリング」だ。」
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