第2話 女子高生、ダンジョン配信デビューする。

 翌朝、わたしは、待ち合わせ場所の裏鬼門うらきもんのダンジョンへ向かう。

 服装は、トップスがジャージで、ボトムスはショートパンツに九分丈スパッツ。ダンジョンで汚れてもいいようにスポーティーないで立ちだ。


 ・

 ・

 ・


 ダンジョンがこの世に現れて18年ほど、世界は大混乱に陥ったらしい。

 なかでもダンジョンが多発した日本は、諸外国に国家の存亡を危ぶまれるほどだった。


 でも、とある財閥系企業の発表が状況を一変させる。


 モンスターがドロップする宝石のような物体『シェールストーン』。その中に閉じ込められてあるキラキラと光る『マナ』を抽出することで、エネルギー資源として活用できることが判明したからだ。


 以降、ダンジョンは貴重なエネルギー資源の採掘場所となり、日本国は世界一のエネルギー産出国となった。


 ……らしい。


 ま、教科書で教わった、ただの受け売りだけれど。


 ・

 ・

 ・


『次はうしとら町~、うしとら町~』


 わたしは、最寄り駅につくと、改札に向かう。わたしと同じように、スポーツウエア姿の親子連れやカップルが、ぞくぞくと改札に向かう。

 その手には、さまざな武器を持っている。

 かくいうわたしも、腰にレディース向けの『ショートソード』をぶら下げている。


 9時25分、あたしは待ち合わせ場所の『裏鬼門うらきもんのダンジョン』で六花りっかを待つ。

 10分後、待ち合わせの時間から5分遅れて六花りっかがやってきた。両手に紙袋をかかえて、ガサガサと騒々しく走ってくる。


「はぁ、はぁ、はぁ、早いね、ワンコ」

「あんたも思ったよりは早いじゃない!」


 六花りっかは、わたしの皮肉をガン無視して、紙袋をガサガサと言わせて何かをとりだす。


「じゃじゃ~ん! 今日はこれを着てダンジョンに行こうと思って!!」

「ええー!!」


 リッカが手に持っているのは、ピンクとオレンジ色の、まるでアイドル衣装のようなコスチュームだ。


「大人気ティーンダンジョン配信者、露花つゆはなロカのデビューコスチュームのカラバリレプリカだよ! なぜだかウチの裁縫部に紙形があったからさ、一週間ほど前からせっせと作っていたんだよねー。ほら、着替えよ、着替えよ!!」

「え? わ、わたしも!? ちょ、ちょっと待ってよ」


 六花りっかは、いやがるわたしをダンジョンのそばに設えられた更衣室に無理やり押し込む。そして10分後。

 わたしたちは更衣室を出た。


「な、なんだか恥ずかしいよ。おなかがスースーするし……」

「平気、平気、めっちゃ似合っているから!」


 そう言いながら、六花りっかは腹出しミニスカのピンクのコスチュームで決めポーズをとる。自分も色違いでおんなじコスチュームを着ている事実に顔から火が出てしまいそうだ。


 そんじゃ、カメラの準備するから!


「え!? カメラ!?」

「そう、ダンジョン配信!! お小遣いをはたいて買っちゃった!!」


 六花りっかは、腕にはめたスマートフォンを操作する。すると、球体状のカメラが「ふわり」と宙に浮いて、わたしたちの事を映している。


「それじゃ、本番行くよ!」

「本番っえ? え? そんなこと言われても心の準備が……」

「本番まで5秒前!」


 テンパりまくるわたしをガン無視して、六花りっかはカウントダウンをすると、大げさなくらいゴキゲンの笑顔でカメラに向かって話し始めた。


「はい! 始まりました。女子高生ダンジョン配信『JKエクスプローラー』! 記念すべき第1回目の配信でーす!! ぱちぱちぱちー」


 わたしもつられて拍手をする。

 

「早速自己紹介! アタシはロゥファ! 高校一年生。特技は裁縫でーす」


 は? ロゥファですと?? 六花りっかのやつ、自分だけ配信者ネームを考えてる。しかも、あごに手を当てて、あざとくピースする決めポーズつきだ。


ずるい。


「そしてとなりにいるのが……」

「わ、わた、わらしは、ワンコ! 高校一年生です。ワンワンわん!!」


 わたしはとっさに自分のあだ名を叫ぶと、両手でグーを作って犬の鳴き真似をする。


「今日は、最近一般に開放された、裏鬼門うらきもんのダンジョンに挑戦します! ダンジョンに入ったらもう一度ライブ配信するから。チャンネル登録よろしくね♪」

「よ、よろしくね!!」


 わたしは精一杯の作り笑いをしていると、六花りっかはスマートウオッチを起用に操作して着地をさせて、ビデオログの確認を始める。


「わ、見てみて!! いきなりギフトが届いてる!! すごいすごい!!」


 うん、わたし、怒ってもいいよね?


「ちょっとちょっと六花りっか! これ、どーゆーこと??」

「どうもこうも、見ての通りよ。アタシたち、たった今ダンジョン配信デビューしたの」

「デビューって!! そんなの聞いてないよ!!」

「そりゃそーだよ。ワンコのことだもん、事前に話したら絶対やってくれないじゃん。それよりみて、たった数分の配信で、コメントめっちゃ来てる! あ、『ワンコちゃんかわいい♥』だって」


 あ、ホントだ……嬉しい。って流されてる場合じゃない!!


「あ、あの、六花りっか、やっぱり、はずかし……」

「さ。次はダンジョンから配信するよ! 急いで急いで」

「ちょ、ちょっと六花りっか、話を聞いてよ!」


 六花りっかは、嫌がるわたしを無理やり引っ張って、そのままダンジョンへと通じる魔法陣に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る