第44話 女子高生、贄の儀式の真実を知る。

「じゃあ、六花りっかちゃん、話しを進めるわね」


 ササメさんは、指先で瞳をぬぐうと、キリッとした表情になって、アタシに確認をする。


「はい!」

「あい!!」


 アタシの返事に反応して、三海みつみちゃんが手を上げながら元気に返事をする。


「あーい!!」

「あーーーーーーーい!!」


 三海みつみちゃんに反応して、一海かずみちゃんと海二かいじくんも手をあげた。


「きゃははははははは!」

「うひゃひゃひゃひゃ!」

「うふふふふふふふふ!」


 おそろいのポーズをした三つ子ちゃんは大喜びだ。

 うーん、これ、やっぱり話が進まない気がする。


「ほらほら! 一海かずみ! 海二かいじ! 三海みつみ! そろそろおねむの時間だぞ!」

「ぷいぷいぷい!」

「ぶぅーーーー!」

「いやんいやん!」


 田戸蔵たどくらさんの言葉に、三つ子ちゃんたちは抗議の声をあげる。でも、


「だめだ! 寝室行くぞ!!」


 田戸蔵たどくらさんは、ロカさんとアタシから海二かいじくんと三海みつみちゃんを無理やり引き剥がすと、大きな腕で三つ子ちゃんを抱える。


「おぎゃーーーー!」

「ぷぎゃーーーー!」

「うわーんーーー!」


 三つ子ちゃんはギャン泣きをして抵抗するも、田戸蔵たどくらさんは残酷だ。


「ここは俺にまかせろ! ササメとロカ、あとは頼んだぞ!!」


 田戸蔵たどくらさんは、なんだか死亡フラグみたいなセリフを残して、寝室へと進んでいく。

 

「おぎゃーーーー!」

「ぷぎゃーーーー!」

「うわーんーーー!」


 まだねんねじゃない!! と、必死に訴える三つ子ちゃんたちの断末魔を全身で受け止めて暗がりの寝室に去っていく。田戸蔵たどくらさんの背中はとてもおっきかった。


「ありがとう、あなた……」


 うっとりとした表情で、田戸蔵たどくらさんを見送っていたササメさんは、はっとして、アタシに振り返る。


「じゃあ、話しを戻すわね。まずは六花りっかちゃん、あなたが贄の儀式について、どれだけの知識を得ているか教えてもらえるかしら?」

「はい」

「贄の儀式は、ダンジョンを生み出す幻獣である、脈龍を鎮めるために行われている。脈龍は普段は眠っているけれど、二十年に一度ほどの周期で目覚めるの。そして、脈龍の生贄として捧げられるのが贄の巫女。この儀式の歴史は、西暦672年の壬申の乱までさかのぼる」

「はい。知っています。伊勢神宮の遷宮せんぐうが二十年に一度なのもそのためですよね」


 生まれたときから、父親から何千何万回と聞かされてきた話だ。


「でもその伝統は、いまからちょうど二十年前に破られる。先代の贄の巫女、津部田つぶた観調みつきさんの突然の失踪によって」

「そう! それが原因で起こったのが、十七年前の九州大震災! あれは人災よ。贄の巫女の責務から、津部田つぶた観調みつきが逃げ出した、自分勝手なわがままが起こした人災なの! あんな大惨事、二度と起こしちゃいけない!!」

六花りっかちゃんはそこまで知っていて、贄の巫女になることを望んでいるのね?」

「モチロンだよ!! 九州大震災で何十万人もの人が死んだんだよ!? 脈龍のせいで、一海かずみちゃんや、海二かいじくんや、三海みつみちゃんみたいな赤ちゃんも死んだんだよ!? そんなの耐えられるわけないじゃん! アタシひとりが犠牲になればいいんなら、喜んで生贄になるよ!!」

「本当に? 心の底から??」

「そ、そりゃあ、モチロン怖いけどさ! でも、それしか方法がないんなら仕方がないじゃない!!」

「他に方法があるとしたら?? 例えば、脈龍が、倒せる存在だとしたら?」

「え?」


 ササメさんが、少しだけ口角をあげた。


「まず、脈龍について説明しておこうかしら。脈龍はダンジョンを作り出す『幻獣』

のなかの一匹よ」

「はい。知っています」

「でも、脈龍は、他の幻獣とは明らかに異なる特徴を持っている。何かわかる?」

「えっと……身体がずば抜けて大っきなところかな? 全長10キロを超えるんだよね?」

「その通り。でもそれだけだと、正しい正解とはいえないわ。脈流の最大の特徴は、ダンジョンを宿すこと。脈流は千数百年ものあいだ、マナを体内に留める体質を持つ人間を食べて、少しずつ体内のダンジョンを巨大化させていった」

「それって、まさか……」

「ええ。贄の巫女と呼ばれている脈龍の生贄になった人たちよ。つまり、千数百年のあいだ脈龍を封じていると信じられてきた贄の儀式は、脈龍に力を蓄えさせて、脅威を次の世代に先送りするだけの行為に過ぎないってことなのよ」

「……そんな」


 アタシが生まれたときから父親に背負わされた任務っていったいなんなの? 今まで何十人と食べられていった贄の巫女は無駄死にだったってこと??


「幻獣に対する知識……つまり、シェールストーンとマナの知識が不足していた時代なら、贄の儀式を否定しきれなかったと思う。でも今は違う! 六花りっかちゃん、そして一子かずこちゃんの力を借りれば、脈龍を倒せるかもしれないわ」

「でも、どうやって……」

「うふふ。わたしはもう、答えを言っているわよ」


 答えを言っている?? ちょっと何言ってるかわからない。

 まったく見当が付いていないアタシを見かねたのか、ロカさんが話にくわわる。


「じゃあ、大ヒント!! 六花りっかちゃんと一子かずこちゃんが、何がおこったか覚えてるよね?」

「ふたりで協力して……ああ! 裏鬼門うらきもんのダンジョンの三階がなくなっちゃった!!」

「そう! 六花りっかちゃんと一子かずこちゃんが協力すれば、ダンジョンと現実世界が通じる穴を開けることができるの!」


 ヒサメさんが話しをひきつぐ。


「つまり、脈龍の体内に穴を開けることができるってわけ。その穴から体内に侵入して、本体であるゴールデンカナヘビを倒せば、きっと脈龍は消滅をするはずよ!!」







  

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