第48話 女子高生、脈龍のもとへ向かう。

 成田空港発、新熊本空港行きの飛行機が離陸したのは、7時15分。1時間と45分の空旅だ。


『まもなく、新熊本空港に到着いたします。シートベルトをお閉めください』


 眼下に阿蘇山島、そしてその左右に、大きく切り立った断崖絶壁が見える。九州大坤溝だいこんこうだ。

 大分の別府市から南西に向かって九州を二分するこの大きな溝が、たった17年前に出来たという事実がちょっと信じられない。


 大坤溝だいこんこうができる前までは、阿蘇山は標高1000メートルを超えていたらしい。その証拠に、阿蘇山の周囲は数百メートルを超える絶壁に囲まれていて、来る人全てを拒むようにそそり立っている。


「あれ? これ、どうやって阿蘇山島に潜入するんですか?」


 わたしの質問に、ロカさんがにべもなく答える。


「ヘリコプターだよ?」

「ヘリコプター!? 誰が操縦するんです?」

「モチロン、アタシに決まってるじゃない。アタシ、大学は推薦組みだったからさ、探索に必要になりそうな運転免許を、片っ端からゲットしたの。他にも船舶免許とか、業務用のドローン操縦免許とか、あと変わったところでは、車両系建設機械運転技能講習とか。ショベルカーを操縦する資格だよ」

「ふええ……」


 さすが一流のダンジョン探索者。わたしは改めてロカさんを尊敬する。


「あ、でもさすがにアタシも阿蘇山島に潜入するのは初めてだよ。あの島に入るには、特別なライセンスが必要だから」


 ライセンス? 確かロカさんは、プロのダンジョン探索者の最高ライセンス、シルバーライセンスを所持してたはずだけど。


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 新熊本空港に降り立つと、そのままの足で熊本県警へと向かう。ヘリコプターのチャーターと、ヘリポートを利用するためだ。


 熊本県警に入ると、田戸蔵たどくらさんが、待ち受けに問い合わせる。


「ヘリコプターを貸してくれ。阿蘇カドリー・ドミニオンヘリポートまで移動したい」

「阿蘇……ですか?? 少々お待ちください」


 受付の人は、首を傾げながらカチャカチャとキーボードを打つと、さらに首を傾げて受話器を持つ。そして何度も何度も首を傾げながらそっと受話器を置いた。


「大変お待たせしてしまい申し訳ありません。所長がうかがうとのことです。応接室をお取りしましたので、ご案内いたします」


 アタシたちは、受付の人に案内されて、黒光する革製のソファーが設られた応接室へと通される。壁には歴代の署長さん? の写真が飾られている。


 アタシは、背中をツンツンとつつかれる。六花りっかだ。


「(こそこそ)なになに? 結構すごいところに通されてない? 大丈夫かな??」

「(こそこそ)わたしに解るわけないじゃない」

「(こそこそ)ひょっとして……このまま捕まって牢屋ってことないよね?」

「(こそこそ)そんなわけないと思うけど……」


 とは言ったものの、よくよく考えたら六花りっかは昨日の夜は家に帰っていないわけだし、お家の人が警察に相談をしていたら行方不明扱いのはずなんだよね。


 ちょっと心配になってきた。


 待つこと15分。立派な制服に身を包んだ50代くらいのおじさんが入ってきた。署長かな??


「お待たせしました。田戸蔵たどくらさん。ヘリコプターはご自由に使っていただいてもかまいません」

「ありがとうございます。署長」

「しかし、妙なんですよ。探索庁に問い合わせたところ、相手側も初耳のようだったみたいでして、手続きに時間を労したのもそのためです」

「申し訳ない。急ぎの要件なものでしてね」

「!? もしかして、九州大地震級の大地震が再び発生するとか!?」


 青ざめる署長さんに、ササメさんが笑顔で答える。


「ご安心ください、今回はあくまで調査ですので。ご覧の通り調査隊も最少人数のメンバーでの編成です」

「なるほど、調査ですか」


 ササメさんの言葉に、署長さんは、わたしたちのことを一瞥する。


「わかりました。は詮索を控えるべきかもしれませんね。ヘリはすでに用意してありますので、ご自由にお使いください」

「ありがとうございます」


 署長さんにお礼をするササメさんに習って、わたしたちも頭をさげると、そのまま応接室を後にする。


 アタシは、背中をツンツンとつつかれる。六花りっかだ。


「(こそこそ)あの署長さん、アタシのことめっちゃいやらしい目でみてきたんだけど! ワンコも見られてたよ!!」

「(こそこそ)えっと、いやらしい目じゃないと思うけど」

「(こそこそ)じゃ、なに?」

「(こそこそ)多分だけど、ササメさんがわたしたちのことを『調査隊』って説明したからだと思う。ロカちゃんみたいな有名人ならともかく、わたしたちみたいなどこにでもいそうなJKが混ざっているのが違和感あったんじゃないかな?」

「(こそこそ)あ、なるほど!!」


 六花りっかのやつ、そんなこと考えてたんだ。いくらなんでも署長さんに失礼すぎるんじゃないかな!!


 それにしても……。


 わたしは、さっき自分が言った言葉を頭の中で反芻する。


『わたしたちみたいなどこにでもいそうなJKが混ざっているのが違和感あったんじゃないかな?』


 よくよく考えたら、わたしたちみたいなどこにでもいそうなJKが、これから脈龍を倒しに行こうとしてるんだよね。そっちの方が違和感ありありだ。


 わたしは改めて、自分がとんでもないミッションに参加していることに身震いをした。

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