第12話 女子高生、黄色いシェールストーンを武器として使ってみた。

 魔法陣を抜けると、そこは一面の草原地帯だった。


 裏鬼門うらきもんのダンジョンの構造は、第三層までが草原エリア。第四層からは、凶暴な恐竜型のモンスターが登場する荒野エリアになる。危険が伴うため、ダンジョンライセンス未取得での探索は推奨されていない。


 つまり、ダンジョンライセンス未所持のわたしたちが探索できる、最下層エリアってことだ。


 六花りっかは、浮遊カメラをセッティングすると、右腕をぐるんぐるんと回して気合を入れる。


「よし、SNSの告知もすんだし、始めるよ!! 今日の配信でチャンネル登録者数1万人超えを目指すんだから!」

「はいはい」


 いくらなんでもハードル高すぎじゃない??


 そう思いながら、わたしは、しぶしぶ六花りっかの隣に立つと、3メートルほど先に設置されていた浮遊カメラがふわりと浮かんだ。


「本番まで5秒前ー、3……2……1……はい! 再び始まりました! 『JKエクスプローラー!』いつもニコニコはなまる笑顔ロゥファでーす♪ そしてぇ」

「ワンコです! ワワわゎーーーーん!!」


 うん。今日は可愛くやれた気がする。


 わたしが、自己マンにひたっているあいだも、六花りっかは、左腕に装着したスマートウオッチで、視聴者のコメントをチェックする。


「早速コメントありがとう! お、ワンコちゃんカワイイだって!! ギフトも届いてる!!」

「え? ホントに??」

「ホントホント♪」


 六花りっかが突き出した左腕のスマートウオッチを確認する。

 ホントだ! しかも東京タワー!! え? 本当に??


「SNSでアンケートとったんだけど、アタシよりワンコ派がちょっとだけ多いんだよねー。ま、一番多かったのは『ふたりとも尊い』だったけど。

 お、ぞくぞくとコメントが着てるね。『ふたりがイチャイチャしてるのが最高の癒やしです』『ダンジョン配信以外でもふたりの掛け合いがみたい』だって」


 六花りっかは、視聴者とのやりとりも、めっちゃ堂々と仕切っている。この二週間、毎日動画をアップしてるんだもんな……飽きっぽい六花りっかが、まさかここまで真面目にやるなんて。


 六花りっかは、スマートフォンから目を離すと、カメラ目線になる。


「それでは、今日の企画を発表しまーす!

 題して『黄色いシェールストーンを武器として使ってみた』ぱちぱちぱちー」


 は? ぽかんとしているわたしをよそに、六花りっかはカメラ目線で話をつづける。


「みんなも知っているとおもうけど、シェールストーンは、赤、青、緑、白、そして黄色、全部で5色あります。

 赤は炎を生み出して、青は冷気をあやつります。緑は風や雷を生み出して、白は金属を強化します。でも、黄色だけはなんの効果もなくって、交換所に預けるしかできません」


 うん。知ってる。小学校6年のときに習ったもん。

 てか、5色のシェールストーンの効果は、いまや世界の常識といっても過言じゃない。


 六花りっかは、話をつづける。


「でも、本当にそうなんでしょうか? だからぁ、今回は、前回の配信でゴールデンカナヘビからゲットした、黄色いシェールストーンをこのクロスボウで射抜いてみようと思います!!」


 あ、なるほど。だから今日は武器を変えたのか。六花りっかがこの前使っていたショートソードじゃあ、カードリッジに入んないもんな。って、それよりも!!


「ちょ、ちょっと、ロゥファ!! それ、砕いちゃうの?? もったいない!!」


 あんなおっきなシェールストーンなんて見たことがない。お金に交換をすれば10万、ううん、50万円はくだらないはずだ。


「耐えるのよワンコ!! これも全てはバズりの為なのよ!」


 あ、ダメだ……六花りっかのやつ、瞳孔が開いてハイになっちゃっている。


「それじゃあ、早速試してみましょう!! 最初にクロスボウの弦を引きます!」


 そう言うと、六花りっかは、クロスボウの弦をひっぱって、弓矢をセットしようとする。


「ふん!! うぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ……はぁはぁ。はぁはぁ。ダ、ダメだ! ワンコ手伝って!!」

「はいはい」


 わたしは、六花りっかといっしょに思い切り弦をを引っ張って、なんとか弓をセットする。


「はぁはぁ。つ、つぎは、黄色の巨大シェールストーンをセットします!!」


 六花りっかは、クロスボウの先端にシェールストーンをセットすると、そのまま持ち上げようとする。


「ふん!! うぬぬぬぬぬぅぅぅぅぅぅ……はぁはぁ。はぁはぁ。ダ、ダメだ! ワンコ手伝って!!」

「はいはい」


 わたしは、六花りっかといっしょにクロスボウを持ち上げようとする。


「なにこれ? めっちゃ重いんだけど!!」


 黄色の巨大シェールストーンがめっちゃ重くて、なかなかクロスボウが上がらない。矢じりの先端にセットしてるためだ。

 支点(クロスボウ)と力点(わたしと六花りっか)との距離が近すぎるから、作用点となる、先端に巨大なシェールストーンついたクロスボウを持ち上げるのに、必要以上に力が必要なのだ。


「よ、ようやく持ち上がった……!」

「はぁはぁ。つ、疲れた」


 わたしたちは、どうにかこうにかクロスボウを構えると、十数メートル先でぼけーっとしているキノコ型に照準を合わせる。

 このまま引き金をひけば、矢はシェールストーンを砕いてキノコ型へと飛んでいく。


 赤や青のシェールストーンなら、炎や氷をまとった矢がとんでいくのだけれども、黄色のシェールストーンだとどうなるか、全く予想ができない。

 わたしと六花りっかは、そっと引き金に手をふれると、一緒にカウントダウンをする。


「5・4・3・2・1……飛んでけー!」

「5・4・3・2・1……どうにでもなれー!!」


 ピシッバキバキ……バキ!


 クロスボウの矢は、黄色い巨大シェールストーンにヒビを入れる。そして、


「え、なになに??」

「ひゃゃああ!」


 ギュウゥゥゥゥゥゥゥッン!


 ものすごい反動を受けたあたしたちは、クロスボウをまともに持っていられなくなる。矢は、まばゆいばかりの黄金色の閃光となって、キノコ型のはるか上空を通過した。


「あーあ、外しちゃった……」

「ちょ、ちょっとロゥファ! 見てあれ!!」


 矢をはずしてしょんぼりとする六花りっかに、大慌てで声をかける。


 バチ! バチバチッ! バチィ!!


 黄金色の閃光が、なんにもない空中で、衝突している。


「え? え?? ちょっちょとワンコ、どういうこと!?」

「わたしだって聞きたいよ! 本当にどういうこと?!?!」


 バチ! バチバチッ! バチィ!!

 ピシッ……ピシッ……ピシッ。


 閃光の周囲がひび割れている!? どういうこと??


 ピシッ……ピシッ……ピシッ……バリーーーーーーーーーーーーーーーン!!


 閃光の衝突に耐えかねた空中が、まるでガラスみたいにくだけちると、わたしたちは、ダンジョンの入口に立っていた。

 広い広い草原エリアで探索していたたくさんのお客さんが、入口にぎゅうぎゅうにひしめきあっている。


「え? え?? ええええ????」

「なんだなんだ??」

「俺達、第三層の草原エリアにいたはずだよな??」

「なんで、外に出てるんだ??」

「わ! 押すなよ!!」

「しょうがないだろ!! 第三層にいた連中が、みんな入口に飛ばされたんだからさ!!」


 もしかしてだけど、これってわたしたちが、クロスボウで黄色いシェールストーンを射ったから????



 

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