第42話 女子高生、拉致される?

*今回から六花りっか目線でのお話となります。


 ロカさんが運転するキャンピングカーが、ワンコの家の前に停まると、ワンコはリビングになっている後部座席から降りて、ペコリとおじぎをする。


「ロカさん、送ってくれて、ありがとうございました!」

「どういたしまして!」

「それじゃあな、一子かずこちゃん」


 ワンコのお礼の言葉に、ロカちゃんが返事をして、田戸蔵たどくらさんがつづく。


「じゃあね、六花りっか! 明日もいつものようにバス停で!!」

「りょうかい!!」


 アタシは後部座席のリビングから身を乗り出すと、バチっと親指を立てる。サムズアップだ。


「じゃあねー!」

「じゃあねー!」


 ふたりで手を振り合う。そしてアタシは、家に入っていくワンコを確認して後部座席のドアを閉めた。


「じゃあ、出発するね!!」

「はい!!」


 バックミラーでアタシのことを確認したロカさんが、静かに車を走らせる。


「え!?」


 車はアタシの家がある未神楽みかぐら神社を通り過ぎて、大通りを走り出した。


「あの……アタシの家、通り過ぎちゃったんですけど」

「知ってるよ! 今日、ううん。今日以降、六花りっかチャンは二度とあの家に帰ることはできないわ」

「ええ!?」


 どう言う意味? ちょっと何言ってるかわからない。


六花りっかちゃん、落ち着いて聞いてくれ」

「は、はい……」


 田戸蔵たどくらさんの普段とは違う真面目な声色に、アタシはうなづく。


「阿蘇山島に住む脈龍への贄の儀式なんだが、急遽、3日後に執り行われることが決まってな。贄の巫女である君を、未神楽みかぐら神社に返すわけにはいかなくなった」

「えええっ!?」


 なに? なに?? どうして田戸蔵たどくらさんが、アタシのことを贄の巫女だとしってるの?? そして、贄の儀式が3日後だなんて、アタシだって聞いてない!!


六花りっかちゃん、悪いが君のことを調べさせてもらったよ。贄の儀式の開催日程についても、信頼できる情報筋からだ。色々と理由をつけて延期させていたんだがな。強硬策に出たようだ」

「ロカちゃん、車を停めてください! 贄の儀式があるなら、アタシは家に、未神楽みかぐら神社に帰らなきゃ!! アタシは、贄の儀式のために、脈龍の生贄になるために生まれてきたんだから!!」

「ゴメンね六花りっかちゃん、車を停めることはできないよ」


 アタシの言葉に、ロカさんは申し訳なさそうに返答するけれど、車のアクセルを緩める様子はない。


「降ろしてください! アタシは贄の巫女なんだ!! 脈龍に食べられるためにう生まれたの!! その宿命を全うしなきゃ、アタシを産んで死んじゃった母さんに申し訳が立たないよ!!」

「黙れ!!!!!」


 キャンピングカーの中に、田戸蔵たどくらさんの怒声が響く。


「死ぬために、幻獣に食べられるために生まれてきた命なんてあっていいはずがない!! 六花りっかちゃん、お願いだから、一度ササメの話を聞いてくれ。君が生贄になる以外の方法を、いくつか用意してくれた」

「生贄になる以外の……方法?」

六花りっかちゃん、まずはササメの話を聞いてくれ。選択は君の好きにしてくればいい」

「ササメさんの話を聞いた後、やっぱり生贄になるってアタシが選んだら?」

「その時は、君を未神楽みかぐら神社に送り届けるよ。俺たちがするのは、あくまで提案までだ。答えを選ぶ権利は、六花りっかちゃん、君にある」

「わかりました。話を聞きます」

「ありがとう……」

「じゃあ、このままおじさんのマンションに直行するね!!」


 アタシは外を見た。ロカさんが走らせるキャンピングカーは、渋滞に捕まることなく、順調にぼんやりとした夜景の中を都心に向かって走っていった。




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