間章 勇者ブレイブ、ヒイロの調査を打ち切る

【視点主変更 注意】

この章間は勇者ブレイブの視点で書かれています。シンがヒイロを見つけたころの話です。ややこしいですが、よろしくお願いします!



 *



 僕は勇者ブレイブ。第5層からの撤退以来、パーティーを鍛え直すためにダンジョンに潜る、勇者パーティーのリーダーだ。

 

 だが、シンが救助隊の話を確かめに行ってからというもの、フィリス、メイメイ、パラディナはダンジョン探索に全く身が入っていなかった。


「神よ、どうかわたくしからヒイロを奪わないでください……」

「心配いらないさ。ヒイロは君の期待を裏切るような男じゃない」

「生きてても死んでても、気になる〜!」


 第4層でトレーニングをしている最中でさえ、こんな有様だ。この状況が長く続けば、第5層への再挑戦は遠ざかるばかりだ。シンが調査から戻ったらすぐに第5層に戻るつもりだったが、このままでは予定が大きく遅れるだろう。


「ヒイロのことはどうでもいいだろう。いちばん重要なのはダンジョン攻略なんだ。みんなも分かっているだろう」

「……」


 僕がそう言うと、3人はしばらくこちらを見て黙っていた。きっと、僕の主張の正しさに気づき、自分たちの言動がいかに無駄だったかを反省しているのだろう。もしシンがこの場にいれば、僕の指摘に賛成したに違いない。


「……ごめ〜ん、あたし、今日はもう帰るわ〜」


 沈黙を破ったのは、メイメイだった。彼女は背中越しにヒラヒラと手を振りながら、転移門ゲートの方向に歩いていく。


「待つんだ、メイメイ。リーダーである僕の許可無く行動しないでくれないか」

「ほんとごめんね〜。でも、なんか気分が悪くなっちゃった〜」

「ふむ、体調不良か。ならここでフィリスの治療を受けたらどうだい」

「いいって、いいって〜。ストレス源から離れた方が早く治るから〜」


 メイメイはそう言うと、僕の返事も待たずに去ってしまった。そうか、メイメイにとって、フィリスとパラディナはストレス源になっていたのか。つまり、メイメイも僕と同じように、どうでもいいヒイロの話を聞かされて、うんざりしていたのだ。


「メイメイ、本当に帰ってしまいましたね」

「ああ。彼女は自分に正直だからな」


 残されたフィリスとパラディナは、メイメイについて行こうとはしないものの、僕のところに戻ってくる様子もない。ダンジョン攻略の重要さを分かってはいるが、まだヒイロのことが気になるのだ。


「ブレイブ、本当にヒイロのことはどうでもいいと思っているのですか」


 無言でメイメイを見送ったフィリスが、悲しそうに僕に聞く。恐らく、彼女にとってはどうでも良くないことなのだろう。そんな彼女の考えを改めさせることが出来るかは、ここでどう言葉をかけるかにかかっている。


「フィリス、誤解しないで欲しい。僕にとってヒイロはどうでもいいが、君はそうじゃない。仲間だからだ」

「ヒイロも仲間ですっ……!」

「違うよ。彼はもう勇者パーティーの一員じゃないんだ。それに、死人を心配しても、ダンジョン攻略には何の役にも立たないんだよ」


 僕は彼女の感情を逆撫でしないように、出来るだけ平坦な口調で注意した。そのおかげでフィリスは冷静になることが出来たようで、愚痴を言うのをやめた。


「ブレイブ、お前にヒイロやフィリスを責める資格は無い。自分が全ての元凶だということが分からないのか?」


 フィリスの次はパラディナだ。パラティナはフィリスを庇うように僕の前に立ちはだかった。どうやら、パーティーの不和の原因は僕だと言いたいようだ。どう誤解したらそんな解釈になるのか、見当もつかない。


「パラディナ、よく考えるんだ。僕達の目的はダンジョン攻略だ。僕はそのための最適解で君達を導いてきただけじゃないか」

「メンバーの追放が最適解だと……?」

「彼一人の死を選択したおかげで、彼含む全員の死を避けられたんだ。成果じゃないなら何なんだい?」


 僕はパラディナの混乱がおさまるように、出来るだけ順序だてて説明をする。そのおかげでパラディナは状況を理解できたようで、因縁をつけてくるのをやめた。

  

 だがまさか、彼の安否がこれほど冒険に支障をきたすとは思っていなかった。シンに調査をさせたのは、ある意味正解だったかもしれない。


「2人とも、気は済んだかい? 随分時間を浪費してしまった。早く探索を再開しよう」


 僕は、追放してもなお勇者パーティーの足を引っ張るヒイロにうんざりした。彼女らには申し訳ないが、早くシンが悪い知らせを持って帰ってくるよう願った。



 *



「ヒイロの生存は確認できなかった。報告は以上だ」

「ふむ。僕の言った通りだったろう」


 数日後、調査から帰ってきたシンが、その成果を持ち帰ってきた。これで、ヒイロの死はほぼ確定したと言ってもいいだろう。例の救助隊とやらも、ろくな情報を持っていなかったに違いない。


「お疲れ様でした、シン」

「では、この話は終わりだな」

「もうヒイロのことを調べるのはおしま〜い」


 シンからの短い報告を聞いた3人は、思ったよりも素っ気ない反応だった。てっきり、そんな報告は嘘だとか、もっと調べようとか言うと思ったのだが。まあ、僕にとってはそうじゃない方が都合がいい。


「確か、君たちは僕より先にシンから話を聞いていたんだよね。なら、十分に心の整理をする時間がとれただろう。ヒイロの話はこれでおしまいだ」

「……ほっ」


 調査の打ち切りを宣言すると、何故か他のメンバーが安心していた。僕はその事に不信感を覚えた。これまでは必死でヒイロの安否を調べようとしていた彼らが、今度は調べるなと言う。一体どうしたことだろう。


「ふむ。僕がヒイロの話を掘り下げると、何か悪いことでもあるのかな?」

「そ、それは……!」


 僕の何気ない質問に、さっきまでの安心が嘘のように緊張の空気に変わる。だが、その理由を説明しようとする者はいなかった。調査をしてきたシンですら、口を開こうとしない。


「ふむ……君たちはこれ以上ヒイロの調査をしたくない……なるほど、ようやくダンジョン攻略に集中する気になったんだね」


 僕は極めて冷静に事実を分析し、確実な結論を導き出す。どう考えても、これ以外にはありえないだろう。だが、わからないのは彼らの不可解な態度だ。

 

「そして……その理由を僕に隠そうとするのは……そうか、これまでヒイロなんかにうつつを抜かしていた自分自身を恥じているんだね。そういうことなら辻褄が合う」

「……ほっ」


 そう言うと、彼らに再び安心の空気が流れた。どうやら僕は、親身に彼らの気持ちに寄り添う事で、ついに答えにたどり着くことが出来たようだ。間違いないだろう。


「ふむ、ヒイロも死んだし、面倒事は全て片付いたようだね。これからは仕事もトレーニングも量を増やして、早く第5層に戻れるようがんばってくれ」


 僕はリーダーらしく仲間たちを鼓舞した。パーティーメンバーの入れ替えだけでこんなに手間がかかるとは思っていなかったが、根回しと気配りで乗り切ることが出来た。


 僕のパーティーは完全に元通りになったのだ。



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