第5話 女子高生、ゴールデンカナヘビと真剣勝負をする。

 よろこぶ六花りっかを横目でみながら、わたしはめっちゃ複雑な気分になっていた。


 わたしは、ダンジョン探索の動画が大好きだ。


 でも、わたしが好きなのは、わたしがなりたいのは、本格的な探索者。

 女の子なのに、自分よりも何倍も大きなモンスターを相手取ってさっそうと戦う、霜月しもつきカノエさんや、露花つゆはなロカちゃんのような、強くてカッコいい探索者なんだ。


 わたしは、ご機嫌で視聴者と話す六花りっかに声をかける。


「ねえ、ロゥファ」

「ん? ワンコ、どしたとした?」

「もしまたゴールデンカナヘビが現れたら、わたしが戦っていい?」

「もっちろん! ワンコお得意の剣道で、ぶったぎっちゃってよ!」

「うん。まあ、あくまで、また出たらの話しだけれど。あんなレアモンスター、そうそう現れないだろうけれ……」

「シッ!」


 六花りっかが右手の人差し指を口に当てる。そして左手で指さした先で、草むらがかすかに揺れている。


 ガサ……ガサ……ガサガサガサガサ!


「(ひそひそ)また出た! ゴールデンカナヘビ!!)

((ひそひそ)ワンコ、頑張って!! アタシも撮影頑張るから!!」


 わたしができるだけ小さな声でおどろくと、六花りっかがスマートウオッチを操作して、浮遊カメラの画角をわたしに合わせる。


 う、恥ずかしい……六花りっかのヤツ……余計なことを。


 まあ、いいや。ゴールデンカナヘビと戦えるなんて、一生に一度あるかないかの大チャンスだ。

 わたしは大きく息をはくと、ショートソードの柄に備え付けられたカードリッジに白いシェールストーンをセットする。


 ショートソードは「ブゥン」と鈍い音を立てて、刀身が白く鋭利に変化する。白いシェールストーンの能力、金属類の強化効果だ。


 わたしは、さっきのゴールデンカナヘビの行動を思い出す。

 ゴールデンカナヘビが、近づいてくる六花りっかに反応をしたのは、その距離が3メートル30センチまで近づいたとき。


 きっかけは何? 声? 足音? 匂い? それとも地面の振動??


 わからない。でもわからなくて構わない。要は、3メートル30センチの距離から瞬時に詰め寄って斬撃を浴びせればいい。


 わたしはショートソードを両手でもつと、右斜め下に構える。


 脇構えだ。


 剣道では、段位試験の型でしかつかわない構えだけれど、多分、これが一番良い。

 刀身を隠すように構えるこの構えなら、近づく瞬間に気づかれたとしても、刀身の長さを敵にさとられない。


 のこり9メートル……8メートル……7メートル。わたしは、じりじりと距離をつめていく。けれどゴールデンカナヘビは、ぼけーっとしたままだ。


 やっぱりだ。ゴールデンカナヘビは視力が弱い。少なくとも、3メートル30センチ以上距離を取れば、気がつかれることはなさそうだ。


 6メートル……5メートル……4メートル。


 そこで足を止めた。わたしの歩幅はだいだい70センチ。思い切り右足を踏み込んで飛びかかれば、充分に届く距離だ。


 おちつけ、おちつけ!!


 あたしは「ふう」と大きく息を吐くと、右足で思い切り地面を踏みしめて、ありったけのちからでゴールデンカナヘビに飛びかかった。


「陽の構え!! 庚太刀かのえたち!!」


 よし! 距離は充分!! このままショートソードを振り上げ……えぇ!?


 ゴールデンカナヘビが突然動き出して、わたしのショートソードはむなしく空を切る。

 しまった! 踏み込みで力みすぎた?? でもまだまだ!!


 わたしは振り上げたショートソードの柄のスレスレを左手一本で持つと、身体をひねって思いっきり背伸びをしてからショートソードを振り下ろした。


 とどけ! とどけ! とどけ! とどけ! お願い! とどいて!!!!


「ふぎゃっ!!」


 無茶な体制でショートソードを振り下ろしたわたしは、いっさいの受け身が取れずに顔面を強打する。


「いたたたた……そうだ! ゴールデンカナヘビは!?」


 わたしは、砂だらけになった顔をぬぐいながら周囲を見る。

 そこにはゴールデンカナヘビの姿はなく、かわりに、見たこともないくらい巨大な、黄金色のシェールストーンが落っこちていた。


「スゴイ! スゴイ!! お手柄だよワンコ! さすが剣道道場のひとり娘!!」

「え……ほぎゃ!!」


 わたしは、大喜びの六花りっかに背中から抱きつかれて、ふたたび顔面を強打した。

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