第9話 女子高生、カリスマ配信者の動画を見る。

『発車します』


 無機質なアナウンスとともにバスが走り出すと、六花りっかは、リュックからいそいそとスマホを取り出して、素早く動画アプリのアイコンをクリックする。


「ねぇねぇ、ワンコは見た? 昨日アップされたロカちゃんの最新動画」

「うん。今回もカッコよかったよね」


 六花りっかは、ワイヤレスイヤホンを片方だけ手渡してくれる。

 人気のガールズダンジョン配信者の動画を見ながら登校するのが、わたしたちの日課だ。


『L・O・V・E・L・O・K・A! さあ始まりました! ラブロカチャンネル!! ぱちぱちぱち~!!』


 今日の登校のお供は、人気、実力ともにトップクラスのティーンのカリスマ、露花つゆはなロカちゃんの動画だ。

 艶のある白い髪の毛を、六花りっかと同じサイドテールにまとめたロカちゃんは、満点の笑顔で話し始める。


『今日、アタシが探索するのは、裏鬼門うらきもんのダンジョンの第12層。湿地エリアです!!』


 カメラがパンすると、一面の湿地帯と、40代くらいのADのおじさんが僅かにみきれて映り込む。


「(ひそひそ)すごいよねー。いきなり湿地エリアを攻略するなんて」

「(ひそひそ)うんうん、男性探索者でも湿地エリアのモンスターと渡り合える人って数えるほどしかいないもんね」


 バスが走る中、動画を見ながらひそひそ声で会話をしていると、動画は再びロカちゃんを映す。


『ターゲットはもちろん、裏鬼門うらきもんのダンジョンの最強モンスター! サイクロプス型です。10メートル超えに出会えればいいなぁ。と、言ってるそばから現れました! 10メートル級のサイクロプス型!』


 ロカちゃんは、遥か遠くに見える、サイクロプス型に向かってさっそうと走っていく。コスチュームのジャケットには、ロカちゃんがイメージキャラクターを務める、清涼飲料水のロゴが移っている。


 人気のダンジョン探索者は、スポンサー契約を結んでいるのが常識だ。ロカちゃんもすでに何社もの企業とライセンス契約を結んでいる。


「(ひそひそ)いいなぁ、企業タイアップ。あこがれちゃう。そうだ! アタシたちもタイアップする? 御神楽神社と犬飼剣道道場! 参拝客と入門生アップにつながるかもだし!!」

「(ひそひそ)いやだよ!! 自分ちの住所を背中に張り出しているようなものじゃない!!」

「(ひそひそ)えー? いい考えだと思ったんだけどなぁ……」


 わたしたちが話している間も、ロカちゃんはサイクロブス型にどんどんちかづいていく。そして走りながら、30センチほどの白い棒を取り出した。


 ロカちゃんの専用武器、高純度シェールカーボン製の指揮棒だ。


 ロカちゃんはまるで踊るように指揮棒をあやつると、緑色の球体が彼女の周囲を回り始める。


『アップドラフト!!』


 ロカちゃんは、緑色の球体に向かって指揮棒をふると、球体はみるみると緑色の竜巻に変化する。彼女は迷うことなく竜巻の中に飛び込んだ。


 ビュウゥゥン!!


 切り裂く突風音とともに、ロカちゃんは空中を高速移動する。


 ビュウゥゥン!!

 ビュウゥゥン!!


 続けざまに2つの竜巻を作り出すと、ロカちゃんの飛行速度はさらにさらに加速する。あまりのスピードに、浮遊カメラが捉えきれないくらいだ。


『ぐぉお?』


 超高速で近づきてくる物体に、サイクロプス型が気がつく。でも、もう遅い。完全にロカちゃんの射程圏内だ。

 ロカちゃんは最後に1つ残った球体を素早く切り刻むと、指揮棒が激しい稲光をまとった全長3メートルほどの突撃槍ランスに変形した。


『いっくよー! サンダーランス!!!』


 ロカちゃんは電撃をまとった突撃槍ランスを両手で握りしめると、そのままサイクロプス型のひとつ目をつきさした。


 バチバチバチバチ!!

『ぐぉおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 弱点の目玉を串刺しにされたサイクロプス型は、なすすべもなく仰向けに倒れ込むと、


 ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ……


 赤、青、緑、白、そして黄色の、色とりどりのシェールストーンに変化した。


「(ひそひそ)きゃーーーーーカッコいいい♥♥♥♥」

「(ひそひそ)きゃーーーーーカッコいいい♥♥♥♥」


 わたしと六花りっかは、ヒソヒソと黄色い声をあげて身悶える。


「アイドル並みのルックスでめっちゃ強い!! やっぱロカちゃんはやっぱりサイコーだね♥」

「アタシ、絶対有名配信者になって、いつの日かロカちゃんとコラボ配信やるんだ」


 わたしたちが、キャッキャとさわいでいると……ん? なんだろう。視線を感じる。

 ふりむくと、優先席でこちらをガン見している逆村さかむらさんと目があった。逆村さかむらさんは、大急ぎで窓へと視線をうつす。


 ひょっとして、逆村さかむらさんも、ロカちゃんのこと好きなのかな? だったら、いっしょに動画をみればいいのに……。





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