迷った私の末路

ヴェール

後悔

雷の音が鳴り響く。


私のシャツは大雨で肌に張り付いている。


森林の中。私は迷子になった。




彼氏と登山にきたのが始まりだった。

日帰りで帰るつもりでなるべく荷物は軽くして行った。


しかし、途中でしょうもないことで喧嘩して互いに距離を取って歩いていた。

辞めなかったのはお互いに登山はしたいと思っていたから。


しかし、突然の大雨。天気予報では晴れの予定だったのに。

森の中は暗くなっていき、気付けばはぐれていた。


連絡を取ろうと思っても電波は悪いし、充電は11%。


もう出会うことはないのだろうか。


ああ、ちゃんと彼氏と一緒にいればよかった。

後悔が今になって込み上げてくる。


適当に歩いていると突然開けたところについた。


そこにあったのは大きな洋館だった。


「あそこに行けば誰か助けてくれるかも。」


そんな軽い気持ちで私は洋館に向かった。何の警戒もせずに。




洋館のドアをノックした。


すると顔の整った高身長の男性が出てきた。


「おっと、こんなところにずぶ濡れの人が。そんなところにいたら風邪ひくぞ。入ってこい。」


中に入るとホールのようなところに老若男女多くの人がいくつものグループに分かれて

おしゃべりをしていた。


「レディ、シャワーを使いなさい。服はそこらへんに乾かして置いてとりあえずこれに着替えなさい。」


先ほどの高身長男性の方に来た白い髭を生やしたお爺さんがそう言って、着替えを手渡してきた。


高身長男性も微笑んで頷いていた。


私は言われた通りにシャワーを浴びた。

そこかにカメラが仕込んであるのではないかと思って確認したが、見つけられなかった。



シャワーを浴びている時、ここの洋館のことで頭がいっぱいになった。

一体ここの建物は何の施設だろうか。


登山で遭難した人のためだろうか。そうだとしたらこんなに人がいる訳がないし、電波や電気も通っているからすぐに助けを求められる。

じゃあ、何のため?



結局わからないままシャワーを浴び終えた。

誰のかわからない下着とワンピースを着て髪の毛を乾かし、さっきのホールに行った。


すぐに先ほどの高身長男性が気づいてくれた。


「シャワーの方はどうだったかい?」


「とてもよかったです。」


「それはよかった。疲れているだろう。こっちへきなさい。」


高身長男性は3階の1番奥の部屋に案内してくれた。


「今日はひとまずここで寝てください。また明日の朝、下山を試みた方がいいでしょう。」


「ありがとうございます。」


案内された部屋は黒と赤を基調としたおしゃれで、神秘的な部屋だった。


高身長男性が礼儀正しくおじきをして部屋から出ていくと私はすぐにベッドに横になった。


毛布は気持ちよく、すぐに寝てしまった。





寝てしばらくした時、私は誰かが私に触れるような感触を得て、重たい瞼を少し開けた。


すると目の前にいたのは吸血鬼だった。


驚き過ぎて言葉も出ない。


吸血鬼は静かに笑みを浮かべながら言った。


「まんまと騙されましたね」


よく見ると、先ほど案内してくれた高身長男性だった。

今すぐにでも逃げ出したかった。

でも、もう逃げられない。

私は仰向けになっていて、彼は私を覆い被さるような姿勢。



吸血鬼は私の首のところまで顔を近づけた。


ああ、おしまいだ。

血を吸われる。


そう思った時だった。


「お前に選択肢を与えよう。」


「ここで、血を吸われ尽くして死ぬか、お前も化け物になるか。」


私ははっとした。


ここで化け物になって別れた彼に復讐すればいいのではないか。


私はすぐに決心した。


「私も化け物になります。」


吸血鬼はニヤリとして、手を鳴らした。


すると、魔女が現れた。


魔女はひとこと、「覚悟はできてるかね」と聞くと私を吸血鬼にした。



その様子を見ていた吸血鬼は言った。


「吸血鬼は日を浴びると死んでしまう。だが、お前は違う。人間から吸血鬼になったものだ。日を浴びただけでは死にはしない。」


何と好都合なことか。


洋館にくる前は彼とはぐれたことを後悔したが、今はもうそんな思いは微塵もなかった。


私は悪くない。


悪いのは彼だ。


そのまま私は洋館を飛び出し、彼を探した。


森林の中を勢いよく走っていくとくたくたになっている彼の後ろ姿を見つけた。


私は真後ろで囁く。





「あんたは終わりだよ。」



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迷った私の末路 ヴェール @nightveil

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