第23話 女子高生、専門家に資質をみてもらう。

 え? どう言うこと??

 ドアの向こうには、見渡す限りの赤い大地が広がっている。


裏鬼門うらきもんのダンジョンの荒野エリア?? なんで!!」

「非常ドアをあけただけなのに……」


 なんで、ドアを開けたらダンジョンにつながってるの??


「ダンジョンは、マナの空間がゆがんで発生していることと、移動のために魔法陣をつかっているのは知ってるでしょ?」

「はい」

「このドアを反時計回りにひねると、魔法陣が発動する仕組みよ。研究のために裏鬼門うらきもんのダンジョンに間借りをさせてもらっているの」


 そう言って、ササメさんはペロリと舌を出す。


「さ、入って入って」


 わたしと六花りっかは、背中をおされて非常ドアをまたぐと、


 じゃり。じゃり。


 足元から、乾いた赤土の音が聞こえる。本当に非常口とダンジョンが繋がってるんだ。

 ササメさんが非常口のドアを閉めると、ドアはそのまま、ダンジョンの背景に溶け込んで消えてしまった。


「それじゃあ早速、一子かずこちゃんと六花りっかちゃんの潜在能力を測りましょうか」


 ササメさんは腰につけたポーチを開けると、小さな針と赤いシェールストーンを取り出す。そして赤いシェールストーンをまじまじと見つめ始めた。


「えーっと……ここかな? えい!」


 ササメさんはおもむろにシェールストーンに針をさす。すると……。


 シューーーーーーーー。


 シェールストーンから、赤い煙が噴き出してきた。


「それって……マナ? ですか??」

「そう。シェールストーンのシェールは、ページって意味なの。マナは、シェールストーンの中に断層的に入っているから、そこを針で突けばこうやって簡単にマナが取り出せる仕組みなのよ。さあ、一子かずこちゃん、このマナに集中してみて」

「わかりました」


 わたしはいわれるがまま、ササメさんが手にあるシェールストーンから噴き出すマナに集中する。すると……拡散して吹き出していたマナが、まるで糸のように紡がれて、細く細くなっていく。


一子かずこちゃんはロカちゃんと同じ『創造の星』ね」

「そうぞうの……ほし??」

「マナの形状を変化させる資質のことだよ」


 チンプンカンプンなわたしに、ロカさんが説明してくれる。


「マナの形状を変化させて、長く伸ばしたり反対に拡散させたり、付加効果を付与したり。使い方はイロイロだよ! アタシのサンダーランスも『創造の星』の能力の応用なの。使い手が少ない、結構レアな能力だよ」


 正直ちょっとピンとこない。でも、ロカさんと同じ資質だなんて結構嬉しい。


「ササメさん! アタシの資質も早く調べて! 調べて!!」

「もちろん、いいわよ」


 ササメさんはふたたび針でシェールストーンに穴を開ける。


「さあ、六花りっかちゃん。この噴き出すマナに集中してみて」

「はい!! むむ、むむむ。むむむむむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 シュウウウウウウウゥゥゥゥゥ……ゥゥゥゥ……ゥゥゥ……ゥゥ……


 六花りっかがマナに集中すると、マナの煙がどんどんと弱まっていって、やがてまったく吹き出さなくなった。


「え? え? どうして?? もしかしてアタシ、才能がない??」


 六花りっかは、涙目でササメさんにすがりつく。


「ちがうちがう。この現象は『管理の星』の資質を持つ人の特徴よ」

「『管理の星』??」

「マナの繊細な扱いに長けた資質よ」

「なるほど!! アタシの繊細な性格が、資質にも現れるって事なのね!」


 繊細って……まったくどの口が言うかな……。

 わたしは、呆れ顔で六花りっかを見つめる。でも、わたしとは対照的に、ササメさんは口に手を当てて考え込んでいる。


「変ね。この方法で、ダンジョンの第三層を消滅させた能力が手がかりがつかめるとおもったんだけど」

「手がかり、ですか?」

「そう。シェールストーンを扱う資質は、現在、5種類が判明しているの。一子かずこちゃんと六花りっかちゃんが、まだ見つかっていない、特殊な資質の持ち主だって予想していたんだけど、アテが外れちゃったわね」

「じゃあ、いっそのこと、黄色いシェールストーンで試してみたらどうですか?」


 考え事をしているササメさんに、ロカさんが提案をする。


「ひょっとしたら、黄色いシェールストーンにだけに作用する能力とか」

「……そうね。試してみる価値はありそう」


 ササメさんは、黄色いシェールストーンに針で穴を開けると、再びわたしたちの前に差し出す。

 でも、結果は同じだった。わたしが集中すると、拡散していた黄色いマナは細く束のようになるし、六花りっかが集中すると、マナは噴き出すのをやめてしまう。


「あはは、予想が外れちゃった」


 提案をしたロカさんが頭をかく。


「手詰まりかしら」


 ササメさんの綺麗な顔にシワがよる。


「何か、初歩的なことを見落としているのかもしれないわね」


 ササメさんはスマホを取り出して、わたしたちの動画を見始める。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ふん!! うぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ……はぁはぁ。はぁはぁ。ダ、ダメだ! ワンコ手伝って!!」

「はいはい」


「よ、ようやく持ち上がった……!」

「はぁはぁ。つ、疲れた」


「5・4・3・2・1……飛んでけー!」

「5・4・3・2・1……どうにでもなれー!!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 わたしは、一連の動画を見て、あることに気がついた。ひょっとして……。


「ねえ、ササメさん、もしかして……」

「わかった! アタシとワンコが、同時に集中するのが条件だ!!」


 六花りっかもおんなじことを考えてたみたい。


「なるほど。試してみる価値がありそうね」


 ササメさんは、ふたたび黄色いシェールストーンを針で刺す。


「じゃあ、今度はふたりでお願いね」

「はい!」

「はい!」


 わたしと六花りっかは、ふたりで黄色いマナに集中する。

 でも、何も起こらない。


「手をつないでみるとか?」


 ロカさんのアドバイスにしたがって、わたしと六花りっかは手をつなぐ。すると……


 ぶぅぅぅぅぅぅぅぅぅん


 黄色いマナは、鈍い音を立てながら少しずつ変色をしていく。そして,


「だぁだぁ!! だだぁだぁだぁ!!」

「だあだあ!! だだあだあだあ!!」

「たぁたぁ!! たたぁたぁたぁ!!」

「こら、一海かずみ海二かいじ三海みつみ! 髪を引っ張るのは勘弁してくれ!!」


 黄色いマナの中に、三つ子ちゃんたちの世話をしている田戸蔵たどくらさんが映し出されていた。



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