第31話 幕間劇

 突然だが、日本で3番目に大きい島はご存知だろうか?

 そう、本州、北海道、そして四国だ。続いて下九州しもきゅうしゅう上九州かみきゅうしゅうと続く。


 今から18年前、ダンジョンが発生する発端となった未曾有みぞうの大地震。これにより、大分県と熊本県の間に巨大な断層ができた。

 今では、震源地の阿蘇山が火山島としてその痕跡を残すのみで、断層は、数百メートルから、広いところでは十数キロにも及ぶ。九州大坤溝だいこんこうである。


 九州大坤溝だいこんこうとダンジョンの発生の因果関係は、日本国、及び国連からは一切の発表は行われていない。が、ダンジョンの発生時、必ずマグニチュード5以上の地震が発生することから、最早公然の秘密と化していた。


 だが、ダンジョンが発生する原因については、おおやけにされることなく、いまだトップシークレットとなっている。


 では、そのトップシークレット、ダンジョンの発生原因とは何なのか?

 ここはひとつ、当事者に語ってもらうことにしよう。


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 営団地下鉄、丸ノ内線、永田町の駅を出ると、右手になんとも奇っ怪なビルが見える。『探索庁本部庁舎』だ。地上64階、地下7階。ダンジョン、およびシェールストーンの管理を行ってに引き受ける国営機関だ。

 シェールストーンの発見により、今や世界一のエネルギー産出国となった日本において、大蔵省に匹敵しうる絶大な権力をもつ。


 探索庁局長の鶴峯つるみね辛一しんいちは、探索庁の最上階、64階の局長執務室で、第一秘書の犯林おかばやしの報告を聞いていた。


「阿蘇山島で眠ってる辰巳たつみの幻獣ですが、研究機関より今年中に目を覚ます確率が50%を超えたと報告を受けました。もし目覚めた場合、幻獣は阿蘇山へ向けて移動すると思われます」


 スリーピーススーツに身を包み、髪の毛をテカテカになでつけた犯林おかばやしは、表情をいっさいかえず報告を行う。


「ううむ、いよいよ待ったなしといったところかな?」


 報告を聞いた探索庁局長の鶴峯つるみねは、深刻な口調で返す。が、その表情には満面の笑みがこぼれている。嬉しいわけではない。彼はいつも笑顔なのだ。

 髪の毛を七三にわけ、白いタートルネックに茶色いチノパン。局長という地位からしては、いささかカジュアルな出で立ちの鶴峯つるみねは、話しをつづける。


辰巳たつみの幻獣が桜島に移動するとなると、下九州は2つに割れてしまうことになるね。やはり、贄の巫女を差し出すべきなのかな?」

「はい。研究機関からは、最早一刻をあらそう事態であると」


 犯林おかばやしの話に、鶴峯つるみねは笑顔のまま眉をひそめる。


「いくら千年以上つづいている慣わしとはいえ酷なものだね。年端もいかない若人を、幻獣に喰らわせるなど。できれば救いたい……が、その慣わしを軽視したことによる愚かな過ちにより起こったのが、戦後最大の死者を出した未曾有の災害、九州大震災だ。トロッコ問題としては、比較する死亡者の桁がちがいすぎる。やむ無しと言ったことろか」

「その贄の巫女、御神楽みかぐら神社の辰野たつの六花りっかについてですが、少々やっかいな報告がございます。どうやら『最強の探索者』及び『最高の探索者』田戸蔵たどくら夫妻とコンタクトをとっているようです」


 田戸蔵たどくら夫妻と聞いた鶴峯つるみねは、一瞬表情をかえるが、すぐに笑顔に戻ると、犯林おかばやしに質問する。


田戸蔵たどくらたちは、辰野たつの六花りっかが贄の巫女であることは知っているのか?」

「いえ。まだのようです。ですが田戸蔵たどくら夫妻のこと。事実を知れば、辰野たつの六花りっかを救うため、奔走をすることでしょう」

「だろうな。よし! しばらく辰野たつの六花りっかを泳がせることにしよう。研究機関には適当な理由をつけておいてくれ」

「承知しました」


 犯林おかばやしは、無表情のまま直角90°のお辞儀をすると、局長執務室を後にした。


(これは面白くなってきた。うまくいけばあの厄介なカナヘビを封印できるかもしれないぞ)


 鶴峯つるみねは、不自然にあげた口角を、さらに不自然につりあげた。





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