第17話 女子高生、おじぃちゃんにダンジョンで起こった出来事を話す。

*ここから、再びワンコ視点のお話です。


 わたしはお風呂からあがると、お茶の間のちゃぶ台の前でくつろいでいるおじぃちゃんに玄関での話の続きをする。


 おじぃちゃんなら、きっと分かるはずだ。だっておじぃちゃんは、17年前、まだダンジョンが未知の脅威だった頃に、国に選ばれた伝説の探索者のひとりで、得意の剣術でモンスターを打ち倒す『最上の探索者』って呼ばれているんだもの。


 もっとも、わたしが生まれる前の話だから、詳しいことは解んないんだけど。


「あのね、今日、六花りっかと一緒にダンジョンにいって、黄色いシェールストーンを使ったの。そしたらね、わたしたちのいたダンジョンの第三層が突然なくなっちゃったんだ」


 わたしの話を聞いたおじぃちゃんは、首をひねりながら話を聞くと、腕を組んでしばらく考え込む。


一子かずこや、さっき『黄色いシェールストーンを使った』と言っておったが、一体どうやって使ったんじゃ??」

「どうって、普通に六花りっかのクロスボウで撃っただけだけど……」

「そのクロスボウは、プロモデルかい?」

「うん……そうだけど……」


 そこまで話すと、おじぃちゃんは首をひねりながら、右手をアゴにあてて、再び考え込む。


「ふむ、ふむ、なるほど……さっぱりわからん」

「おじぃちゃんにもわからない?」

「さっぱりじゃな。動画を撮影してるんだろう? そいつを見せてくれんか?」

「えー」


 オープニングを見られるの恥ずかしいな……わたしはスマホで動画アプリを立ち上げると、最初の3分ほどをスキップしてからおじぃちゃんにスマホを手渡す。


「なんじゃ? この破廉恥なかっこうは??」


 うん、やっぱ突っ込まれるよね。


「大人気ダンジョン配信者、霜月しもつきロカちゃんの初期コスチュームだよ」

霜月しもつき? ああ、田戸蔵たどくらくんとこのお弟子さんか」

「え? おじぃちゃん! もしかしてロカちゃんと知り合いなの!?」

「本人とは合ったことないがの。師匠の田戸蔵たどくらくんとは旧知のなかじゃわい」


 ちょっと『田戸蔵たどくらくん』ってのがよく解んないけど、おじぃちゃん、ロカちゃんの知り合いと知り合いなんだ。スゴイ!!


「そんなことより、黄色いシェールストーンを使った時の動画を見せてくれ」

「あ、そっか。そうだよね。ゴメン」


 あたしは一時停止をしていた動画を再生させる。


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『ふん!! うぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ……はぁはぁ。はぁはぁ。ダ、ダメだ! ワンコ手伝って!!』

『はいはい……なにこれ? めっちゃ重いんだけど!!』

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 うーん。改めて配信動画を観ると、なんだがコントをやってるみたいだ。


「のう、一子かずこや、さっきから花火がドンパチと打ち上がっとるが、なんじゃいこれは」

「視聴者からの投げ銭だよ。観ている人が花火を打ち上げてくれると、お小遣いがもらえるの」

「なに!? こんな破廉恥な格好をして小遣い稼ぎだと!? けしからん!!」


 しまった……余計なこと教えちゃった気がする。

 おじぃちゃん、六花りっかがスカートをたくしあげて、見せパンを映してる動画を観たら卒倒しちゃいそう。


「そ、そんなことより、問題はこっからだから、スマホに集中して!!」


 わたしは無理やり話しをうちきって、おじぃちゃんに動画に集中してもらう。


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 『5・4・3・2・1……飛んでけー!』

 『5・4・3・2・1……どうにでもなれー!!』


  ピシッバキバキ……バキ!

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「なんと!!」


 おじぃちゃんは、スマホを両手でもつと、配信動画を食い入るようにみつめている。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『え? え?? ちょっちょとワンコ、どういうこと!?』

『わたしだって聞きたいよ! 本当にどういうこと?!?!』


 バチ! バチバチッ! バチィ!!

 ピシッ……ピシッ……ピシッ……バリーーーーーーーーーーーーーーーン!!

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 配信動画では、黄色いシェールストーンを砕いた矢が空中にぶつかって、ダンジョンの第三層の空間を破壊する様がバッチリと映っている。


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『あ……えっと、なんだか大変なことになっちゃったから、今日は配信終わります!!』

『ごめんなさい!!』

『ばいばーい!!』

『ばいばーい!!』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ふうむ、なるほどのぅ」


 おじぃちゃんは、あたしたちの動画が終了すると、何やら深刻な顔をしながら、スマホをちゃぶ台の上においた。


「ふうむ、思ったよりもとんでもない事が起きておるの」


 おじぃちゃんは、あごに手を当てながらしばらく考えると。


「のう一子かずこや、黄色いシェールストーンの効果を知っておるか?」


 と、質問してくる。


「?? 効果もなにも、黄色いシェールストーンは交換所に持っていく以外使い道ないはずだよね」

「うむ『一般的』にはの」

「一般的にはって……どういうこと??」

おおやけには能力をかくしておるのだ。黄色いシェールストーンの本当の効力は『身体能力の向上』じゃ。じゃがその分、すこぶる身体に負担をかけるシロモノでな、実力が認められておる上級探索者以外には秘匿をしておるのじゃ」

「そうなんだ……ん? でも待って」


 わたしはおじぃちゃんに疑問をなげかける。


「わたしたち、身体能力なんて向上しなかったよ?」

「そう! そこじゃよ!! 黄色いシェールストーンであんな効果が起こるだなんて、聞いたことがない!! これは一度専門家に見てもらったほうがいいじゃろう」


 そう言うと、おじぃちゃんは老眼鏡をかけて、ガラケーを操作し始める。


「おう、もしもし、田戸蔵たどくらくんかい? はっはっは久しぶりじゃのう。子供はおおきくなったかね」


 え? 田戸蔵たどくらくんって、ロカちゃんの師匠たって言ってた、あの田戸蔵たどくらくん??


「すまんが、ササメくんに変わってくれんかの? 孫娘とその友達が、黄色いシェールストーンで、なにやら不可思議な現象をおこしてのう……」


 おじぃちゃんは田戸蔵たどくらさんから電話をかわったササメさんって人に、あたしと六花りっかが起こした現象を説明する。


「なるほど、うんうん、やっぱり興味があるか。やはりササメくんは根っからの学者気質じゃのう。ふんふん、なるほど? ちょっと孫にかわるぞい」


 おじぃちゃんはわたしをチラチラと見る。手を差し出すと、おじぃちゃんは携帯をわたしてくれた。


『はじめまして。田戸蔵たどくらササメです。さっそくだけど、一子かずこちゃんたちが配信しているチャンネル名をおしえてくれない?』

「は、はい。『JKエクスプローラー』です!」


 わたしが答えると、電話の向こうからカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてくる。


『あったあった。え? チャンネル登録数2万人を超えてるの?? すごいわねー』


 2万人!? いつの間に……。


『あと、メールアドレスを教えてくれない? 調査が済んだら報告をするから。SNSをやってるなら、そっちのアカウントでもいいわ』

「はい。はい。わかりました」


 わたしがSNSのアカウントを報告すると、すぐさまフォローの通知が飛んできた。


『じゃあ、また後で連絡するわ』

「はい。よろしくお願いします!!」


 わたしは電話を切ると、おじぃちゃんにガラケーを返す。


「ササメくんのことだ、きっと明日には理由を解明してくれるじゃろう」

「そんなに簡単に?」

「そうとも。シェールストーン研究において、彼女の右に出るものはおらん。なにしろ、世界で初めてシェールストーンの実用化に成功した『最高の探索者』じゃからのう。シェールストーンを砕くカードリッジ機構を開発したのも、彼女じゃよ」

「そうなの?? めっちゃスゴい人じゃん!! めっちゃ尊敬!!」

「そうじゃろう、そうじゃろう。今日のシェールストーン活用による、エネルギー大国ニッポンの基礎を打ち立てたのが、世界で最初にダンジョン攻略に成功した、わしたち10人の探索者なのじゃよ……いやー当時の探索は大変じゃった。なにせモンスターは未知の脅威じゃったからの」


 しまった! ダンジョン攻略話が始まった。子供の頃からもう何千回も聞かされてきた、おじぃちゃんの長い長い自慢話だ。


「あ! 六花りっかからチャット来ている!! わたし部屋に戻るね……」


 わたしはとっさにウソをつくと、大慌てで自分の部屋へと避難した。

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